2015-10-18
ランドル・ギャレット「魔術師を探せ![新訳版]」
自然科学のかわりに魔術が発達した平行世界、そのヨーロッパを舞台にした中編三作が収録。設定は現代ですが、描かれている生活は中世を思わせるものである。
「その目は見た」 魔術で何かできるかについてのフェアな説明によって、異世界ものとしてのルールをわかりやすく飲み込ませてくれます。一方で、ミステリとしての骨格は意外なくらいにオーソドックスなフーダニット。
関係者が限られているために意外性はそれほどないのだが、伏線は丁寧。驚くようなミスリードで煙に巻き、それをしっかり納得させる解決はこの作品世界の特性を生かしたものですね。
「シェルブールの呪い」 不可解な状況での人間消失事件、それが思いもよらない展開を呼び込んでいく。問題になる人物をめぐる奇妙なシチュエーションは、エラリー・クイーンのある長編を思わせるようで、ちょっとそそられる。
スパイ活劇風の味付けも楽しい一編ですが、ひねりの利いた状況が魔術そのものによるものではなく、魔術が存在するために起こってしまった、とするところが巧い。
「青い死体」 家具職人の工房から出荷されようとしていた棺桶、その中から全身を青く染められた何者かの全裸死体が発見された、というもの。
強力な謎とともに、解決のほうもこれが三作中で一番複雑ですが、魔術がここでは単にみせかけとして利用されている、というのが逆にスマートに感じられます。
異世界構築がしっかりとなされ、魔術の仕組みの説明も疑似科学っぽくて面白い。そこで行われる謎解きは手堅いものですが、意表を付いた手掛かりにはこの世界ならではのものがあります。
どれも非常にユニークでうまくできている中編集でした。
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