2016-02-27

Harpers Bizarre / The Complete Singles Collection (1965-1970)


ハーパーズ・ビザールがワーナー在籍時にリリースしたシングル曲のコンプリート集。英Now Soundsからのリリースで、全26曲中24曲がモノラル・ミックスです。
収録全曲について、メンバーであるディック・スコーペトンによるコメントが添えられています。それによれば、ヴォーカル・パートはディックとテッド・テンプルマンの二人が何度も繰り返し声を重ねて作り上げていったもの。また、もともとロック・バンドとして出発した自分たちがコール・ポーターなどの昔の曲をやることについて複雑な気持ちがあった、という正直なところも明かされています。そして、4枚目のアルバム制作に至って、長い時間をかけてワーナーのスタッフを説得することにより、自分たちでの演奏も採用されるようになったとも。

オリジナル・マスターを使用したというモノラル・シングル・ミックスは中域のしっかりしたもので、耳にやさしい仕上がり。いつもながらNow Soundsは丁寧な仕事ですな。
彼らのキャリアが後半になるにつれて、シングルのチャート・アクションは徐々に落ちていったようですが、続けて聴いていても質が悪くなったという感じはないですね。ただ、ちょっと音楽的にヒップになりすぎてしまったのかな、という気はします。

もっとも、ディスクの最初には前身バンドであるティキスの曲も入っていますが、これらは改めて聴いてもそれほどの個性は感じられないかな。ここから彼らのソフトな声質に目をつけたレニー・ワロンカーらは大したものだな、と思いますけれど。
ところで、そのティキス時代にはスライ・ストーンになる前のシルヴェスター・スチュワートの元でデモ録音を行っていたそうですが、ディックによればそのころからスライは別の惑星の生き物のようだった、とか。

ハーパーズ・ビザールにはシングル以外でもいい曲が多いので、必ずしもこれ一枚で最良の部分をさらった、ということにはならないとは思いますが。聴いていて、ただただ楽しいコンピレーションではあります。
シングル・オンリーのものだとアドリシ兄弟の書いた "Malibu U." が個人的なベストかな。しかし、これB面曲なんだよねえ。凄いよなあ。

2016-02-20

The City / Now That Everything's Been Said


1968年にリリースされたシティ唯一のアルバム。昨年秋に、米Light In The Atticからリマスター盤が出ました。
長文のライナーノーツがついていて、アルバム制作の背景について色々と知ることができます。オードの社長でプロデューサーのルー・アドラーは、第一にはキャロル・キングのレコードが欲しかったのであって、グループであることにはそれほど興味はなかったことや、制作時にはみな(ルー・アドラーが持ち込んだ)ローラ・ニーロのデビュー・アルバムを良く聴いていて、単にポップソングにとどまらないその音楽性から影響も受けていたことなど、なかなか興味深い。
音のほうは旧日本盤CDと比べるとかなり良くはなっていますが、もともとのミックスがあまりすっきりしないもののように感じます。また、チャールズ・ラーキーによればレコーディングはロサンゼルスで行われたそうですが、どこにでもあるような、特別なところのないスタジオだったということ。エンジニアもあまり聞いたことのないひとで、つまりは録音もいまひとつなのか。
まあ、それはともかく。

チャールズ・ラーキーとダニー・クーチマーは、キャロル・キングのソロ・デビュー盤「Writer」にも参加していますが、少人数での制作のせいか、この「Now That Everything's Been Said」のほうがぐっと親密な印象を受けます。
楽曲はひとつを除いてすべてキャロル・キングのもので、さすがにいいものばかり。"Snow Queen" はロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズが、"I Wasn't Born To Follow" はバーズ、タイトル曲はスプリング、"A Man Without Dream" はモンキーズが演っている曲。きっちりと仕上げられたそれらのヴァージョンに比べれば、ここで聴けるものはプロダクションが簡素で、それが物足りなくあり、また魅力でもあるか。サウンドの隙間をアイディアで埋めていこうという姿勢は個人的には嫌いじゃない。
しかし、まあジム・ゴードンのドラムの見事なこと。そのせいで、逆にほかのメンバーの不安定さが目立つような気もしますな。

欠点はあれどいとおしい、そんなアルバム。'68年という時代を反映しているように、楽観的な雰囲気もいいのですね。

2016-02-07

アガサ・クリスティー「教会で死んだ男」


英米で出された二つの短編集から編まれた、早川書房オリジナルの拾遺集。
1920年代に発表されたエルキュール・ポアロもの十一作に加え、'50年代に発表されたジェーン・マープルものとノンシリーズのものがひとつずつ収録されています。

『ポアロ登場』でもそうであったけれど、ごく初期の短編はシャーロック・ホームズ譚の影響がすごく強い。「呪われた相続人」「料理人の失踪」のプロットなど、そのまんまという感じ。
ヘイスティングズの語りにもワトソン博士風のところが多く見られて微笑ましく、特にクリスティの短編として最初に世に出たという「戦勝記念舞踏会事件」の書き出しなど、もしかしてパロディなのか? と思うほどだ。

ミステリとしては「クラブのキング」がシンプルな手掛かりが効果的でいいし、「マーケット・ベイジングの怪事件」も物証から組み立てられる手堅い推理が悪くない。また、「コーンウォールの毒殺事件」での心理分析は後年の長編に通じるものがあるか。
しかし、意外な真相を志向しているものの伏線不足で、ポアロの推理を聞いてもあまりピンとこないものも多いな。むしろ謎解き小説の定型を脱している「二重の罪」や、ヘイスティングズが出てこない「スズメ蜂の巣」が、展開が読めなくて面白かった。

ノンシリーズの「洋裁店の人形」は知らないうちに移動している人形の話。ミステリではないのですが、一作こういうのが混じっていてもいいか。

最後の「教会で死んだ男」はマープルもので、冒険スリラー作品に近いテイストかな。『予告殺人』の牧師夫妻が再登場。
大して手掛かりはなくとも、例によってマープルにあっちゃあ何でもお見通しだ。

後に中・長編に仕立て直されるアイディアも見られますし、ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人の初登場作品なんてのもありますが、全体として小粒な印象。まあ、ファン向けですね。

2016-02-01

Jimmy McGriff / The Best Of The Sue Years 1962-1965


ジミー・マグリフが1960年代前半、スー・レコードに残した録音からのコンピレーション盤。

寒い季節になるとオルガン・ジャズを聴くことが多くなる。僕がこういった音楽に興味を持つようになったのは'60年代英国のR&Bグループの影響だ。すぐに思いつくのはスペンサー・デイヴィス・グループ、ペドラーズ、ブライアン・オーガーなんてところ。
マグリフというひとのプレイはブルース・オルガンと形容されたりもして、短いフレーズを積み重ねるようなソロを取る。その緩急がブルース・ギタリストの演奏にも通じるようで、ロック・ファンにもとっつき易いのですね。

このコンピレーションではクリスマス・アルバムとビッグ・バンドを従えた「Topkapi」からの曲は外されていて、全編にわたってスモール・コンボによるご機嫌なソウル・ジャズが楽しめます。時代を反映してか演奏もコンパクトにまとまったものばかり。マグリフはもっと後年のファンキーなものにも格好良いのがありますが、この頃はもろモッズ好み、という気がします。

軽い音楽といえば確かにそうか。けれど、温かみを感じさせるサウンドがなんともたまらない。フットベースのせいもあるんだろうな。
なお、この盤を出していたStatesideというところは良いリイシューを結構やっていたのだけれど、親会社が変わったせいで、みな廃盤になっちゃったようですね。

2016-01-31

パーシヴァル・ワイルド「ミステリ・ウィークエンド」


1938年に発表された、パーシヴァル・ワイルドのミステリ第一長編。ワイルドは1910年代から作家として活動していて、長編デビュー作とはいえ既に十分なキャリアは積んでいたことになります。

ウインター・スポーツを売り物にしたホテル、そこで事件は起きます。大雪によって交通が遮断、電話も不通となってしまう。古典的なクローズド・サークルですが、そのいきさつが登場人物四人の手記によって、リレー小説のかたちで語られていきます。
作家を自称するあからさまに胡散臭い男が出てくるし、不可解としか言いようのない現象も繰り返される。テンポよく軽快な語りに乗せられ、物語が進むにつれて謎のほうも増えていくのだから嬉しくなってくる。

そういったように道具立ては黄金時代を思わせるミステリなのだけれど、解決編はパズルの妙味よりもトリッキーな意外性とユーモアが先に立つようなもの。伏線過多のところがあってごたつきますが、勢いで乗り切ってしまえているかな。
『検視審問』シリーズの作者としての期待を裏切らない、凝りに凝った楽しい作品でした。

ところで、この「ミステリ・ウィークエンド」という長編は200ページ足らずしかありません。本書にはその埋め合わせに短編3作が併録されています。その中では「自由へ至る道」が良いか。クライム・ストーリーとして始まりながら全然違った方向へと展開していく、奇妙な誇りの物語です。

2016-01-24

エラリー・クイーン「熱く冷たいアリバイ」


ご近所さんが集まってのバーベキュー、その席上である若い夫婦の間にちょっとしたいさかいが起こる。翌日、妻の方が刺殺体で発見され、別の場所で夫は薬物が原因で亡くなっていることが判明した。夫が妻を殺した後で自殺した事件、そのように見えたが、担当のマスターズ警部補は現場の状況から工作の気配を嗅ぎ取った。


〈エラリー・クイーン外典コレクション〉、その第三作です。発表は1964年、代作者はフレッチャー・フローラという、あまり聞いたことのないひとなのですが、物語は非常にテンポ良く展開していくし、キャラクターの書き分けもいい。だれ場もなく大変読みやすいのだが、あまり印象的な場面や個性といったものもないか。

ミステリとしては手堅い謎解きが楽しめます。マスターズ警部補が推論に基づいて捜査していくと、それを裏付ける証拠が出てきたり、あるいは別の線を指し示す事実に出くわしたり。試行錯誤がありつつも、結構、都合よく話が進んでいくような印象です。
意外な展開もあるのだけれど、あまりけれんを感じさせない構成・文章なので、さほど盛り上がってこないのが残念。このプロットならもっと面白くなったのでは、という気がしちゃうんですよね。

しっかりと構築されたフーダニットではあって、まあ、ペーパーバックなら十分満足な内容なんだけれど、こちらはハードカバーで買って読んでいるわけであって。ううん。
今回の〈外典コレクション〉、三作ともそんな感じですね。収まりが良すぎるというか。また、よほど熱心なファンでない限り、これらの作品からクイーンのテイストを汲み取るのは難しいと思います。監修者の飯城勇三氏は解説で「ジャック・ヴァンスとリチャード・デミングに関しては、それぞれもう一作くらいは訳す価値があると思っている」と書かれていますが、個人的にはもういいかな。

2016-01-21

The Four Freshmen / Four Freshmen and 5 Trombones


ポップス・ファンにとってのフォー・フレッシュメンとの接点というと、そのハーモニーからブライアン・ウィルソンが大層に影響を受けた、というところで。僕もその流れで興味を持ったわけですが、若い時にはそんなにいいと思わなかったのですよ。落ち着いた、いかにも大人な音楽という感じで。
それが、このところはこればっかり聴いていたわけで。つまりはおっさんになった、ってえことだな。

「Four Freshmen and 5 Trombones」は1955年、キャピトルからのリリース。フォー・フレッシュメンのアルバムとしてはこれ以前にも一枚ありますが、それまでの録音を寄せ集めたような内容であって、アルバム単位として制作されたのは、この「~5 Trombones」が初めてだったそうであります。
編成は4リズムに、5本のトロンボーン。ギターにはバーニー・ケッセルがクレジットされていまして、実際に滑らかなソロを披露する場面もありますが、これはあくまでアンサンブルで聴かせるアルバムですね。

主役であるフォー・フレッシュメンのコーラスについてはもう今更、言うことはないですな。アルバムのオープナー、ドラムレスの演奏に乗せて歌い出される "Angel Eyes"、このいきなりのハモリが見事で、ため息が出そうなもの。あとは、ただただ聞き惚れる、という感じ。

収録曲のうちではクルト・ワイルの "Speak Low" が目を引くかな。クルト・ワイルというとドアーズが演っていた "Alabama Song" もそうだったか。それはともかく、僕がこの "Speak Low" という曲を知ったのはハーパーズ・ビザールが再結成アルバム「As Time Goes By」で取り上げていたからで、そちらは非常に瀟洒な仕上がりのものでした。
フォー・フレッシュメンのヴァージョンはラテン風味の味付けが楽しく、リズムの変化も盛り込まれたアレンジが印象的でありますね。

全編にウェスト・コーストらしい明るさが感じられ、軽快にスイングするアルバムであって、ストレスなく聴けます。
しかし、こういう音楽を欲するというのは、やはり疲れているということだろうか。