"Some are born to sweet delight / Some are born to the endless night"
1967年に発表されたノンシリーズ長編。原題「Endless Night」はウィリアム・ブレイクの「Auguries Of Innocence」という詩からきており、本作のはじめにはその作品からの引用がなされている。
そして、奇しくも同じ年のリリースになるドアーズのファースト・アルバム、そこに収められた "End Of The Night" という曲の歌詞にも同じ箇所からのフレーズが流用されている。
すでにそういう時代だったわけだ。で、そのことはこの作品のキャラクターにも反映されているように思う。
物語にはあらかじめ、不幸な終わりが待っていることが予告される。語り手は職業を転々としている若者。大人になりきれない、というかふわふわしていて、ありのままの現実からは目をそらしているようなところがある。そして、この語りのせいかなんだか御伽噺を聞かされているような印象を受ける。色々と不快な経験があっても、それらは奇妙なほどあっさりと描写されている。現実感が微妙に希薄なのだ。
また、プロットの方は一見すると使い古されたようなものの寄せ集めのようである。密度も高いとはいえないので、だれるところもある。
しかし、終盤に至ると様相は一変。切れ味鋭いフランス風ミステリとしての姿を見せ始める。
中心になっているのは非常にクリスティらしいアイディアだが、これまでとは違った手法でそれを描くことで新たな成果を生み出した、そんな気がします。
この作品のミスリードは語り手の人格を揺り動かすことで成立しているのだが、かっちりとしたミステリの話法を捨てることで、普通ならアンフェアになる表現が可能になっていると思う。
女史の作品を発表年代順に読んできて、正直、キャリアの終わりに近づくにつれて良いものがなくなっている、と感じていたのだけれど。まだ、こういうのがあったとは。
久しぶりにクリスティ作品で凄いと思いました。いや、まいった。
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