2013-06-01
The Beach Boys / Wild Honey
1967年のビーチ・ボーイズ、最後のモノラルミックスアルバム。
レコーディングはブライアン・ウィルソンの自宅スタジオで行なわれたそうで、それまでの複雑なものから、ぐっとシンプルな構成のものになっています。凝ったコーラスやアレンジは無いし、メンバー自身が中心となった小編成の演奏はときにチープさも感じられるのですが、それらが親しみやすさに繋がっているようでもあり。
サウンドにおいてはデッドな音処理が特徴的で、特にボーカルが生々しい。ミックスも随分ラフな感じ。
音楽的にはR&Bテイストの導入というのが挙げられまして、いくつかの曲ではカール・ウィルソンが気張った声を聴かせます。でもビーチ・ボーイズですから、全然黒くはならないし、軽い。サイケ時代の名残りみたいなところもある。んで、それがいい。チャーミングな味付けにとどまっているのが、かえってポップスとしてはいい塩梅かな。
そういった曲の中でのベストは "Darlin'" でしょうか。出来の良い曲はやはりしっかりとプロダクションが施されていますな。
個人的には "I'd Love Just Once to See You" のような穏やかな小品が好きです。ブライアン・ウィルソンのシンガーソングライター路線、と言ったらよいか。次作の「Friends」だと "Busy Doin' Nothin'" とかね。
いいメロディもそこそこ揃い、リラックスして、普段着の魅力をたたえた一枚だと思います。フレッシュで温かみのある、新しいビーチ・ボーイズの始まり。
2013-05-25
Walter Raim Concept / Endless Possibilities
ニューヨークのギタリストにしてアレンジャー、ワルター・ライムが米デッカ傘下にあったMTAというところから1970年に出したボーカル/コーラスアルバム。
間違ってもティーンエイジャーはターゲットではない、おそらくは少し歳を取ったポップスファン向けに制作されたであろう音楽。熱狂を誘うようなものではないが、聴くたびに感心させられる。柔らかな管弦は美しく、レンジの広い男女混成コーラスは奇抜なことは何もしていなくとも見事に絡み合う。また、それらの全体からジャズのセンスがそこはかとなく感じられるのもいい。
演奏のエネルギーが前面に出ることなく、スマートに設計された音像には、洗練とはこういうことなのだろうな、と思わされる。もっとも、それをつまらないと感じるひともいるだろうけれど。
楽曲は粒揃いだが、中でもマーゴ・ガーヤン作の "Something's Wrong With The Morning"、あるいはタイトルから何からまるっきりバカラック・マナーの "I’ll Never Fall In Love Again" が抜群。
そして、極めつけはロジャー・ニコルズを思わせるメロディの "A Woman Looking For Love" という曲。ずっと、もう少しリズムが強調されていれば、せめてドラムが中央に定位していれば、と思っていたのだが。ポップスとしてのキャッチーさよりもディテイルの優美さを取ったのだろう。最近になってようやく、そんな選択も有りだな、という気がしてきた。
2013-05-18
The Foundations / Baby Now That I've Found You
このところファウンデイションズを聴き返していて。僕の持っているのは昔、英Sequelから出た二枚組CDです。
彼らのプロデューサーは英国ポップのファンにはお馴染み、トニー・マコウリィなのだけれど、一枚目のアルバム「From The Foundations」(1967年)の頃はまだ彼のキャリア初期であったせいか、聴けるのはいかにもマコウリィらしいサウンドではなく、マージービートとノーザンソウルを掛け合わせたような躍動感あるもので、グループの本来持っていた資質を生かす方向で作られているよう(最初はファウンデイションズだけで制作しようとしたけれど、結局はセッションミュージシャンを投入することになったらしい)。今聴くと、そのことによって他では得られない個性が残ったように感じます。
ホーンセクションはありますが、ストリングスが使われていないところがバンドらしさであって、ここら辺は単なるモータウン亜流とは違います。クレム・カーティスというシンガーの声も熱っぽくて、いい。
マコウリィとジョン・マクラウドの手による曲は、キャッチーなメロディに判り易くも楽しいバックコーラスが素晴らしい。鍵盤を使って中低域に厚みを出しているのがうまいところですが、敢えて欠点を挙げるとすれば、それらの曲ではアレンジがみな同じように聴こえることでしょうか。
また、アルバムの半分を占めるカバー曲も結構良い出来です。ペトゥラ・クラークの "Call Me" をクラブ仕様にアダプトした演奏は洒落ているし、ジョー・テックスの "Show Me" は迫力に申し分がない。
リードシンガーが交代してからのアルバム「Digging The Foundations」(1969年)になるとサウンドが少し変わってきています。マコウリィ&マクラウドによる曲ではストリングスがしっかりと入って、はっきりとミドル・オブ・ザ・ロードのポップスに振り切っている。トニー・マコウリィという名前からイメージするような音になってきた、と言えましょう。中でも "In The Bad Bad Old Days" がこれでもか! というアレンジで抜群の仕上がり。
それ以外では、ファウンデイションズのメンバーによるオリジナル曲が増えてきているのだけれど、いまいちフックに欠けるものが多いかな。
バンドの本来やりたい音楽をさせてくれなかったということで、トニー・マコウリィとファウンデイションズの仲は相当悪かったそうでありますが、残された曲にはひたすらにご機嫌なものがあって。聴いていて、ポップスとはこういうものだよな、という幸せな気分にさせられます。
2013-05-12
The Robert Tennison Troupe / Don't Forget You Cared
1974年のカナダ産サンシャインポップ、韓国Big Pinkによるリイシュー。さっぱり情報がないロバート・テニスンというひとの、おそらく唯一のアルバムです。もともとはカナダのマイナーレーベルから「Two Words, Three Words」として出たものを、大手のユナイテッド・アーティスツがタイトルとジャケットを変えて出し直したのだそう。
プロデュースと全ての作曲をテニスン自身が手がけていますが、ボーカルは女声がメインになっています。
演奏は少し跳ね気味のリズムの上でピアノの響きを生かした、この時代のシンガーソングライター的なものといえましょうか。爽やかで抜けがいいサウンドです。
一方、楽曲は'60年代後半のようなテイストを強く感じさせる粒揃いなもの。曲の長さも殆どが2分台という短さであります。女性ボーカルのダブルトラック処理がなんだかラフで、これも'60年代っぽい。
あえて例えると、親しみやすくなったインナー・ダイアローグ、といった感じでしょうか。
アルバム通して聴くとやや一本調子な印象も受けますが、メロディの良さを武器にして、正攻法のポップスで全編押し切ったところが嬉しい一枚です。ソフトサウンディングなものが好きなひとなら、アングラっぽいジャケットに恐れをなさずに試してみては。
個人的に一番気に入ったのは、ボサノヴァ風の "Don't Be Afraid" かな。リズムアレンジがぴたりと嵌り、フルートも瀟洒に決まった。
2013-05-06
The Artwoods / Art Gallery
ジョン・ロードが在籍したことで知られる英国のバンド、アートウッズ。彼らが1966年にデッカからリリースした唯一のアルバム。
音楽スタイルとしてはアニマルズあたりに近い、ブルース/R&Bベースのワイルドなもの。シンガーのアート・ウッドは軽量版エリック・バードン、あるいは華の無いミック・ジャガー、けれど熱意なら負けてねえぜ、という感じのダミ声です。
取り上げている曲は全てカバーですが、安定感がありつつ荒々しさを感じさせるものが多い。特にドラムが非常にクリアに録られていることもあって、迫力は充分。
中ではオープナーである、リー・ドーシーの "Can You Hear Me" が強力。オリジナルがレイ・チャールズのニューオーリンズ的解釈、といった感じのものに対して、ここではそういったニュアンスはふっ飛ばし、もろ "What'd I Say" といった雰囲気で、よりロックらしい。
また、ジョン・ロードのオルガンが充分に聴けるインストが二曲。これらは余裕ある仕上がりになっていて、彼らの演奏能力の高さが伺えます。
一方で、ポップソングの処理は当たり前過ぎるというか、この時代にしては若干、野暮ったい。スクエアなリズム感覚やボーカルの堅さも手伝って、これじゃあ売れなくても仕方がないだろうな。
アルバムの最後を締める "Don't Cry No More" も曲としてはそれほどではないと思うのだけれど、後半におけるボーカルとバックのインタープレイにはスモール・フェイシズの "Come On Children" を思わせる格好良さがあって、聴いていて盛り上がってくる。
およそスマートではない、しかし妙に捨て難い味があって、ときどき聴きたくなるアルバムです。
2013-05-05
泡坂妻夫「ダイヤル7をまわす時」
1979~85年に雑誌発表されたノンシリーズ短編を7作収録。
発表年代順に並んでおり、最初の方がかっちりしたミステリで、後になるにつれて形を崩したものになっているかな。
「ダイヤル7」 問題編と回答編にはっきり分かれた犯人当て(しかも時間制限付き!)。手掛かりに意外な側面を見出し、そこから逆説的な推理を展開するのがいかにもこの作者らしい。凝った構成も併せ、丁寧さが光る一本。
「芍薬に孔雀」 容疑者から刑事への語り、という形式を取っているのだけれど、中心になるのは非常に奇妙な殺害現場の謎。スマートな推理と更にその上をいくちょっと捻った真相は面白いし、うさんくさい語り手がユーモラスでいい。あと、さりげない最後の一行が凄いな。
「飛んでくる声」 偶然に殺人を目撃してしまった青年は、警察に頼らず自分の力で犯人を追い込もうとするのだが・・・。ある海外作家の有名作品を思わせる、トリッキーな一品。
「可愛い動機」 特に変わったところのない事件が、いかにして語るか、という工夫によって最後まで引き付けられるものになっている。タイトルの意味が最後の最後になってわかる趣向がいいな。
「金津の切符」 収集家の心理を描いた倒叙もの。手掛かりの妙が楽しいし、誤った推理の配置が洒落ている。
「広重好み」 犯罪は絡まないが、とても奇妙な謎が扱われています。こんなものがミステリになるんだ、ということに感心しました。チャーミングな小編。
「青泉さん」 これもミステリとしてはやや緩いですが、足跡の手掛かりの変わった用い方がいい。わずか30ページほどしかないのに、人物が印象に残るのものになっているのも流石。
淡々とした筆致で描かれているため地味に感じるかもしれませんが、バラエティに富み、意外な着想に満ちた短編集です。気軽に読めるのも○。
2013-05-04
VANDA vol.30
佐野邦彦氏が主宰するミニコミ、VANDAの十年ぶりになる新号が出ました。
表紙はカラフルで、ちょっとイメージが変わりましたね。大きく「Versatile magazine for SOFT ROCK Freaks」と書かれていて、VANDAが漫画と音楽の二本立てだった頃から知っているものが見ると、それだけじゃないんだけどな、という気はします。
と言っても、内容の方は十年という時間を感じさせないもの。商売抜きで自分が興味のあるものについて書く場、という点は変わってなくて。
びっしりと詰まった活字を見ると、相変わらずだな、と嬉しくなりますな。
巻頭はアンディ・ウィリアムズの特集。ディスコグラフィーが圧巻 |
個人的に良かったのはワーナー傘下のヴァリアント・レーベルのオーナー、バリー・デヴォーゾンのインタビュー。彼がかかわったカスケーズやアソシエイションは勿論、日本のジャニーズにも言及されています。
韓国のリイシュー会社、Beatballの社長のインタビューも面白い。実は韓国内ではソフトロックは全然売れなくて、日本を含む海外向けにやってるんだ、とか。
いま、再発を企画しているものとしてペギー・リプトンの名も挙がっていました。
ウェブ上をいくら廻っても見つけられないような記事が満載でありますが、さて、次号はあるのでしょうか。音壁新聞は「13th OR LAST」となっているけれど・・・。
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