犯罪の可能性をほのめかす匿名の投書。普通なら取り合わないのだが、パーブライト警部には無視できないある極秘の理由があった。そして捜査の結果、当該する家屋からは死体を溶かして浴槽の排水管から流した痕跡が発見される。また、住人であった二人の男は行方をくらましていた。
1962年発表になる、パーブライト警部ものの三作目。
扱われているのは死体なき殺人ですが、猟奇性のある犯罪の上、地元警察を格下に見る情報機関が登場して独自に行動するなど、はじめのうちはまるで現代の警察小説のよう。しかし、その情報機関の仕事ぶりがまるっきりスパイ小説のパロディで、どんどんユーモア・ミステリとしての色彩を濃くしていきます。
一方で、バーブライト警部は地に足をつけた捜査を続けますが、事件の様相が一転、二転していくタイミングがよく、単調に陥りません。
テンポよく、なおかつ先読みできない流れを楽しみながらも、一体これはどういう種類のお話なのかな、と思っていると、終盤になってある手掛かりの持つ意味が反転、同時に事件全体を覆っていた罠が明らかになり、謎解き小説としてすっきりとした着地を見せます。馬鹿馬鹿しいと油断していた挿話にも伏線が潜んでいたりするのも良いです。
軽味を感じさせながら読み応えもあり、デビュー作であった
『愚者たちの棺』と比べても格段に洗練された一作でありますよ。
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