2009-08-12
Beach Boys / All Summer Long
1964年リリース、ロックンロール・コンボとしてのビーチ・ボーイズを代表するアルバム。
まず、ジャケットが素晴らしい。これ以前のアルバムのジャケットは、今見るとややセンス古いかな、という気がするのだけれど。
この「All Summer Long」というアルバム、楽曲の題材としてはそれまでのサーフ/ホット・ロッドに密着したものから、サザン・カリフォルニアの若者のライフスタイルへと、すこし広がりを見せており、ジャケットもそれに呼応したようではある。
収録曲では、なんといっても冒頭の "I Get Around" が最高だ。この曲の数ヶ月前にリリースされた "Fun, Fun, Fun" はビートルズとタイマン張って勝つべく制作されたシングルであったが、チャートでは5位止まりだった。今ではポップクラシックであるが、"Fun, Fun, Fun" はまだ "Surfin' USA" 以来のチャック・ベリーにフォー・フレッシュメンを掛け合わせたスタイル、その洗練形の範囲にあったと思う。けれど "I Get Around" にはそれを越えたドライヴ感がある。新しいロックンロールが生まれた、といっていいのではないか。シングルチャートでも見事、1位に輝いた。
メロウな曲ではカバーではあるが "Hushabye" がもう、聴いていてどうにかなってしまうんじゃないか、というくらい美しくて。コーラスは無論のこと、バックのアレンジも素晴らしい。ドラム、ベース、ピアノくらいしか入ってないようだし、シンプルな演奏なのだけれど。曲のはじめのところ、ベースが入ってくる瞬間や、ピアノが単音のフレーズからコード弾きに変わるところなどゾクゾクさせられる。
中間部のマイク・ラブのナイーヴなヴォーカルもいい。と、いうか良くないところのない名演。
このアルバム制作の後、しばらくしてブライアン・ウィルソンはツアーから離れてしまい、ビーチ・ボーイズの音楽は徐々に内省性を強め、アレンジも複雑化してゆく。
「All Summer Long」はそうなる以前の、アメリカの若者が抱く憧憬が屈折なしに表現された最後のアルバムということだ(表題曲が映画「アメリカン・グラフィティ」の最後に使われたことは象徴的)。ビーチ・ボーイズとしてはサーフ・インストが収録された最後のアルバムでもある。
ロックンロールに楽観性が生きていた時代。それゆえか、勢い一発のような曲もある。けれど現代においてその出来を云々するのも見当外れかもしれない。
ひたすら無垢、というより無邪気な音に打ちのめされればいいと思う。
2009-08-05
Freda Payne / Band Of Gold
「Band Of Gold」はフリーダ・ペインが1970年に、インヴィクタスからでは最初にリリースしたアルバム。
モータウンから独立したホランド=ドジャー=ホランドが設立したインヴィクタスおよびホット・ワックス。フリーダ・ペインはそこにおける新たなダイアナ・ロスであったのかな。
彼女はインヴィクタス以前にはジャズを歌っていたそうで、なるほど聴いていても、それほどソウル的な力感を感じるヴォーカルではない。けれど、可愛らしい声でしっかり歌っていて、好感が持てます。気張ると却って子供っぽく響くのだけれど、それも悪くないです。ちゃんと伝わってくる。
音のほうはモータウン時代のH=D=Hのアレンジの流れを汲みながら、ミックスではストリングスの音量控えめ、リズムが強めのすっきりした仕上がり。あと、'60年代のものと比べるとやや曲のテンポが抑えてあって、ミディアムであってもちょっと踊り難そうかな。けれど、フリーダの発声のはっきりした丁寧なヴォーカルが映えるテンポではあります。
楽曲もポップでキャッチー、いい出来のが揃っていて、H=D=Hが彼女に力を入れて売り出そうとしていたのが判ります。
このアルバムより後のものでも良い曲は入ってるのだけれど、音のほうがデトロイト・ノーザンの溌溂としたスタイルではなくなってきているので、個人的にはやはり「Band Of Gold」の新しいものが始まるような勢いが好みです。
ソウルのリスナーよりもガールポップのファンに勧めたい作品。
2009-07-28
William DeVaughn / Be Thankful For What You Got

涼し目のソウルでひとつ。
一発屋、ということになるのかな。ウィリアム・ディヴォーンがフィラデルフィアのシグマスタジオにおいて、自費で録音したシングル "Be Thankful For What You Got" は、レコードレーベルに買い上げられたのち1974年にミリオンセラーに。
それを受けて出されたアルバムは、なかなか微妙なバランスの上に成り立っているような、ちょっと他にない個性のものであります。
ディヴォーンのスタイル、というのはカーティス・メイフィールドのメロウな面を抽出し、水で薄めたような印象。ヴォーカルは下手ではないが、それほど黒さや存在感があるわけでもない。スピリチュアルな感じはするけれど。
その分、バックの演奏が際立っています。フィリーのセッションマンたち、MFSBはここでは華麗さは控えめでちょっとラフな感じ、リズムが大きめにミックスされてるのが特徴です。ストリングスが入っていない曲も多く、小編成ゆえに演奏のグルーヴが伝わって来やすい。そのあたりが、このアルバムに現代的なテイストを与えているのではないかな。
ディヴォーン自身の手による楽曲は、どれもなかなかのレベルにはあるのだが、ワンパターン気味です。それが逆にアルバムを頭からケツまで通して、気持ちよく聴くことができる理由のようでもあって。
なんか、中途半端がちょうどいい塩梅になった、そんな天然もの。クールで格好いいです。
2009-07-26
Marva Whitney / It’s My Thing

ジェイムズ・ブラウン一座のソウル・シスターNo.1、マーヴァ・ウィットニー。アイズリー・ブラザーズの "It’s Your Thing" のアンサーソングである、"It’s My Thing" がヒットしたことを受けて、1969年に制作された彼女のファーストアルバムです。英国でCD化の際、シングル曲等がボーナスで追加されています。
‘60年代後半、ジェイムズ・ブラウン・バンドが絶頂にあった時期だけに、素ん晴らしくゴリゴリのファンクが堪能できます。クライド・スタブルフィールドのドラムがすさまじい。
肝心のマーヴァの方ですが、ジャケットには可愛らしく写っているけれど、唄の方はテンション高くシャウトが多用されるもので、そんなに叫びまくって喉は大丈夫? と思うほど。ただ、スロウの曲でもサビに来ると全開になるのですが、普通に歌っているところでは、あれ、それほど上手くないのかな、という感も。とにかく迫力のある演奏に負けない気合の入ったものであるのは確か。あと、リズムに乗ったしなやかさが身上かな。
明らかに音質が違う曲が含まれていて、おそらくライブで演奏した録音をスタジオで手直ししたものだと思われるのだけど、そうすると当時は未レコード化の新曲もステージにかけていたということで、相当勢いがあったのだね。また、レコーディングとライブを同じメンバーでこなしていた強みもあるか。
あと、アナログの各面の最後に当たる曲がインストであって、マーヴァの歌を期待したらガッカリかもしれないですが、これらが非常にいい出来で、特に "In The Middle" という曲はむき出しのリズムがループ感のある格好良さ。このベースいいなあ、スウィート・チャールズか? と思って調べたらティム・ドラモンドでありました。凄いね。
一枚のアルバムとしてこれほど純度の高いファンクが詰まったものも、そうは無いでしょう。JBのファンなら押さえていたい一枚ですな、やはり。
2009-07-13
ポール・アルテ「赤髯王の呪い」

あらためて、アルテは日本の新本格とシンクロしているようだ、という感を持ちました。
2009-07-05
松本寛大「玻璃の家」

島田荘司が選者を務める「福山ミステリー文学新人賞」の第一回受賞作。
島荘先生の言葉を借りると「『相貌失認(そうぼうしつにん)』という、人相を把握できない珍しい脳の障害を得た目撃者、コーディ少年が、心理学者とともにいかにしてこの障害を乗り越え、犯行者を発見していくか」というお話。
舞台はアメリカ、ニューイングランドのさびれかけた町。廃墟となっている屋敷に潜り込んだコーディ君が、死体を燃やしているところを目撃してしまう。事件としてはそれだけです。
コーディ君は犯人の顔を見ているのだけれど、それをうまく認識することができない。心理学科の研究員、トーマはコーディ君の目撃者としての能力を計りつつ、証言の信憑性について判断を下さねばならない。
実際の事件の捜査は警察に地道な聞き込みによって絞られていくものであり、そこにはミステリらしい飛躍はあまりありません。関係者は限定されていき、結構早い段階で犯人はわかってしまいます。しかし、証拠がない。踏み込んだ物的調査をするにはコーディ君の証言が必要なのですね。
そうした捜査の描写の合間に、舞台となった屋敷にまつわる過去の出来事が語られます。17世紀の魔女狩り、屋敷内のすべてのガラスを取り除いてしまった奇妙な男、打ち捨てられた後の屋敷でラリっているうちに死亡したヒッピー。それらと現代の事件との繋がりが次第に明らかになっていき、物語が広がりをみせていく。
文章は新人とは思えないくらいしっかりしているのですが、反面実直すぎてケレンがなく、ミステリとしてはどうかな、と思いながら読んでいました。事件の捜査をしてるのは警察で、探偵役らしいトーマはコーディ君の能力を調べてるだけだし。犯人バレてるし。
それが解決編に至り、怒涛の勢いで仕掛け・トリックが明らかにされていくので、この変化には驚きました。それまでリアリスティックな捜査小説だったのが、一気に本格ミステリとしてのスケール感が爆発していきます。逆に、この最後の部分だけに目一杯詰め込み過ぎたため、物語全体として割りを食っている感じも。
地味な展開と派手な解決のバランスがあんまり良くない、という印象は持ちましたが、新人離れした構想力と小説のうまさがある、というのは間違いの無いところ。
ただ、巻末に挙げられた心理学関係の参考文献の量も半端ではなく、このスタイルだと量産は効かないだろう、という気はします。
2009-06-28
獅子宮敏彦「神国崩壊 ― 探偵府と四つの綺譚」

個々の短編は非常によく出来ています。不可思議で魅力的な謎と、それにしっかり応えるだけの大きな真相が用意されていて、ミステリとしてのスケールがでかい。新たなトリックメーカーあらわる、という感じですよ。
更には、それらを包む異世界の構築が素晴らしいし、物語も線が太くて読ませます。
と、言うことないんだけれど、謎が物語によく融けこんでいる分、せっかくの奇想の印象が薄いものになっている、という気も個人的にはする、贅沢なはなしだけれど。
というかミステリ読んでる気がしないのね。ファンタジーみたい。むろん良く出来た、ね。
そうした迫力ある短編部分に対して、外枠の物語の方は随分さらっとしたもの。会話文もラノベみたいで軽いし、全ての短編に巡らされた趣向が明らかにされるんだけれど、ふ~ん、そうなるんだという感じ。
これは意図して重厚さを避けてのものだろうし、好きずきなのかな。正統的なミステリとして最後はまとめた、という印象を受けました。
まあ、力作っすね。エンターテイメントとして密度が高い。
作者は寡作なひとのようでありますが、次も読みたいです。