2012-04-21
Sam & Dave / I Thank You
英Edselより、サム&デイヴのスタックス制作のアルバム四タイトルが2in1、2in2のセットでリイシューされまして。ボーナストラックも入っているので、これらでスタックス期のものは網羅されているのかな、と思ったのだけれど実際には漏れている曲がありますね。
今回リイシューされたアルバムはどれもステレオミックスが採用されています(ただし一作目「Hold On, I'm Comin'」に収録されている "You Don't Know Like I Know" のみ、モノラルにはあるパーカッションがステレオには欠けているため、モノ版を採用。なら、両ミックスとも入れて欲しいのが本当のところですが)。
初期のアルバムには、曲によってはボーカルがセンターに定位していないものがあって、それはちょっと迫力に欠けるかな。
あと、細かいことを言うと "Soul Man" の唄い出しがステレオとモノではちょっと違います。
改めて聴いてみて、スタックス期のサム&デイヴに関しては、どのアルバムも甲乙付けがたい、という印象を受けました。勿論、時代的な変化はあって、最初のころの凄くオーソドックスなサザンソウルから、次第にちょっと凝ったアレンジのものが増えていきますが。基本的にはどれもアイザック・ヘイズ&デヴィッド・ポーター制作であり、演奏しているのもスタックスのハウスバンドであるMG'sやマーキーズなので、出来の良し悪しにはそんなに差がないかなと。
「I Thank You」は1968年、スタックスとの提携が切れた後にアトランティックから出されたアルバムでありますが、収録されている曲は全てスタックスで制作されたもの。ライナーノーツによれば、過去のアルバム用に録音されながら未使用だったトラックも多く含まれているそうで、なるほど、そういわれれば音の感触が違うものが混じっているな。
ヒットしたタイトル曲はゴスペルとファンクを結びつけた強力なナンバー。ロック的なギターも聴かれ、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの影響を感じさせながらも、それを乗り越える脂の乗ったボーカルが素晴らしい。クラヴィネットも格好良く決まって。
そのシングルB面であった "Wrap It Up" はそれまでのサム&デイヴのスタイルをファンクでやったというものでありますが、これも良い出来です。
また、ストリングス入りの都会的なものもいくつかあり、これらがいずれもロマンティックな要素がデュオの持ち味に合った良いさじ加減で、気持ちいいな。
中では "Everybody Got To Believe In Somebody" が南部色は薄まっているけれど、オーソドックスなデュエットで気に入っています。
2012-04-18
Dr. Feelgood / All Through The City (With Wilko 1974-1977)
ウィルコ・ジョンスン在籍時のドクター・フィールグッド、その音源及び映像をまとめた3CD+DVDセット。
ブックレットには当時を振り返るウィルコのインタビューも掲載されているんだけど、そこそこの量でちゃんとした読みでがあります。
デジブック仕様なんだけれど、最近たまにみるCDが取り出し難いタイプ |
ディスク1、2にはライヴを含むアルバム四枚を収録。それらアルバムのうち三タイトルは2012年リマスター。音圧が高いね。「Down By The Jetty」のみ2006年となっており、おそらく以前モノラル+ステレオの2CDで出されたコレクターズ・エディションと同じリマスターと思われます。
ディスク3はレアトラック集で、23曲中16が未発表(収録時間の関係からか「Stupidity」のおまけシングル曲はこちらに収録)。
目玉はDVDですね。僕はアマゾンで輸入盤を購入したのだけれど、NTSC仕様であって日本向けプレイヤーで問題なく見ることができます。
収録されているのは全て1975年の演奏で、どれも実に格好いい。
TVショウ「The Geordie Scene」から7曲。9割が若い姉ちゃんという客層の前であるけれど、そんなことは関係なく熱いR&Bをぶちかます。画質も上々。
音楽ファンにはお馴染み「Old Grey Whistle Test」からは3曲。パフォーマンスはやや大人しめか。音が凄くいいのは流石。
「45 (With Kid Jensen)」からは "Back In The Night" 一曲だけですが、リー・ブリローがスライドを決める姿が拝めます。
そしてサウスエンドでのライヴ。「Going Back Home」としてこれは単独タイトルで出ていたものですが、そちらは現在は入手し難くなっているため、ここにまとめて入ったのは嬉しい。
画質はそれほど良くないですが、当時のリアルなステージを見れるという点でこれ以上のものはありません。全8曲、攻撃的な演奏にウィルコが動きをキメまくる姿を堪能できます。
次にフィンランドのライヴから二曲。ステージ脇から一台のカメラで撮ったもので、引きの画が全くないし、客席も映らないのでどれくらいのハコであるのか判りませんが、臨場感はあります。音があまり良くないのが残念。
最後にインタビューがあって、DVD全体では70分くらいかな。
「Going Back Home」付属CDの音源が漏れているのが惜しいですが、最新リマスターと初期映像の集大成として凄く良心的なパッケージではないでしょうか。
2012-04-15
Joe and Bing / Daybreak
男性フォークデュオ、ジョー&ビングのファーストアルバム(1971年)。プロデュース及びアレンジにはエウミール・デオダートと、レフト・バンクも手がけているハリー・ルーコフスキーの名前がクレジットされています。
彼らのハーモニーはサイモン&ガーファンクルの影響を感じさせる清新なもの。そこに、デオダートらの手による品の良い管弦が合わさって、とても爽やかな音像です。
収録曲も二人のオリジナルが中心で、派手さはないけれど、どれも良い曲ばかりでありますよ。
アルバム冒頭のタイトル曲 "Daybreak" はちょっと湿ったメロディで、粒立ったギターのアルペジオと美麗なストリングスの組み合わせがアルゾを思わせますが、ひんやりとした音像はどこかヨーロッパ的。一瞬入ってくるピアノなど、とてもセンスがいいなあ。また、アルゾといえば "It's OK" という曲もあって、これはもろアルゾ&ユーディンみたいだ。
穏やかなフォークロックの "I'm Not Forgetting Your Name" はトランペットのフレーズがいいフックになっています。アラン・ローバーの手がけたオルフェウスに近い雰囲気。
ユニゾンのボーカルがハーパーズ・ビザールみたいで可愛いのが "Drifting With The Time"。アコースティックなのでさしずめ「4 (Soft Soundin' Music)」というところかな。
そして、特に気に入ったのが "Summer Sound" という曲。ちょっと跳ねたリズムにブラジルっぽい雰囲気の管弦の組み合わせで、哀愁漂う仕上がり。これはデオダートのセンスですな。
また、ボサノヴァの "Sail" はまるでA&Mレコードみたいで、これも凄く好み。瀟洒なポップスであって、エンデイング近くのコーラスも決まっています。フルートの使い方がこれまたブラジル的かしら。
良質なメロディが揃っているけれど、ともすれば内省的になりそうなフォークデュオ。それを色彩感あるアレンジが救っていて、下世話でないポップスに仕上がっていると思います。
サンシャインポップというにはナイーヴ過ぎて、けどそこがいいな。
2012-04-08
Badfinger / Badfinger (eponymous title)
バッドフィンガー、ワーナー移籍後一枚目のアルバム、1974年リリース。
このアルバムはレコード会社との契約がきつかったために、アップルでの最終作「Ass」のレコーディングが終了したわずか一月半後に制作が始まったらしい。その強行スケジュールがたたったせいか、正直、練り込み不足という感じの、弱いマテリアルも含まれています。
特にジョーイ・モーランドの書く曲はアメリカ志向の大味なロックンロール、という感じのものが多くて、それらは一、二曲ならウエットに流れがちなアルバムの雰囲気を中和する効果があるのだろうけど、四曲もあるとさすがにテイストが違いすぎるかと。
その一方でサウンド面では、なかなか意欲的な取り組みが目に付く。
ジョン・コッシュの手によるスタイリッシュなアートワークはまるでモダンポップのアルバムのようであるけれど、それに照応するように、この作品では多彩な楽器の導入や、変ったエコー処理など、さまざまな面白い試みがなされています。これはプロデューサーであるクリス・トーマスの貢献なのだろうけれど、そのことにより従来からのパワーポップだけでない、バンドの新しい顔が引き出されているようでありますよ。
中でも、トム・エヴァンス作の "Why Don't We Talk" のイントロで、SEに導かれ、遠くでハーモニーが聴こえるうちにバンドが入ってくるところなど、実に格好いい。
とはいえ個人的に一番好きなのは、やはり泣きのメロディ、フックが素晴らしい "Lonely You" かな。ピート・ハムならでは、というか彼でしか書けない曲でしょう。
決して手放しで褒める気にはならないけれど、これもファンにとっては大事な一枚です。
2012-04-01
ジョン・ディクスン・カー「蝋人形館の殺人」
アンリ・バンコランものの新訳。
セーヌ川に浮かんだ令嬢の他殺死体。事件の捜査に乗り出したバンコランは、最後に被害者が入るのを目撃されながら、そのまま消えてしまったという蠟人形館に赴いた。だが、そこで発見されたのは、展示されているサテュロス像に抱かれている別の女性の死体であった・・・。
カーの作品のなかでもごく初期に属するものでありますが、割合にすっきりとした仕上がり。おどろおどろしい演出が上手くはまっている上に、邪魔になっておらず、いい塩梅で。
最初に提示される人間消失の謎はすぐに解けてしまいます。そうすると興味は犯人探しになるわけなのだけれど、事件の構図や容疑者が二転、三転。バンコラン自身もなかなか目星が立てられない。
ただ、シビアに見れば捜査は穴だらけなのですが、そこを言うと作品自体が成り立たないところがあるかな。
意外な真相は説明されてみると、蠟人形館という舞台が必然であったことがわかります。少し観念的ではあるけれど、この趣向は素晴らしい。
また、細かな手掛かりや、そこから導き出されるロジックが冴えています。伏線も大胆で、好み。
まあ、謎そのものはカーにしてはやや軽いけれど、オーソドックスなフーダニットとしてよく出来ており、推理の妙が充分に楽しめる作品でありました。
2012-03-24
セバスチアン・ジャプリゾ「シンデレラの罠」
「わたしはこの事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、犯人なのです」 ―なんと心惹かれるフレーズだろう。
しかし実は、大昔に読んだときには、あまり楽しめなかったのだ。記憶消失にかかったヒロインのアイデンティティをめぐるお話であるけども、煮え切らない内面描写に途中でうんざりして「お前が本当は誰であろうと知ったこっちゃあねえ」という気持ちになってしまった(ついでに言うと、新本格系の作家のデビュー作で、この作品の線を狙ったような「一人X役」を謳い文句にした作品を二つばかし読んで、そのどちらともてんで面白くなかったことにより、更に印象が悪くなったのだ)。
だから新訳が出ると知ったときも、一旦はこれはいらないねと思ったのだけれど、旧訳には不備があった、とか、訳が改まってミステリとしての面目が一新した、という評判を目にしてしまい、ついつい買ってしまった。
実質、中編といっていい作品で、すぐ読めるしね。
物語は、巨額の遺産を相続していながら、顔と手に大火傷を負って本当は誰だかわからなくなった若い女性による一人称で語られる、いわゆる心理サスペンスだ。
それが、物語の半分も行かないうちに事件の種明かしがされ、続いて、動機となったものが三人称で説明されてしまう。
ミステリとしては、ここまでで終わっているように見える。たとえ、この時点での解答が間違っていたとしても、その場合は企てが最後の段階で失敗したのだ、という予想もできる。Aと思われていたものが実はBだった(と思わせてやはりAだった)という、ごく狭い範囲での可能性だ。
実際、中盤からは犯罪小説としての様相を強めていく。
だが・・・。
ポール・アルテも手がけている翻訳家・平岡敦氏の力か、記憶にあったよりずっと理性的な小説で。
ミステリとしては破綻している部分がある(映画ならこれでいいのだが)と思います。
けれど、とても美しいかたちを持つ作品でありました。
うん、読んで良かった。
2012-03-23
Gilbert O'Sullivan / Himself
ギルバート・オサリヴァンのリイシューが英Salvoで進められているのだけれど、この「Himself」は1971年のデビュー・アルバム。
下世話過ぎず、かと言って私小説的でもない。端整なポップソングが1ダース+。
シングルヒットした "Nothing Rhymed" は流石の出来栄えだけど、その他も良く練り込まれた曲ばかりだ。
マッカートニー的でありつつ、もっと古いところにルーツがあるような親しみ易いメロディには、意外な展開を秘められているが、それが決してわざとらしくはならないのが素晴らしい。
一方、淡々としていながらも癖のあるボーカルからは、強固なキャラクターが伺われるようである。そう考えながら聴くと、ユーモラスでちょっとセンチメンタルな中にも、ニルソンあるいはレイ・デイヴィスを思わせる皮肉っぽさも漂っているよう。
また、殆どの曲がピアノ・オリエンテッドでミディアムテンポなのに、アルバム全体としてはヴァラエティを感じさせる多彩なアレンジも見逃せない。
オールドタイミーなものからバロック・ポップ、ジャジーなものやビートルズを思わせる展開の曲まで。落ち着いていながら、カラフルでもあって、その節度がいかにも英国的であり。
新しくはないかもしれないが古びることも無い、そんな個性と瑞々しさが共存する。
デビュー盤でしかありえないきらめきが詰まった一枚。
今回のリイシューでは、ボーナストラックは勿論、ブックレットには本人による全曲解説や歌詞も掲載されているのが嬉しいところです。
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