2017-10-01

フィリップ・K・ディック「去年を待ちながら〔新訳版〕」


2055年、地球は星系間戦争に巻き込まれすっかり疲弊していた。敵対する異性人で巨大な昆虫のような外見をしたリーグ、彼らには地球との和平の意思もあるようなのだが、その一方で地球が協定を結んでいる勢力であり、地球人の遠い祖先でもあるリリスターはどちらかが破滅するまで戦争をやめるつもりはない。そして地球を監視し、そこからエネルギーを搾り上げ、あげくは支配下に置こうとしているのはリリスターのほうなのだ。


1966年長編、新訳が出たので再読。
いやあ、こんなに面白い話だったっけ? とにかく展開がスピーディで、だれ場がない。その分、アイディアが出しっぱなしで処理されてなかったり、理屈が通っていないところ、説明不足な部分もちらほらあるのだが、とにかくぐいぐいと進んでいく。

登場人物たちの多くは常に強いストレスを感じており、気の休まるときがない。じわじわと、しかし確実に地球は破滅へ向かっているようである。そんな中、ある場所で逃避のために持ち込まれた新種の幻覚性ドラッグ、JJ- 180。それは実は極秘裏に開発された戦争兵器であり、体内に入ると致死性のダメージを与えるものであった。一方で、副作用として一時的な時間旅行がもたらされるようなのだが。

物語後半には多元宇宙の存在が浮かび上がってくるのだけれど、設定そのものはかなりいい加減。しかし、そこから引き出される謀略小説的な展開がとてもスリリング。意外極まりない仮説が矢継ぎ早に打ち出され、ページを繰る手が止まらない。
それなのに、状況を救うために命がけで奔走したあげく、どうだっていいや、俺にはもっと大切なことがある、という個人的な事情に収束する結末。まったくもってディックらしい。

ハラハラ、わくわくさせて、そして何故か泣かせる。かなりとっちらかった作品です。
なお、ハヤカワ文庫ではこの作品に続いて『銀河の壺なおし』『シミュラクラ』『戦争が終わり、世界の終わりが始まった』、それぞれの新訳を4ヶ月連続で刊行とのこと。まあ何と言うか、歳を取っても読むものは変わらないのだなあ。

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