2013-05-05

泡坂妻夫「ダイヤル7をまわす時」


1979~85年に雑誌発表されたノンシリーズ短編を7作収録。
発表年代順に並んでおり、最初の方がかっちりしたミステリで、後になるにつれて形を崩したものになっているかな。


「ダイヤル7」 問題編と回答編にはっきり分かれた犯人当て(しかも時間制限付き!)。手掛かりに意外な側面を見出し、そこから逆説的な推理を展開するのがいかにもこの作者らしい。凝った構成も併せ、丁寧さが光る一本。

「芍薬に孔雀」 容疑者から刑事への語り、という形式を取っているのだけれど、中心になるのは非常に奇妙な殺害現場の謎。スマートな推理と更にその上をいくちょっと捻った真相は面白いし、うさんくさい語り手がユーモラスでいい。あと、さりげない最後の一行が凄いな。

「飛んでくる声」 偶然に殺人を目撃してしまった青年は、警察に頼らず自分の力で犯人を追い込もうとするのだが・・・。ある海外作家の有名作品を思わせる、トリッキーな一品。

「可愛い動機」 特に変わったところのない事件が、いかにして語るか、という工夫によって最後まで引き付けられるものになっている。タイトルの意味が最後の最後になってわかる趣向がいいな。

「金津の切符」 収集家の心理を描いた倒叙もの。手掛かりの妙が楽しいし、誤った推理の配置が洒落ている。

「広重好み」 犯罪は絡まないが、とても奇妙な謎が扱われています。こんなものがミステリになるんだ、ということに感心しました。チャーミングな小編。

「青泉さん」 これもミステリとしてはやや緩いですが、足跡の手掛かりの変わった用い方がいい。わずか30ページほどしかないのに、人物が印象に残るのものになっているのも流石。


淡々とした筆致で描かれているため地味に感じるかもしれませんが、バラエティに富み、意外な着想に満ちた短編集です。気軽に読めるのも○。

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