2015-04-19
Joanie Sommers / Come Alive!
1966年、ジョーニイ・サマーズがコロンビアから出した唯一のアルバム。米Real Gone Musicからのリイシューには彼女がコロンビアに残したシングルや未発表のものなどがボーナストラックとして追加されています。
アルバム全体の大雑把な印象としてはポップスではないし、ジャズでもない、ポピュラー・ボーカルと形容したいところ。やや大人な年齢層の音楽ファンをターゲットにした作品でしょうか。同時期のシングル曲を聴くと、それらはガールポップ寄りというか、ずっとコマーシャルなつくりになっているので。
洒落たアレンジはモート・ガーソンによる仕事です。プロデューサーはアレン・スタントンという、バーズの「Fifth Dimension」なんかも手掛けている人物。モート・ガーソンはポップス・ファンには "Our Day Will Come" でお馴染みですが、そもそもこのガーソン&スタントンという組み合わせは、Kappレコードでのルビー&ザ・ロマンティクスのチームでありました。
取り上げられている題材はミュージカルや映画の挿入歌、あるいは当時のヒット曲などよく知られたものばかり。演奏はビッグ・バンドによるものですが、明るくて軽やか。目立たないけれど、気持ち良く転がるピアノが効いています。
主役のジョーニイ・サマーズについては今更、付け加えることはないですか。少しハスキーで時に力強くもなれる、いい声ですなあ。決してメロディを崩したりはしないけれど、フレーズごとの抑揚からでも歌のうまさが伝わってきます。
1966年という時期にもまだ、これだけ堂々と肯定的でかつ大衆的でもある音楽を作れたところがアメリカの大きさだなあ。
休日の昼間に聴くにはぴったりの一枚ですわ。
2015-04-18
ドナルド・E・ウエストレイク「ホット・ロック」
凄腕の盗賊ドートマンダー、晴れて刑期を務め上げたものの手元には十ドルしかない。そこに古馴染みの仲間から大仕事の誘いがあった。ドートマンダーは計画を練り上げると何人かのエキスパートを集め、展示されているエメラルドの盗みに入ったのだが。
1970年発表、大人向けの御伽噺といってしまいたい、ユーモラスなクライム・フィクション。
ドートマンダーは見た目はぱっとしない中年男だが、難しい障壁をクリアする犯罪計画を立てることにかけてはまぎれもないプロフェッショナル。ところが実際にその計画は成功するものの、エメラルドは手に入らない。詰めが甘いのか単に不運なせいか、何度も何度も状況を変えては、その都度危ない橋を渡る羽目になる。
当然、その盗みの手口の創意が読みどころなのですが、仲間たちのキャラクターも立っており、とぼけた会話もあって親しみが持てます。
コメディとしてはドタバタだけでなく、同じシチュエーションの繰り返しを使ったり、いい加減に仕事に嫌気が差し始めているドートマンダーと気楽な他の仲間たちとの落差であったりで、当人たちからすれば笑いどころではないのだが、外から見ると・・・・・・という感じですね。苦虫を噛み潰したような顔で繰り出されるところが、何とも好み。
省略がうまく効かされた展開といい、ちょっとしたプロットの捻りといい、職人的語り口のうまさも印象的です。
軽量級ですが、実にいい気分で読めるの作品ですな。子供の頃よく見ていた、アメリカ製の連続TVドラマを思い出しました。
2015-04-11
Brian Wilson / No Pier Pressure
とりあえずブライアン・ウィルソンに対しては、元気でやっていてくれればそれでいいや、くらいの期待しかしないように心掛けてはいるんだけれど。二曲目のエレポップみたいなのが流れてきたときは頭を抱えた。いいのはイントロとエンディングだけじゃん。
しかし、その後も聴いているうちに、なんだ、そんなに悪くないアルバムじゃないか、と思い直した。まだそれほど聴き込んだとはいえないけれど、この作品は初めの方より中盤から後半にかけての曲がいいなあ。特に、アル・ジャーディンが参加している曲の出来が締まっているように感じます。
僕の買ったのはジャケットにデラックスと書かれているCDで、18曲入りのうち2曲がボーナストラックです。他に13曲入りと16曲入りのがあるようですが、13曲仕様に入っていない3曲が結構いいので、これから買う人には曲数が多目のやつを勧めます。
ところでボーカル・パートに関しては、いっそのこと全部、他人に歌わせてしまってはどうだろうか、と考えていたことがある。バート・バカラックみたいなスタンスでさ。
この新作ではゲストがいっぱい入っていて、リード部分もかなり任せている。けれど、長年聴いているせいか、なんだかそういったところではあまりオケに歌が馴染んでいないように感じるんだな。よれよれであったり、加工されて幽霊みたいになっているようなものでも、ずっとブライアンの声のほうが据わりがいい。
結局、シンガーとしてもブライアン・ウィルソンの代わりはいないのだろう。だったら、これを受け入れていこうか。
ということで、個人的なベストトラックはゲストが入っていない "One Kind Of Love" という曲です。またしてもブライアンの音楽に泣かされてしまったよ。
しかし、全体にあまり抜けのいいサウンドとはいえないな。余計なお世話だが、これじゃあ新しいファンは付かないのでは。そろそろジョー・トーマスはいいんじゃないかな。
2015-04-08
アガサ・クリスティー「ポケットにライ麦を」
社長であるフォテスキュー氏は秘書が入れた朝のお茶を飲んだ直後に苦しみ出す。病院に搬送されたものの、暫くして息を引き取った。死因は毒殺。さらに死体のポケットには何故か、たくさんのライ麦の粒が入れられていることがわかった。捜査に当たることになったニール警部は被害者の家族ひとりひとりに疑いの目を向けていたが、その矢先にさらなる事件が。
1953年発表、ジェーン・マープルもの長編。
「6ペンスの唄」というマザー・グースをモチーフにした事件が描かれています。
連続殺人なのですが、被害者たちと同居している人々の誰もが機会と動機をもっているようであって、なかなか犯人の目鼻がついてこない。
それでも、マープルが登場して見立て殺人であることを指摘すると、さらにそこから発展して過去の因縁も浮かび上がってきます。また、故人の残した遺言状に付帯条件というのがあって、これが出てくることで状況にちょっとしたひねりが。
事件の持つ奥行きが見えてくることで、どんどんと引き込まれていくわけで。はっきりした手掛かりが浮かんでこなくても、読んでいて愉しい。
謎解きの方はは起伏をはらんでいる上に意外性も備えていて面白い。ですが、ちょっと肩透かしな感も受けました。犯人の計画はいかにも適当過ぎるし、異様な道具立てもあまり生かされていない。
雰囲気やきびきびとした展開は良かったのだけれど、ミステリとしては緊密さに欠けると思います。
本作品はむしろ「ミス・マープル自身の事件」としての側面が強いのかな。
2015-04-05
White Plains / The Deram Records Singles Collection
ホワイト・プレインズが1970~'74年に、英デラムよりリリースしたシングル両面をリリース順に収録したコンピレーション。これら以降にもいくつか小レーベルよりシングル・リリースがあるそうですが、それらは彼らがいったん解散したあとのものであり、メンバーが大分違っているらしい。
デラムでの彼らのプロデュースは全曲がロジャー・クックとロジャー・グリーナウェイが務めており(いくつかはふたりのどちらか単独)、斬新なところはありませんが、とにかくわかりやすいポップソングが楽しめます。
ホワイト・プレインズには以前から出ていたCDがあって、そちらにはファースト・アルバム丸ごとにデラムからのシングルA面曲は全て収録されています。そういうわけで今回、音源的に初CD化となるのはB面のものばかり9曲となります。セカンド・アルバム収録12曲のうち10曲がまとめて聴けるようになった、ともいえるのですが。
リマスターのほうはまあまあ、いいのでは。中域のしっかりした、バブルガム・ポップにふさわしいものという感じです。
また、今回のリイシューではライナーノーツがちゃんと調べた上のもので、価値があるように思います。メンバーの変遷やシングル毎のエピソードまで盛られており、ちょっと読み応えがありますよ。
はっきりしていなかったこのグループの出自についても書かれていまして、今までもフラワー・ポット・メンの末期を引き継ぐボーカル・グループとして知られてましたけれど。実際のところはフラワー・ポット・メンが解散したあと、彼らの未発表であった録音曲をデラム・レコードが勝手にホワイト・プレインズの名義で発売したところ、これが当たったということ。それで元メンバーたちが呼び寄せられた、といういきさつらしい(もっともトニー・バロウズはすぐに離れてしまいますが)。
で、その大ヒット曲が "My Baby Loves Lovin'" です。モータウンあたりを下敷きにしたと思しい楽曲に下世話なストリングスが乗っかった、英国MOR王道といった感じで。親しみやすいメロディと乗りの良さでぐいぐい押し切ってくれます。明るいキャラクターのボーカルも忘れてはいけないところですが、ライナーノーツによれば一般に信じられているのとは違い、この曲でリードを取っているのはトニー・バロウズではなくリッキー・ウルフということらしいですよ。
2015-03-30
青崎有吾「体育館の殺人」
三年前の鮎川哲也賞作品。文庫化に際して大幅に改稿されているそうであります。
密室殺人とフーダニット、いっそ潔いくらいにそれだけですな。
キャラクターはペラペラですけど展開はテンポ良く、読みやすい。探偵役はもったいぶることなく、気前良く推理を開陳し続けてくれるのでだれ場もない。
アニメどうこうはヴァン・ダインのペダントリーみたいなもんでしょ。古びてもかまわないし、逆に数十年後にはいい味になっているのではないか。
個人的にフェアプレイの謎解きにはどうしたって、点が甘くなってしまうのだが。
論理の飛躍に補助線が欠けているところがあって、ちょっと気になった。思いつき→調査→裏付け現る、という展開はご都合主義のような印象を受けてしまう。この手順を変えると探偵役の設定にうまく嵌らないのだろうか。
また、余詰めをどの程度やるか、というのも難しいところ。あっさり流せば細かい推理をしている部分との落差が目立つし、逆にあまりねちっこくやると流れが悪くなってしまう。結構、名の通っている作家でもここら辺りがうまくいっていないことがあるのだけれど、仮にも「平成のエラリー・クイーン」なら(本人が自ら名乗っているわけではないのだろうが)スマートに処理してほしいところ。
抜群に冴えた手掛かりを起点に、どんどんと転がっていくロジックが生み出すスリルと、その先に見えてくる意外な光景。あれですよ、論理のアクロバットってやつ。とりあえずそれがあれば充分だ。
凄く面白かった。ああ、氷川透が帰ってこないかな。
2015-03-29
Eugene Record / The Eugene Record
昨年の暮れ、英Expansionからユージン・レコードのソロが2in1でリイシューされました。ファースト「The Eugene Record」、セカンド「Trying To Get To You」とも海外では初CD化のよう。
僕の中では何となく、'70年代のシカゴ・ソウルにおけるユージン・レコードのイメージは、'60年代デトロイトにおけるスモーキー・ロビンソンのそれとだぶっている。ソフトな歌い口に、品が良くメロウで、ロマンティックな作風。グループのリーダーとして活動しながら、レーベルメイトのレコード制作にも裏方で貢献していて。ついでにいうと同業者と結婚した、という共通点もあるな。
さて、ファーストソロ「The Eugene Record」は1977年リリースで、プロデュースはユージン・レコード自身、アレンジはユージンとトム・トム84が担当。
このアルバム、サウンドの作り込みがかなりしっかりしていて、密室的といってもいいかも。大胆にシンセを鳴らしている曲があれば、非常に細かいアレンジが詰まっている曲あり、ボーカルにエフェクトがかかっている曲なんかもあって、下手をするとごちゃごちゃしてしまいそうなんですが、仕上がりは滑らかで美しく、下世話さを感じさせないものになっています。特にエレピや管の響きが良いですね。
アナログではA面にあたる前半はゆったりとしたミディアムが中心。中では浮遊感を湛えたサウンドの "Here Comes The Sun" が素晴らしく、エンディングの長いインスト部分など相当に格好いい。続く、いかにもシカゴらしい軽快な "Overdose Of Joy" も悪くないな。
アルバム後半スロウばかり4曲連続で、個人的な趣味からすると落ち着き過ぎなんですが、ひとつひとつはいいメロディのものばかり。甘いけれど、くどくはない節度が好ましいです。
全体を通じてはっきりとした美意識が感じられる一枚ですな。
翌年の「Trying To Get To You」でも同じようなスタッフで制作されているのだけれど、サウンドのほうはぐっと開放的なものに。独創性は薄れたものの、その分親しみやすさが増していて、より広い層にアピールしそうな感じ。
楽曲のほうもキャッチーでわかりやすいものが多く、特に2~4曲目にかけて、メロウさが先立つミディアムが続く流れが絶品。シャイ・ライツ的なフレーズをこだわりなく使っているのも吉と出ているよう。
アルバム全体を包む暖かい雰囲気も心地いい作品です。
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