2015-08-02

カーター・ディクスン「ユダの窓」


これまた古典中の古典、以前は早川から出ていましたが、今回は創元推理文庫から。どこにも新訳とは書かれていないけれど、新訳ですね。
ダグラス・G・グリーンによる序文が付いていまして。ヘンリ・メルヴェール卿のキャラクターについて「本質的にとてもアメリカ人らしい」という指摘にはなるほど、と。

さて、本作品の主眼は密室内で死体とともに発見された青年の容疑を晴らすこと、であります。そのほとんどが法廷の場で展開するのだが、探偵小説はこんな風にも物語ることができる(しかも、面白く)のだ、というカーの心意気を感じます。実際、事件と直接関係のない要素が省略されているため、ミステリとしての純度は相当に高いのですね。
メイントリックはシンプルにして理解しやすいものですが、そこに行き着くまでのディスカッションというかディベートが愉しい。意外な新事実がひとつひとつ浮かび上がっていくことで、密室の手掛かりはもちろんですが、被疑者が巻き込まれた複雑な奸計が少しずつ明らかになり、裁判の成り行きが大きく変わっていく醍醐味。また、H・M卿がある証人に対して用いた引っ掛けも気が利いている。
真犯人は不明なのに、これほどフーダニットとしての興味を棚上げにしたままで、ドラマを作り上げられたミステリはそうはないんじゃないだろうか。
再読ですが、抜群に面白かったです。

巻末には昭和の末期に行われたという、瀬戸川猛資ら4人がカーの魅力を語る鼎談が収録されています。内容としては松田道弘による「新カー問答」を踏まえたような、ストーリーテラーとしてのカーに着目したような感じかな。すごく愉しそうに語るんだよな、みんな。駄目なところも含めてカーが好きだ、というのが伝わってくる。

つぎは『髑髏城』ですかね。

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