2015-03-01
Eric Burdon and The Animals / The Twain Shall Meet
米Sundazedよりサイケデリック期のアニマルズが二枚、ストレートリイシューされました。「Winds Of Change」(1967年)はモノラル、「The Twain Shall Meet」(1968年)はステレオ・ミックスです。音圧はほどほどに抑え、ダイナミックレンジが優先されているようで、自然でアナログ的な質感を大事にしたマスタリングになっています。
実はアニマルズでもここら辺りは全面的に好みとはいかないのだな。オリジナル曲で固めることに拘るあまり、全体の質を落としているという気がするのね。
「Winds Of Change」ではなんだかすっかりヒッピー文化にやられてしまっている様子に、現在からするとちょっと痛いところがある。眼高手低とは言葉が過ぎるかもしれないけれど、いかにも頭でっかちという感じで(ジャケットもそんな風だ)、メッセージの重さがそのまま音楽の抜けの悪さになっているよう。
特にアナログA面にあたる前半がしんどい。エレクトリック・シタールやSEが入ったサイケなトラックをバックにして、詩の朗読や語りが続くような曲がいくつかあって、それらははっきりいって退屈。唯一のカバー曲 "Paint It Black" で聴ける迫力のボーカルは流石エリック・バードンといったところなんだけれど。
それに比べると、アルバム後半がコンパクトにまとまった曲が多くて、良いです。シングルヒットした "San Franciscan Nights" は穏やかな表情が気に入っているし、凝ったアレンジの中でR&Bテイストが生きた "Good Times" や、美しいフォークロックの "Anything" も悪くない。
続く「The Twain Shall Meet」も時代の空気を強く反映した内容であるけれど、こちらのほうがしっかりとアレンジが考えられている、という印象。
オープナーの "Monterey" はエリック・バードンらしさが戻ってきた、という張りのあるボーカルで格好いい。バーズの "Renaissance Fair" が引用されたりして、勢いに乗っているという感じ。なんだけれど、この曲の後はやや渋めなのが続くのな。中ではベースのダニー・マカロックが作り、歌った "Orange And Red Beams" がちょっと異色で。サイケポップという点ではこれが一番かもしれない。
アナログB面にあたる後半は7分前後のもの3曲で構成されています。"Sky Pilot" はシングルになっただけあってポップで、展開も聴き応えがある(スカイ・パイロットとは飛行機乗りというだけでなく、従軍牧師の意味もあるらしい。ダブル・ミーニングですな)。後の2曲もひとつはインストだけれど、ちょっとアングラがかったサイケとしてそこそこの出来かな。
なんだか、歳を取ってくるとともに、真面目くさった表現を受け付けなくなってきたようだ。根気もひまも残ってないや。
2015-02-23
ジャン=パトリック・マンシェット「眠りなき狙撃者」
「ごみ捨て禁止」と書かれたパネルが貼ってあったが、その斜面にはどこも同じような、割れた瓶、メロンの皮、空罐、錆びたバネ、黒ずんだぼろ切れ、手足の千切れたセルロイドのベビー人形などが積み上げられていた。
1981年発表。引退を決意した殺し屋が、その身を狙われるという、設定だけ取れば陳腐きわまりない物語だが。
その文体は内面描写を排した、いわゆるハードボイルド小説のスタイル。滑らかでも美しくもない、乾ききってぶっきらぼうなものだ。それでいてキャラクターたちの無様で不器用な人間臭さが印象的。
テリエは凄腕の殺し屋なのだが、本職以外のことには抜けたところがある。人間的に未成熟なところが残っているようなのだ。更には、もとより口数の少ない男なのに、ある出来事をきっかけに失語症になってしまう。ハードボイルド本来の行動をもって語る、を徹底したかたちといえるのか。
人がばたばたと殺されながらスピーディーに話は進んでいき、ときに視点や場面の転換が改行もなしで行われる。その一方、ひとつひとつの情景には魅力があって、映画的ですらある。こんなにクソのような現実を映しているのに。
そして、ステレオタイプなノワール、そのパロディのようであった物語は、結末に近づいていくにつれ奇妙に捩れていく。あたかも最後まで安易な感情移入を拒否するかのように。
口当たりは甘くないし、暇つぶしの娯楽には向かないが。寒々として虚しい運命を描ききって他には無い、強い余韻を残す作品だった。
2015-02-21
The Action / In My Lonely Room
昨年、英国のTop Soundsというところからリリースされたアクションの初期音源です。彼らがパーロフォン・レーベルと契約する以前のものを4曲収録。アセテート起しらしいのですが、聴ける音にはなっています。
1965年にアクションはデッカのオーディションを受けていたそうで、そのときの録音が3曲。
マーサ&ヴァンデラスのカバー "In My Lonely Room" は後にパーロフォンからも出されますが、既にアレンジは出来上がっています。ジョージ・マーティンのプロデュースがクリーンで滑らかなものであったのに対し、こちらは生々しいバンドの表情が捉えられているようで、なかなか。録音バランスが悪く、バックコーラスやギターが聞こえにくいものの、スタジオライヴのような演奏の熱はそれを補って余りあるのでは。
"You'll Want Me Back" はインプレッションズのスロウを、そのままバンドで演ったという印象。オリジナルに比べてとても簡素な編成なので、ちょっと面白みがないかな。
"Why You Wanna Make Me Blue" はテンプテーションズの曲ですが、これは格好いい。性急さとしなやかさが同居した、これぞアクションといった仕上がりです。
最後の "Fine Looking Girl" は1964年の録音で、アクションの前身バンドであるボーイズによるパイ・レコード向けの(おそらく)デモ。レジー・キングの手になるオリジナル曲ですが、マージービート風であって個性には乏しいかな。
2015-02-16
Robert Lester Folsom / Ode To A Rainy Day: Archives 1972-1975
ロバート・レスター・フォルサムが唯一のアルバム「Music And Dreams」(1976年)をリリースする以前、友人たちとともに制作していた音源です。昨年、米国のAnthology Recordingsというところから出されました。
元々は2トラックのオープンリールで録音され、それを8トラックテープにコピーしたものを知り合いに向けて売っていたのだそう。こう書いても若い人には何のこっちゃ判らないだろうな。8トラというのは大昔のカーステレオにも使われていたのですが。
学生が自分の家や倉庫などでレコーディングしたテープなので、音質は良くないし録音バランスもラフ。元が2トラックとあって、いくつかあるインストを除けばモノラルに近い定位のミックスです。
しかし、えらいもので曲のほうは悪くない。自主制作ものにありがちな独りよがりなものがなく、どれもはっきりとしたメロディを持ちコンパクトにまとまった曲ばかりです。
「Music And Dreams」を聴いたときにもちょっと思ったのだけれど、ニール・ヤングの影響が感じられるものがありますな(ちなみに2トラックで初めて録ったのが "Southern Man" だったそうだ)。"On And On" というちょっとヘビーな曲など、本当にニール・ヤングそっくりなのだが、出来は凄く良い。他では "See You Later, I'm Gone" というのが "Helpless" っぽいな。
また、"Show Me To The Window" は「Music And Dreams」にも収録されていた曲で、こちらのヴァージョンはさらに飾らないというか、フォーキーらしい仕上がりです。
全体に「Music And Dreams」ほど落ちついてはおらず、若々しい表現でありますが、メランコリックなメロディはやはりこのひとの持ち味。ただ、このサウンドではちょっと他人には勧めにくいかな。
ところでこの作品のリイシュー・プロデューサーとしてクレジットされているのが、何とドン・フレミング。同名異人ではないかと思ったのだが、まさにティーンエイジ・ファンクラブやソニック・ユースのプロデュースも手がけていた当人らしい。何でもロバート・レスター・フォルサムとドン・フレミングは若い頃からの友人だったとか。いやあ、わからないものだ。
2015-02-15
アガサ・クリスティー「魔術の殺人」
「あなたは、どのくらいまでわかっていて、ジェーン?」
ミス・マープルは、鋭くキャリイの顔を見あげた。
二人の婦人の眼と眼があった。
ミス・マープルは、ゆっくりいった。
「かりに、わたしの考えがたしかだとしたら・・・・・・」
マープルは女学生時代の知り合いであるキャリイが危機にさらされているのでは、という曖昧な相談を受けて、目的を隠しキャリイの屋敷に滞在することとなる。
くだんのキャリイという女性は三度も結婚しており、そのたくさんの家族たちと共に暮らしていた。ただ、誰からも彼女は憎まれてはいないようだ。マープルは何かはっきりとしない違和感を覚えるのだが。
1954年発表の、ジェーン・マープルもの長編。
メインとなる事件で使われているトリックは実に単純というか、ひねりのないもの。純粋に犯人を推理しながら読んでいけばわかるかも。
一方で、マープルが真相に気づく契機となったと述懐する、あることがひっくり返った趣向は秀逸です。
誤導には結構あこぎなものがある。銃声に関する証言や心臓がどうこういう会話など、結局は何でもないものとして片付けてしまっているけれど、特に前者は二つの方向をもつ誤導であって。単純に捜査の方向を誤らせるという意図とは別に、その証言をしたものを読者に疑わせるという効果が見られる。
そういう小さな積み重ねがあるため、マープルをひっかけるために行なわれた犯人の偽装工作には、クリスティ作品に慣れ親しんできた読者ほど裏を読んで「まさかあのパターンか」と思わされるのではないか。
ただ、あれこれ工夫は見られるもののミステリとして芯になる部分が、せいぜいが短編を支える程度の小粒さであることを救うところまではいっていないと思う。また、前半は結構締まった仕上がりですが、後半に起こる事件の扱いがいかにも乱暴であって、いかにもプロット上の要請から置かれたという感じがします。
雰囲気は良いし楽しくは読めたのだけど。
2015-02-08
Jellyfish / Bellybutton
ジェリーフィッシュの残したアルバム、「Bellybutton」(1990年)と「Spilt Milk」(1993年)が2CDデラックス・エディションで出ました。米Omnivoreからのリイシューです。
大量のデモやライヴ音源が入っていますが、今回初出となるものは無いようです。個人的に二枚のアルバムに関しては出たときに聴いていたのだけれど、それ以外のリリースは追いかけてなかったので、なかなか新鮮。
ジェリーフィッシュを聴いていると、しょっちゅう「こういう曲、どっかで聴いたことあるなあ」と思うのだが、圧倒的な完成度による迫力でねじ伏せられてしまうのだ。引用がマニアックなものに陥っておらず、ダイナミズムを生んでいる、といったらよいか。
その点デモ(といっても殆どアレンジは出来上がっているのだが)の場合、そこまでプロダクションを詰めている訳ではないので、比較的アイディアが判り易い。コーラスだけをとってもクイーンだけじゃなく、ELOやビーチ・ボーイズ、あるいはゾンビーズっぽいなあと思ったり。今となってはそれもほほえましく感じるな。
今回のパッケージではブックレットにメンバーによるコメント、各曲の解説がついています。勿論、本編もリマスターされていて、基本的にはいいリイシューだけれど。
「Bellybutton」収録の "I Wanna Stay Home" のイントロがやけに短いものに差し換わっています。シングル・ヴァージョンか何かと間違えたのでしょうか。
あと、「Spilt Milk」のジャケットもおかしい。本来、"Jellyfish presents Spilt Milk" と書かれているはずが、"presents" の部分が空白になっている。
決定版とはいかなかったよう。ちょっと残念。
2015-02-03
フィリップ・K・ディック「聖なる侵入〔新訳版〕」
ディックの生前、最後に出された長編。これも旧訳で読んでいると思うんだけど、さっぱり記憶にないなあ。
乱暴に言うと前作『ヴァリス』で説明された世界観をそのまま小説に仕立てたもので、神が目覚め、成長し、やがて悪の力と戦うというお話。今回は最初っからいかにもSFらしい設定で始まります。
ちらっと「ヴァリス」という言葉も登場しますが、直接ストーリーに絡んでくることはない。ただ、作品内では『ヴァリス』にあったのと似たエピソードがいくつか見られます。
SFの文法を駆使しながら、新しい神話のようなものをでっち上げようとしているという感じで、エンターテイメント小説として見ると引きが弱い。
また、この作品内での幻影として扱われる世界があって、それはあるキャラクターの願望を反映しているのだけれど、同時にそれは読者である我々が実際に生きている現実に近いものでもある。ちょっと『高い城の男』っぽいですかね。その幻影の世界を否定(あるいは肯定)することで、間接的に作品の外側にある現実世界を俎上に乗せているようだ。
『ヴァリス』より読みやすいし、まとまりもいい。しかし、この作品も魅力的なイメージに乏しい上、終盤の展開などあまりに安い。読者を説得する力に欠けていると思う。思弁小説とSFの狭間で妙にバランスを取ってしまったせいだろうか。
そもそもこの作品は人生がうまくいっているひとたちに向けて書かれたものではないのだろう。もう若くはない、いい歳をして未だに現実との折り合いに悪戦苦闘している誰かのための、祈りに似た何かだ。
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