2014-09-23
The Association / Insight Out
1967年リリースのサード・アルバム。
アソシエイションのアルバムにはいいものが多いけれど、そのうちでもコマーシャルなピークならこれかと。何をやってもうまくいくような、そんな勢いに溢れているし、なんといっても2つの特大ヒット・シングル "Windy" と "Never My Love" があるのだから。
このアルバムと翌年の「Birthday」でプロデュースを手がけているのはボーンズ・ハウ。繊細なアレンジとLAのセッション・ミュージシャンによる意外なほど力強い演奏(特にドラム)がはっきりと捉えられている音像は、傑出したエンジニアでもあった彼によるところが大でしょう。
楽曲面では、これ以前よりも外部ライターの手によるものを増やしたことが良い風に出ているよう。それによって、かえってメンバーによるオリジナルのほうも明快な曲調のものばかりが採られることになったのではと思う。
また、ジャズ畑出身のクラーク・バロウズによるボーカル・アレンジも、アイディア豊富かつ親しみやすいもの。けっしてやり過ぎない塩梅がいいのですね。
全体としてフォークロックというより、はっきりとポップに振ったサウンドで。メランコリックなスロウでも軽やかさが感じられる仕上がりはとても好み。
甘く華やか、それでいて快活さもあって。つくづく良いアルバムだなあ、と。
英Now Soundsからのモノラル・リイシューにはボーナストラックがたくさん入っていて、その中に未発表であった "Autumn Afternoon" というアドリシ兄弟の書いた曲があります。お蔵入りにするには勿体無いような、なかなかの佳曲なのだけれど、ライナーノーツには当時渡米していた日本の有名グループもこの曲を録音した、と記されています。バリー・デヴォーゾンも関わっていたというこのグループはジャニーズのことらしいですな。
2014-09-21
アガサ・クリスティ-「ねじれた家」
「もうつぎの人殺しがあってもいいころね?」
「つぎの殺人ってなんだい?」
「探偵小説では、もう二番目の人殺しがいつもあるころですもの。真相を知っている人が、それを喋らないうちにやられちゃうのよ」
1949年発表のノンシリーズ長編。
資産家の老人が急死した。常用しているインシュリン注射、その薬瓶の中身が入れ替えられていたのだ。老人には年の離れた後妻がいて、老人の家族から疑いの目で見られている――というお話。
タイトルはマザーグースの歌詞からきており、事件の舞台となる邸宅も指しているのですが、ねじれた家に住むねじれた人々、というほどには異常な人間は出てこない。
ユーモア味が薄いわりにサスペンスも控えめで、うっすらとした不安が全体を支配しているようである。
この作品、クリスティ自身のお気に入りのひとつであるそうで、実際に凄くよくできたミステリなのだが。
困ったことに、年季の入った読み手だとある先行作との類似に思い当たって、推理するより前に犯人の見当が付いてしまう。そうするとむしろ、このテーマがいかに料理されているか、というのが見所になるのだけれど。クリスティはさらにひとつ、別の趣向を重ねることで、真相を徹底して見えにくいものにしているようだ。
また、周辺を固める小道具の使い方が冴えてますな。遺言状をめぐる謎などは、それだけを取り出すと大したことはないのだけれど、プロットに絶妙な捻りを与えていると思います。
非常に手の込んだ作品ですが、本質はアイディア一点勝負。ゆえにあまり予備知識を持たずに読むのが吉かしら。
2014-09-15
The American Breed / Lonely Side Of The City
ロジャー・ニコルズがトニー・エイシャーを作詞家に迎えて書いた "Always You" という曲がとても好きだ。
最初に聴いたのはサンダウナーズというグループのヴァージョンだったのだけど、この曲が僕にとって特別なものになったのは2007年の再結成ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのものを聴いてから。39年のブランクを経て届けられた "there's always you / thank God for you" というフレーズがとても感動的に響いたのですね。
「Lonely Side Of The City」はシカゴ出身のグループ、アメリカン・ブリードが1968年にリリースした4枚目にして最後のアルバム。韓国Big Pinkからのリイシューです。
この一曲目にも "Always You" が入っていて。サンダウナーズのほうがストリングスも入ってドラマティックであるけれど、こちらはシンプルな分メロディの良さがより伝わりやすいと思う。乾いたドラムの音も好みであって、比較すればやや落ち着いて都会的な感じかな。まあ、どちらも良いのね。
このアルバム、アナログA面にあたる前半が穏やかなサンシャインポップといった趣でとても好みです。オリジナル曲はメロウな出来であるし、カバーではピート・アンダース&ヴィニー・ポンシアの "New Games to Play" という曲も演っており、これもソルト・ウォーター・タフィーあたりを思わせる楽しさ。
そしてA面の終わりにはまたロジャー・ニコルズの曲で、ポール・ウィリアムズと書いた "To Put Up With You" が取り上げられていて、しみじみと聴かせてくれます。
一方でアルバム後半になると、ぐっとMORポップス寄りのものや土臭いアレンジのもの、ソウルっぽい曲なども試みてはいるけれど、逆に個性があまり感じられなくなっているようではあります。そこそこではあるものの、芯になるような強力な曲がないのも正直なところ。
客観的に見ると、バブルガムでヒットレコードを出していた彼らが、セールスの落ち込みとともに色々と試行錯誤していたわけで。全体とすれば中途半端な作品かもしれませんが。
まあ、個人的には捨て置けない、というところであります。
2014-09-14
マーガレット・ミラー「悪意の糸」
マーガレット・ミラーなんて読むのは何年ぶりだろう。1950年の作品だそう。
ミラーというと語り手が自分自身に嘘をつき続けるようなミステリの印象が強いのだけれど、この作品はずっと平明。陰鬱さもあまり感じず、心理の書き込みも抑え目で、全体の雰囲気やプロットは凄く私立探偵小説っぽい。
主人公は女医であるシャーロット。彼女は若い女性からの中絶手術の依頼を断るのだが、後になってその患者のことが気になり、住所を訪ねて行く。家の持ち主である患者の叔父はみるからにうさんくさい男であり、かつ何かを隠しているようであった。言付けを残して帰宅したシャーロットは、ガレージで何者かに殴られ、気を失ってしまう。
シャーロットが仕事の範囲以上にその患者のことを気にかけるのは、その境遇に不倫をしている自らを重ね合わせてしまったからなのだが、そのことによって自らも脅威にさらされる羽目になってしまう。ここら辺りからは巻き込まれサスペンスとしての要素も加わる。
途中で事件性のある出来事が起こってからは刑事が登場。こいつがやたらにクールな野郎であって、台詞のほうもワイズクラックふう。そうすると、シャーロットはヒロインっぽく見えてくる。
真相のほうは可能性が限定され過ぎているため、割りと見当が付き易くなっている。しかし、その開示シーンの迫力・説得力は流石にミラー。また、意外なくらいに伏線の綾もよくできている。
何より、旦那のロス・マクドナルドがまだ駆け出しといっていい時分に、ミラーがこれをものしたというのが驚き。
というわけで、僕の持つマーガレット・ミラーのイメージとは少し違いましたが、コンパクトでありながら内容は濃く、非常に形よくまとまったミステリでありました。
2014-08-31
Billy Stewart / I Do Love You
ジョージィ・フェイムが演っていた "Sitting In The Park" はこのひとがオリジナル。
ビリー・スチュワートというソウル・シンガーは1950年代半ばから活動していたそうなのだけれど、これは'65年になってチェスから出された彼のファースト・アルバム。収録曲の半分ではスチュワート自身が作曲も手がけています。
プロデューサーを務めているビリー・デイヴィスは、チェスのスタッフになる以前はデトロイトでベリー・ゴーディと共に仕事をしていたそうです。そのデイヴィスの書いた曲も入っているのですが、なるほどそう知ると初期モータウンと共通するようなテイストのミディアムもあるかな。
この時期のアルバムによくあることですが、古いシングル曲なども入ってまして、制作時期を一番さかのぼるものは'62年に作られた2曲。うち "Fat Boy" ではボ・ディドリーが共作者としてクレジットされています。鳴っているギターも、それっぽい。
もっともここでの聴き物はスムースなスロウでしょう。中でも抜群なのはやはりシングル・ヒットした2曲、タイトルにもなっている "I Do Love You" と先に挙げた"Sitting In The Park" であります。いずれもこの時代のものとは思えない、実に洒落た仕上がりで、後々のスウィート・ソウルの原型と見ることも出来そう。オルガンとピアノを絡めた風通しのよい演奏はルビー&ザ・ロマンティクスをソウル寄りにした、という感じもあるかな。美しいコーラス、そこに伸びやかなテナーが映える。少しジャジーな軽やかさはシカゴならではか。
いわゆるアーリー・ソウル、そこから都会的な次代のものへと変化するさまを捉えた一枚。
2014-08-30
ヘレン・マクロイ「逃げる幻」
アメリカ軍の大尉で本業は精神科医のダンバーは、秘した任務を帯びながら表向きには休暇でスコットランドに滞在することとなった。そしてひょんなことから、彼は何度も家出を繰り返す少年と関わることになる。何不自由ない家庭環境にあって、しかし少年は何かをとても恐れているようなのだ。
このところ創元推理文庫から年一冊のペースで出版されるヘレン・マクロイ。今回は1945年発表、第二次大戦後間もない頃の作品です。
登場人物のアイデンティティを探るような導入からして謎めいていて、すぐに作品世界に引き込まれていきます。また、舞台となるスコットランドの高地、そこにおける幻想的な風景は読んでいてリアリティをぐらつかせられるものだ。ここではどんな歪んだ論理も通用していまいそうだ。この作家は自然描写もいいな。
物語の本筋は少年の抱えた秘密なのだが、その調査過程において判明した事実は、ダンバーの隠れた任務とも関わってきているようでもある。
なお、本書の帯には「人間消失と密室殺人、そして」と書いてあるけれど、マクロイは不可能犯罪を得意とする作家ではないので、トリックには期待してはいけません。これらの趣向は勿論、ミステリを駆動する装置ではありますが、むしろゴシック小説っぽさを強調するための象徴としての意味が強いように思うな。
家庭の悲劇を中心に据えたスリラーと思えたものが、謎解き小説としての本性を見せるのは終盤になってから。勘のいい読者なら犯人の見当はついているでしょう。しかし、少年の周囲にどんなおぞましい秘密が隠されていたのか? これが明らかになるとともに物語全体の様相ががらり、と一変。見掛けとは違う物語であった、というのは同時期のクリスティも得意としたところでありますが、これはお見事。
更には、それに伴って数々の謎がひとつの流れに収束されていく。この辺りの綺麗なかたちはマクロイならではだなあ。
奥行きを感じさせながら仕上がりはタイトで、心理学や戦争の影響なども単なる装飾ではなく、本筋にしっかりと絡んでいる。
何よりプロット構成が抜群にクレバー。いや、面白かった。
2014-08-24
The Kinks / Lola versus Powerman and The Moneygoround/Percy
キンクスのデラックス・エディション、これまでのはデジパックでありましたが、今回の「Lola versus Powerman~」はジュエルケースになっていて、もしかしたら予算をケチったのでありましょうか。
内容のほうも「Percy」のサントラとのカップリングであり、ちょっと変則。まあ、「Percy」をリイシュー・プログラムに組み込むとしたら、こういうやり方しかないのかな。制作当時、レイ・デイヴィスはとにかくパイとの契約を終わらせたかったようで、そのために強行スケジュールにもかかわらずサントラ仕事を請けたようであります。
とはいえ、少なくとも「Percy」のボーカル入りの曲に関しては、どれもいいとは思いますが。
「Lola versus Powerman and The Moneygoround Part One」は1970年にリリースされたアルバム。そのサウンドはこの前後の「Arthur」や「Muswell Hillbillies」と比べるとすっきりと仕上がっている。端境期なのかもしれないけれど、アコースティックギターの響きをうまく生かしながら、新加入であるジョン・ゴスリングの存在もしっかりと感じられるものだ。
そして、こってりした作品世界の作りこみこそないものの、逆にレイ・デイヴィス独特の、世界を遠くに見ている感じは凄く強力に伝わってくる。個人的には "This Time Tomorrow" がいちばん好きなのだが、"The Moneygoround" のメロウなミドルエイトなども、その曲調との落差も相まってたまらないな。
さて、今回のリイシューではボーナストラックは全部で17曲で、そのうちPreviously Unissuedとあるのが13曲。まずまずのボリュームではあります。
未発表曲の "Anytime" は、この時期のキンクスとしてはちょっと異色な感じの骨太なミディアム。出来はそんなに悪くないのだけれど、泣きの入ったギターもあって、なんだかジョージ・ハリスンみたいだ。また、"The Good Life" のアイディアは、後に "Here Come The People In Grey" で流用されていますな。
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