2014-10-12

The Originals / Baby, I'm For Real


オリジナルズのファースト・アルバム、1969年のリリース。
タイトルにもなっている "Baby, I'm For Real" はマーヴィン・ゲイが手がけたヒットシングル。ゴージャスでありながら軽やかで主役を邪魔しない管弦には「What's Going On」前夜という感じもある。ドゥーワップをベースにしたようなオーソドックスなコーラスと、入れ替わっていくリードの対比も素晴らしい。ロマンティックではあるけれど、実に締まった仕上がりだ。
勿論スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズという偉大な先達はいますが、モータウン産スウィート・ソウル、その本格的なものはここから始まったのではないか、と(半可通ながら)思うわけですよ。

このアルバムの時点では、"Baby, I'm~" を除くと残りの曲は全て、ひとりのシンガーが一曲通してリードを唄うかたちを取っていて、曲によって四者四様のバラエティを楽しめるようになっています。いかにもデトロイトらしいノーザンダンサーもありますが、出来は悪くないもののやや個性に欠けるかと。耳を引くのはゆったり目のミディアムからスロウですね。
特にいいのはやはりC.P.スペンサーがリードのもの。元々のアルバムタイトル曲であった "Green Grow The Lilacs" は美しいメロディに広がりのあるコーラスアレンジやトランペットの間奏があいまってサンシャインポップ風味が濃厚であるし、"You, Mysterious You" の定型を脱した展開からは新しい時代のソウルを予感させられる。
また、ホランド=ドジャー=ホランド作の "We've Got A Way Out Of Love" はコール&レスポンスのスタイルこそ'60年代モータウン的なものですが、裏声トップからベース・ボイスまではっきり聴かせるつくりになっていて、清新な印象。コーラスグループとしての確かさも伝わってきます。

ところでこのアルバム、昨年になって日本のユニヴァーサルからリイシューされていまして。旧盤CDの極端に低い音圧が改善されたのは良いのだが、ブックレット記載の作曲クレジットが全部間違っていて(他のタイトルのものと入れ替わっているのでは?)ちょっと残念。

2014-10-05

レオ・ブルース「ミンコット荘に死す」


寝室で自殺しているのを発見された男には、そうする動機がない上、現場には不可解な状況が。ただし、彼を殺害する動機もまた見当たらなかったため、警察は自殺と判断。歴史教師キャラロラス・ディーンは独自に捜査を続けるが、やがてさらなる事件が。


1956年発表作。ディーン初登場の『死の扉』は二年前に東京創元社から新訳が出されて話題になりましたが、この『ミンコット荘に死す』はシリーズ3作目です。装丁はこれもレトロ風味なもので、(出版社が異なるにもかかわらず)『死の扉』と同じデザイナーが手がけたそう。

非常にオーソドックスな探偵小説らしく物語は進んでいきます。証拠は見つからないが機会はだれにでもありそう。そんな煮え切らない状態が続き、中盤くらいまでは結構地味(もっとも、最後まで読めばこれは必然であることがわかるのですが)。ディーンの教え子であるプリグリー君の活躍場面が少ないのも物足りないな。

フーダニットとしては既存のアイディアを一捻りしたものであって、これだけでも結構面白いのだけれど、本作の肝は意外な動機。そして、それが判明するのは、まさしく終盤に犯人の計画が完遂された時点である。取り立てて特徴の無いようにみえた物語に、この作者らしい捻くれた趣向が隠されていて、これはお見事。
ただ、謎解きそのものは分量はあるけれど、わりに大雑把。黄金期の作風を踏襲しているようでありながら、読みどころはプロットということになるでしょうか。

期待の仕方を間違えなければ、楽しんで読めるミステリだと思いますよ。

2014-10-04

George Harrison / Living In The Material World


1973年、前作「All Things Must Pass」から二年半ほどのインターバルを挟んでのリリース。
スロウの曲が多めに入っているのだけれど、それらではサウンドがもっさりというか、どうも焦点がはっきりしないような感じ。オルガンはもっと控えめなほうが良かったんじゃあ。特にアルバム後半では似たようなテンポのものが並ぶことで、互いの印象を打ち消しあっているきらいもあります。続けて聴くと、かったるい。CDのボーナスに入っているシングルB面曲のような、リラックスした雰囲気のものがチェンジ・オブ・ペースとして混じっていれば、と思うのですよ。
そういった詰めの甘さもまた、ジョージらしいという気はしますが。個人的には軽快な曲が入ったアルバム前半部分のほうをよく聴きます。

シングル・カットされたのが "Give Me Love (Give Me Peace On Earth)" で、ジョージにとって二曲目のチャート・トッパー。なのだが、曲自体はあまりあざといところの無い素直なプロダクションのもの。当時の人気はすさまじかった、ということなのだろうな。タイトルを連呼する部分のメロディーがバックに対してずれていくのがフックといえば、そうか。スライドのキレは勿論、ジム・ケルトナーによるドラムの組み立ては素晴らしいし、クラウス・フォアマンの弾くベースもよく唄っています。
都会化したスワンプ・ロック、という印象のファンキーなミディアムが "Sue Me, Sue You Blues"。アラン・トゥーサンと共通するようなセンスも感じられ、ここ最近、特に気に入っています。サビ部分やエンディングのフュージョンっぽい演奏も格好いい。
"Don't Let Me Wait Too Long" はカスタネットやティンパニも入って、ガール・グループの線を狙ったのでありましょうか。ロイ・オービソン風の "Who Can See It" もそうですが、ライターとしてもシンガーとしてもそんなに器用というか何でもできるひとではないせいか、ジョージ・ハリスンの曲以外の何物でもない、という仕上がりですな。

新リマスターは2006年版と比較すると音圧が抑え目に。そのせいか、音像に奥行きが感じられるようになったのでは。高音も気にならず、落ち着いて聴けますわ。

2014-09-28

フィリップ・K・ディック「宇宙の眼」


ペバトロン陽子ビーム加速器の見学をしていた人々は、突然の装置の暴走による事故に巻き込まれ、負傷する。やがて病院で意識を取り戻すのだが、どうもこの世界は何かがおかしい・・・・・・。


1957年作品。たしか筒井康隆がこの作品とフレドリック・ブラウンの『発狂した宇宙』を多元宇宙ものの古典として挙げていた、と思う。僕は昔、『虚空の眼』のタイトルで読んでいます。
今回の文庫化は中田耕治訳ということで、元々は'59年にハヤカワSFシリーズに入っていたものらしい。新たに手が入れられているようで、特に古さを感じさせない文章になっています。

世界から感じられる違和感の正体や原因というのは、割合早い段階で明かされてしまう。そして登場人物たちは事態の解決へと動くのだが、状況の異様さはエスカレートしていく。ときに悪夢のようであり、ときに馬鹿馬鹿しく、あるいはとてもリアリスティック。この部分に惜しげもなくアイディアがぶちこまれていて、どんどんと引き込まれますな。枠組みはSFだけれど、もう奇想小説としたほうがふさわしいような、不条理なユーモアも感じられて。特に主人公の家がグロテスクに変容していくイメージなど絶品。

展開はスピーディーでかつ明快、それでいてディックらしさも充分。
気軽に読めるけれど内容も濃い作品でした。面白いよ。

2014-09-25

George Harrison / The Apple Years 1968-75


ジョージのアップル箱が来ました。

パッケージはダーク・ホース時代のと同じようなつくりになっています。大きさもほぼ同じ。
ただ今回、それぞれのディスクは紙ジャケットというか、デジスリーヴに収納されております。インナーバックが付いていて、そちらはオリジナルに準じているものもあれば、そうでないものも。
まあ、ちゃんと作られてはいるとは思いますけれど。中途半端にやるならジュエルケースのほうが良かった、という意見も出るかな?


入手するまでよくわからなかったのが、「All Things Must Pass」と「Living In The Material World」が新規リマスターなのか、それとも以前(「All Things~」なら2001年、「Living~」なら2006年版)と同じなのかで。実際に見てみると、この2タイトルも2014年のリマスター、と表記されていました。
特に「All Things~」のほうは、2001年版と比べると音圧はやや控えめで、中域がしっかり出ているような印象です。どっちにしてもごちゃごちゃしたサウンドですけれど。

あと、付属ブックレットは薄いものですが、写真にはいい紙を使ってますね。
DVDもそのブックレット内に収められています。僕は今回輸入盤を購入しましたがNTSCのリージョン0仕様であって、普通に視聴できました。が、中身は以前に見たことのある映像が殆どかな。


これからしばらくはジョージ三昧だ! という気にはまだなっていないのですが。まあ、ぼちぼち聴いていこうかな、と。

2014-09-23

The Association / Insight Out


1967年リリースのサード・アルバム。
アソシエイションのアルバムにはいいものが多いけれど、そのうちでもコマーシャルなピークならこれかと。何をやってもうまくいくような、そんな勢いに溢れているし、なんといっても2つの特大ヒット・シングル "Windy" と "Never My Love" があるのだから。

このアルバムと翌年の「Birthday」でプロデュースを手がけているのはボーンズ・ハウ。繊細なアレンジとLAのセッション・ミュージシャンによる意外なほど力強い演奏(特にドラム)がはっきりと捉えられている音像は、傑出したエンジニアでもあった彼によるところが大でしょう。
楽曲面では、これ以前よりも外部ライターの手によるものを増やしたことが良い風に出ているよう。それによって、かえってメンバーによるオリジナルのほうも明快な曲調のものばかりが採られることになったのではと思う。
また、ジャズ畑出身のクラーク・バロウズによるボーカル・アレンジも、アイディア豊富かつ親しみやすいもの。けっしてやり過ぎない塩梅がいいのですね。

全体としてフォークロックというより、はっきりとポップに振ったサウンドで。メランコリックなスロウでも軽やかさが感じられる仕上がりはとても好み。
甘く華やか、それでいて快活さもあって。つくづく良いアルバムだなあ、と。


英Now Soundsからのモノラル・リイシューにはボーナストラックがたくさん入っていて、その中に未発表であった "Autumn Afternoon" というアドリシ兄弟の書いた曲があります。お蔵入りにするには勿体無いような、なかなかの佳曲なのだけれど、ライナーノーツには当時渡米していた日本の有名グループもこの曲を録音した、と記されています。バリー・デヴォーゾンも関わっていたというこのグループはジャニーズのことらしいですな。

2014-09-21

アガサ・クリスティ-「ねじれた家」


「もうつぎの人殺しがあってもいいころね?」
「つぎの殺人ってなんだい?」
「探偵小説では、もう二番目の人殺しがいつもあるころですもの。真相を知っている人が、それを喋らないうちにやられちゃうのよ」

1949年発表のノンシリーズ長編。
資産家の老人が急死した。常用しているインシュリン注射、その薬瓶の中身が入れ替えられていたのだ。老人には年の離れた後妻がいて、老人の家族から疑いの目で見られている――というお話。
タイトルはマザーグースの歌詞からきており、事件の舞台となる邸宅も指しているのですが、ねじれた家に住むねじれた人々、というほどには異常な人間は出てこない。
ユーモア味が薄いわりにサスペンスも控えめで、うっすらとした不安が全体を支配しているようである。

この作品、クリスティ自身のお気に入りのひとつであるそうで、実際に凄くよくできたミステリなのだが。
困ったことに、年季の入った読み手だとある先行作との類似に思い当たって、推理するより前に犯人の見当が付いてしまう。そうするとむしろ、このテーマがいかに料理されているか、というのが見所になるのだけれど。クリスティはさらにひとつ、別の趣向を重ねることで、真相を徹底して見えにくいものにしているようだ。
また、周辺を固める小道具の使い方が冴えてますな。遺言状をめぐる謎などは、それだけを取り出すと大したことはないのだけれど、プロットに絶妙な捻りを与えていると思います。

非常に手の込んだ作品ですが、本質はアイディア一点勝負。ゆえにあまり予備知識を持たずに読むのが吉かしら。