2015-08-07
Sergio Mendes & Brasil '66 / Herb Alpert Presents
このところ初期のブラジル66をよく聴いていまして。
一枚目のアルバム「Herb Alpert Presents Sergio Mendes & Brasil '66」(1966年)が特にいいすね、勢いがあって。華やかなのはもちろんなんだけど、この時期にはまだ演奏にジャズボサとしての形が残っていて、ピアノはテンション多目で気持ちいい。音全体からもダイナミズムというか肉体性のようなものが伝わってくる。
次の年に出された「Equinox」は前作の延長線にありながらも、よりソフトサウンディングなつくりに。軽やかなスキャットやコーラスが気持ちよく、サンシャイン・ポップ的な楽しさを感じます。
中でも "Night And Day" の洒落た仕上がりには感心させられますが、ボサノヴァのスタイルがすでに足枷というか、不必要に感じられる面もあるかな。
で、三枚目の「Look Around」というのになると、まあこのアルバムが一番セールスが良かったそうなんだけれど、ジャズっ気は抜けているしリズムの鳴りも控えめ。さらには、曲によってはストリングスが入れられるようになるのだが、個人的には下世話に過ぎるように感じてそれらはあまり趣味ではない。まあ、大人なポップスとして洗練された形ではあるのでしょう。
アレンジの冴えは素晴らしく、ビートルズのカバー "With A Little Help From My Friends" なんて、実に意外な導入でありますよね(もっとも「キーを外して歌ったら」セルメンは絶対許さないだろうが)。
フォロワーはあまただけれど、本家はやっぱりよく出来ているわ。斬新でアイディアにあふれたアレンジもさることながら一番の違いは音の手触りであって、つまりはハリウッド・ポップスということなんだろうな。パーカッションがクリアでありながらも生々しくは響いていないというのはひとつのポイントだと思う。
2015-08-02
カーター・ディクスン「ユダの窓」
これまた古典中の古典、以前は早川から出ていましたが、今回は創元推理文庫から。どこにも新訳とは書かれていないけれど、新訳ですね。
ダグラス・G・グリーンによる序文が付いていまして。ヘンリ・メルヴェール卿のキャラクターについて「本質的にとてもアメリカ人らしい」という指摘にはなるほど、と。
さて、本作品の主眼は密室内で死体とともに発見された青年の容疑を晴らすこと、であります。そのほとんどが法廷の場で展開するのだが、探偵小説はこんな風にも物語ることができる(しかも、面白く)のだ、というカーの心意気を感じます。実際、事件と直接関係のない要素が省略されているため、ミステリとしての純度は相当に高いのですね。
メイントリックはシンプルにして理解しやすいものですが、そこに行き着くまでのディスカッションというかディベートが愉しい。意外な新事実がひとつひとつ浮かび上がっていくことで、密室の手掛かりはもちろんですが、被疑者が巻き込まれた複雑な奸計が少しずつ明らかになり、裁判の成り行きが大きく変わっていく醍醐味。また、H・M卿がある証人に対して用いた引っ掛けも気が利いている。
真犯人は不明なのに、これほどフーダニットとしての興味を棚上げにしたままで、ドラマを作り上げられたミステリはそうはないんじゃないだろうか。
再読ですが、抜群に面白かったです。
巻末には昭和の末期に行われたという、瀬戸川猛資ら4人がカーの魅力を語る鼎談が収録されています。内容としては松田道弘による「新カー問答」を踏まえたような、ストーリーテラーとしてのカーに着目したような感じかな。すごく愉しそうに語るんだよな、みんな。駄目なところも含めてカーが好きだ、というのが伝わってくる。
つぎは『髑髏城』ですかね。
2015-07-26
Procol Harum / Procol Harum (eponymous title)
プロコル・ハルムの初期アルバムが英Esotericよりリイシューということで。
まず、ファースト「Procol Harum」が2CD、セカンド「Shine On Brightly」が3CDで出ました。
ファーストの「Procol Harum」は英国では1968年にリリース。米国ではその前年に、デビュー・ヒット "A Whiter Shade Of Pale" をオープナーに入れ、代わりに "Good Captain Clack" が落とされた仕様でリリースされました。先に出たから米盤がオリジナルだよ、というひともいるようです。
このアルバム、当初はオリジナル・ラインアップで'67年の五月から七月にかけてレコーディングされていたそうですが、うまくいかなかったようで。完成したものはギターがロビン・トロワー、ドラムがB.J.ウィルソンに交代してまもないうちに、二日ほどで制作されたのだそう。
すでにバンドの個性としては確立されているようでありますが、ライナーノーツでは "A Christmas Camel" におけるピアノのフレーズがボブ・ディランの "Ballad Of A Thin Man" から来ていることや、"Good Captain Clack" とザ・フーの "Tommy's Holiday Camp" の相似などを指摘していて、なるほどなあ、と。
今回のリイシューでは当然レアトラックが多く収録されていまして、中でも初出となるのが7曲あるBBCセッションです。
うち3曲はオリジナル・ラインアップによる貴重なもの。ですが、やはりドラムはB.J.ウィルソンに比べると見劣りがしますな。
そして、そのウィルソンとロビン・トロワーが加入してからの演奏ですが、ファーストアルバムでは録音の平板さもあってか、ややおとなしめに感じられていたのが、ぐっと生き生きとした表情のものになっています。"Kaleidoscope" なんて実に格好いいですよ。音質も上々なり。
「Shine On Brightly」でも8曲のBBCセッションが初出なのですが、それより目を引くのがアルバムのモノラル・ミックスで、これも初CD化ということであります。
そもそも彼らのファーストアルバムに純正のステレオ・ミックスが存在しないのは、プロデューサーのデニー・コーデルがフィル・スペクター信奉者でステレオに興味がなかったからだそう。「Shine On Brightly」ではメンバーの強い要望によってステレオ・ミックスが実現しましたが、コーデル自身はやりたくなかった、と。
実際にモノラルの「Shine On Brightly」を聴いてみると、そんな劇的には違わないものの、ちょっとこじんまりとした印象ですね。サイケデリックな意匠が伝わりにくくて。やはりこのアルバムはステレオで正解だった、ということでしょう。
いちばん手前、ディスク3のケースのデザインはロシア盤を模したものらしい |
2015-07-21
アガサ・クリスティー「死者のあやまち」
1956年発表になる長編。クリスティ作品は発表年代順に読んでいるんだけれど、ここのところ低調なのね。しっかり練られたとは思えない、雑なのが多くなっている気がするのだ。じゃあ、本作はどうかというと。
「でも、明日、犯人探しの余興の殺人のかわりに、ほんものの殺人があったとしても、あたしは驚かないわ!」
エルキュール・ポアロは探偵作家のオリヴァ夫人から呼び出され、デヴォンシャーにある屋敷に向かった。彼女は依頼を受けて当地で行われる推理劇の筋をつくったのだが、人々からの口出しによってそれは影響をこうむっているのだという。何かがよくない、自分が操られている、という印象を口にするオリヴァ夫人であったが・・・・・・。
劇中に本物の事件が起こるという、黄金期以来のいかにもミステリらしい設定が扱われています。
ポアロは推理の取っ掛かりらしきものは掴むものの、それらが何を意味するのかが判らない。ひとつの事実を起点に謎が解けていくわけではなく、いくつかの手掛かりが集まってくることで、それらが当てはまる全体図が見えてくるもののよう。
正直、推理そのものは飛躍があるというか、手掛かりが少なすぎると思うのですが。その分、いきなり叩きつけられる真相はなかなか衝撃的。犯人を見抜いていた読者さえ騙してしまえという、このあこぎさがクリスティの味ですな。浮かび上がる伏線も非常に印象的なものであります。
また、被害者即犯人という古典的なトリックも、状況がはっきりするタイミングをずらすことでわかりにくいものにする創意がみられます。
相変わらず犯罪計画には無理が目立ちますし、必要があまり感じられないキャラクターも登場するのですが、それでも持ち直した作品だとは思います。ええ、面白かったですよ。
2015-07-19
ブライアン・オールディス「寄港地のない船」
1958年発表になるオールディスの第一長編、その初訳だそう。
世代間宇宙船ものということなんですが。おそらくかつては高度であったに違いない文明が衰退、宇宙船の中は荒廃が進み、いたるところ植物が鬱蒼としています。人々は狩猟を中心にした素朴な生活を送っていて、彼らにとって宇宙船自体が世界のすべてであり、そもそも自分たちがいるのが船の中であることすら半ば忘れ去られているよう。
若い狩人、コンプレインも原始的な言い伝えに従って生きてきました。だが、トラブルに巻き込まれたことを契機に、自らの部族を離れて危険な旅に出ることになる。
長編デビュー作とはいえ、実在感ある世界の描写と活力あるキャラクターは、すでに大したものですな。
特に、第一部では環境のあり方があたかも心象に対応して変化しているような表現が見られます。ここら辺りは後のニューウェーヴSFにもつながっていそうだ。
そして、他の種族との邂逅などを重ねながら、冒険の旅はいつしか、自分たちの住む世界の根源的な秘密へと迫るものになっていく。同時にコンプレインの自己発見としての物語としてもよくできています。
最後まで放り出されたままの要素は見受けられるけれど、それさえもひとつところには収まらないような世界のありかたを示しているようだ。
また、現在からすればその仕掛けには予想のつく部分がありますが、それでも勢いにまかせて乗り切ってしまえるような力強さを感じました。
やっぱり古典ですね。いいですわ。
2015-07-18
パソコンでブルーレイディスクを再生してみた
先に載せたストーンズのマーキーについての文章、あれを書いていてスクリーンショットを挿入したいなと思いまして。パソコンの対応ドライブにブルーレイディスクを入れたのだが、これが再生できない。
AACSがどうこう、というエラーメッセージ。調べてみるとコピープロテクトらしい。有償の視聴ソフトを買えばいいのだそうだが、とりあえずキャプチャーをしたいだけなので、そこまではちょっと。
というわけで方法がないか、ちょっと考えてみた。
AACSがどうこう、というエラーメッセージ。調べてみるとコピープロテクトらしい。有償の視聴ソフトを買えばいいのだそうだが、とりあえずキャプチャーをしたいだけなので、そこまではちょっと。
というわけで方法がないか、ちょっと考えてみた。
The Rolling Stones / The Marquee Club: Live In 1971
今更なので、簡単に。
僕が買ったのはブルーレイ版+CDに、「The Brussels Affair」2CDがバンドルされたやつ。最初に入手したものはブルーレイの映像に縞が走る不具合があったのだけれど、無償交換で綺麗な画で見ることができるようになりました。
古くからブートで出回っていた映像ですが、さすがにオフィシャルなものは比べ物になりませんな。内容としてはスタジオライヴ的な雰囲気であって、ライヴにしてはラフなところが少なく、まとまりが意識される演奏だと思います。
改めていいな、と思ったのは "I Got The Blues"。スタジオ・ヴァージョンだとエコー処理のせいか、英国ロックらしさが残っているように思えるけれど、ここではまんま'60年代スタックス。ストーンズのソウル・ミュージックに対する愛情がむき出しで出ているようで、うれしくなります。
あと、"Bitch" ではギターリフをミック・テイラーが弾き、リードをキースが取っていますな。「Sticky FIngers」のブックレットを読むと、最初はぱっとしない曲だったのが、遅れてやって来たキースがテンポを上げてギターを弾くと凄く良くなった、というアンディ・ジョンズの証言がありますが。実際、レコードではどうだったのだろう。
同梱の「The Brussels Affair」は1973年のライヴ。「Goats Head Soup」からの "Dancing With Mr. D." や、"Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)" あたりが聴きものですね。ミック・テイラーのギターは自由自在に浮遊するようで、滑らかさからは管楽器的なニュアンスさえ感じます。
この時期はビリー・プレストンもいるせいか、とんでもない勢いがあります。ただ、ときにそれが行き過ぎて、テンポ早目の曲ではひっかかりがないようなところも。個人的には、もっとグルーヴのある演奏が好みなんだよなあ。
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