2018-12-16
The Reflections / Love On Delivery
ニューヨークのボーカルグループによる唯一のアルバム、キャピトルからのリリース(1975年)。プロデュースはJ.R.ベイリーと彼の「Just Me 'N You」に大きく手を貸したケン・ウィリアムズ。アレンジは全10曲中6曲がメイン・イングリーディエントを手掛けたバート・ディコートーで、4曲がホレス・オットー。
このグループはシングルが一曲、R&Bチャートでトップテンに入っただけの存在なので海外ではさほど人気はないのでしょうが、ここ日本に限っては何度かリイシューがなされてきました。
ボーカルグループとしてはハスキーなハイテナーのリードが特徴的です。熱っぽく、ラフな歌声は端正なバックとのコントラストで良く映えています。
ニューヨーク録音であっても、音のつくりはフィリーを強く意識したもの。特にミディアム・ダンサーでそれが顕著で、オープナーの "Day After Day (Night After Night)" なんてまるっきりスピナーズだし、"Telephone Lover" なんて歌いまわしもフィリップ・ウィンだ。時代的にややディスコ入りかけであって、個人的な好みのサウンドからは少しずれているものの、まあ相当に良く出来ています。
作曲は全体の半分がプロデューサーのベイリーとウィリアムズによるものですが、あと半分はリフレクションズのメンバー自身によるオリジナル。後者でもスロウの曲にはいいものがあります。"Now You've Taken Your Love" はサビ終わりの転調が洒落ていて、コーラスのトップがファルセットになるところなどたまらない。同じくスロウの "One Into One" もオーソドックスでありながら雰囲気たっぷり、実に聴かせる出来栄え。ミディアムでは "Are You Ready (Here I Am)" のイントロのつくりや、歌のバックでリズムがストップするアレンジが印象的で、よく考えられていると思う。
ベストとなるとやはり "She's My Summer Breeze"。これだけが陰影の深いニューソウルといった趣で空気感が違う。まあ、もろ「Just Me 'N You」の音世界なのだが。
2018-11-25
Hugo Montenegro / Lady In Cement
フランク・シナトラ主演の私立探偵もの映画「セメントの女」(1968年)、そのサウンドトラック盤。リイシューは2002年に英Harkitから。ボーナストラックとして別テイクが二つに出演者のインタビューが入っております。
Harkitという会社、評判は必ずしもよろしくない。音源がアナログ起しだったり、他社から限定で出ていたもののコピー臭かったり、あるいは権利をクリアしていないものを発売していたり。しかし、レアなタイトルを持ってくるので、なかなかに悩ましい。
この「Lady In Cement」も他所はどこも手を出してこなかったのだ。音質のほうはそこそこで、我が国の紙ジャケリイシュー専門の会社とどっこいってところ。
音楽そのものはとても良いのです。11曲中3曲は古い映画の挿入歌で、甘いムードのものでもしつこくなく、さらりと仕上がっているのは流石。そして、残りは全てヒューゴ・モンテネグロ自身のオリジナル。サスペンスを掻き立てるような都会的でジャジーなものや、いかにも'60年代らしい軽やかで優美なラウンジ調、荒々しいアップ(ハル・ブレインが大活躍だ)などさまざま。いずれもカラフルな音使いが楽しい。
中でも特に良いのが、ベイラー兄弟と思しい男声スキャットが涼しげな2曲。テーマ曲 "Lady In Cement" ではハープシコードがクールな雰囲気を強めているようで実に効果的だし、"Tony's Theme" でのバカラック的な管アレンジも洒落ている。こういうのばっかりだと、また飽きてくるのだろうけれど。
アレンジを生業としていたプロにとっては、さまざまなジャンルなど素材のひとつに過ぎないわけで。その自然な加工っぷりが音楽家としての大きさを示しているようで格好いい。
サントラやイージーリスニングには巨大な実験場としての面もあったのではないか、などと考えてしまった。
2018-11-04
The Action / Shadows And Reflections: The Complete Recordings 1964-1968
アクションのコンプリート集4CD。再結成以前の音源は一通り入ってます。英Cherry Red傘下のGrapefruitからのリリースで、監修は実績と信用のアレック・パラオだから、まず安心。
ブックレットも写真満載かつ、グループの歴史がしっかり書かれたもので、レコーディングのデータやエピソードも細かくあって、読みでがあります。
しかし、CDの収納が独特で、ちょっと面食らった。トレイ真ん中に爪がなくて、周辺部を押して引っ掛けるタイプ。耐久性に不安を感じるのですが。
ディスク1は「ESSENTIAL ACTION: THE PARLOPHONE MASTERS」と題され、ジョージ・マーティンの手掛けたスタジオ・レコーディングとBBCセッション5曲の全22曲がモノラル・ミックスで収録。
彼らのシングル曲の殆どについては、そのオリジナルのミックスでは初のCD化となります。これまでは'90年に作成されたリミックスがずっと出回っていたわけです。とりあえず、これがアクションのスタンタードであるよ、と。荒々しさだけでなく、しなやかさを感じさせるR&Bの消化の仕方が実にモッズど真ん中、という感じで粋ですなあ。
BBCのほうは(ここに収められた分に関しては)音質良好、モータウンやバーズのカバーも演ってます。
ディスク2は「THE ACTION AT ABBEY ROAD: STEREO MIXES AND OUTTAKES」。ステレオ・ミックスが15曲にリハーサル、別テイク、バッキング・トラックらで計24曲、全てが初登場となります。
これらは新規にマルチトラックよりミックスされただけあって、すごくクリアな音質です。息遣いのようなものが生々しい。今回のリリースでの一番の収穫でしょう。また、リハーサルのラフな感じも中々の格好良さ。ボーカルもシングル・トラックだし、曲によってはアレンジの違いも聴けて良いです。
ディスク3は「ROLLED GOLD PLUS: THE LOST 1967-1968 RECORDINGS」。「Rolled Gold」もしくは「Brain」といったタイトルで'90年代半ばに出された音源が15曲に、レグ・キング脱退後の曲が5曲(これらは1985年に「Action Speak Louder Than...」としてリリースされましたが、メンバーには無断であったとのこと)。
「Rolled Gold」は元々がモノラルのデモテープ、それをコピーしたものであり、曲によってはアセテートから起こしたとあって、やはり音質には幅があります。なお今回、編集の違う複数のソースからできるだけ長いものを選んだ、とは記されています。また、いくつかの曲はこれまでのものよりテープ・スピードを適正にした、とも。
スモール・フェイシズとプリティ・シングズの間を行くようなこれらサイケ・ポップは今聴いても十分に格好良いっす。
ディスク4「EXTRA ACTION」はここまでに入らなかった残りをさらったという内容。
前身バンドであるボーイズの曲から、デッカでのオーディション音源、BBC出演時のもの(こちらの音質はまちまち)が12曲目まで。あとは尺が余ったのか1990年にEdselからリイシューされたときに作られたミックスから8曲が選ばれています。
BBCでも実際に客前で演ってるものは熱が違いますな、うむ。あと、Edselミックスは改めて聴くとエコーが深くて、オリジナルと比べるといじった感があるかな。
しかし昨年のクリエイションといい、アクションまできちっとした形でまとめてくれたので、個人的にはもう目ぼしいところは残ってないかも。
2018-10-21
青崎有吾「図書館の殺人」
高校生、裏染天馬が探偵役を務めるシリーズの第三長編。文章はかなりこなれているし、パズラーとしても来るとこまで来たという感じで、平成のクイーンの名に恥じない出来栄え(平成はもう終わっちゃうけど)。一見わかりきったようなことでも、その過程をねちっこく検証するうちに意外なことが明らかになっていく、その手つきが堂に入っています。
また、ダイイング・メッセージを巡る推理が凄いですな。現代にあえてこの趣向を扱うなら、ここまでやりきらなくては面白くないよね。
消去法が進むうちに容疑者が全ていなくなってしまう。そして、そこから急転直下の犯人確定。探偵小説ファンにはしびれる展開だ。しかし、伏線がよほど巧くないと、それまでに展開された推理全体の強度を疑わせるものになりかねない。また、読者が「それアリだったら、他にも可能性があるじゃない」と考える余地も出てくる。今作はそのあたりが不十分だと思います。
あと、一番鮮やかだったのが、ある手掛かりが犯人による偽のものだということを証明する場面だったのだが、この証明によって大きく何かが変わったかというと、そうでもないような気がする。
ケチを付けましたが、それだけレベルが高いということなので。もっと、もっととなってしまったのです。
犯行動機の収まりはいい。謎と論理の物語としては、確定できない事柄について、これ以上はやりようがないだろう。
また、物語としての締めもこの作品ではすべっていない。実にきれいに決まっています。
うん、めちゃくちゃ面白かった。
2018-10-20
Leroy Hutson / Love Oh Love
今年になって英Acid Jazzより、リロイ・ハトソンがCurtomに残したカタログがリイシューされています。ディスコの「Unforgettable」以外は購入していますが、シングル曲等のボーナストラックが付いて、マスタリングもちゃんとしたもの。音圧がでかくないと不満なドンシャリ耳のひとが気に入るかは知らんけどさ。
ファーストの「Love Oh Love」は1972年のリリース。ファーストといっても裏方も含めると既に充分にキャリアがあったので、しっかりとした作品に仕上がっている。
音のほうはゴージャスながらオーソドックスなシカゴ・ソウルという感じ。アレンジはいくつかの曲でトム・トム84やリッチ・テューホが手を貸しているが、それ以外はハトソン自身によるもの。カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイを思わせる部分はあれど、後の作品のように、もろにアレだな、というところが少ないので、落ち着いて聴いていられるし、インプレッションズでリードを取っていたひとのソロだ、と考えても違和感はない。色の無い歌声もここではオケに負けずに収まっているように思う。
リロイ・ハトソンの音楽は凄く良く出来ているけれど、強い個性には乏しい。その変化も時代とともに作っていくというより、流行に敏い、というのが的確なところだ。肉体性に乏しい歌声もあってか、後味を残さない。だが過剰なものがない、そのことはこのひとの美点でもある。
昔は、このオケにもっとディープなボーカルが乗っかってればなあ、などと感じていたのだが。いや、これでいいのだ。
2018-10-13
フィリップ・K・ディック「いたずらの問題」
舞台は2114年、相互監視による道徳的行動への縛りが強く、そこから外れるものは吊るし上げられたのちにコミュニティから排除される、そんな社会。そして、社会全体の「モレク」を管理する委員会は、風紀を維持するために広告代理店の作った物語を採用している。
それら代理店のうち業界最後発のものの社長、アレン・パーセルが物語の主人公。ある朝、パーセルが出社するとこれまでなかったことに、委員会の書記の訪問を受ける。アレン・パーセル社が提出した「パケット」のひとつに問題があるというのだ。
1956年だからキャリア初期の長編。創元推理文庫版で読んでいるはずなのだが案の定、あまり覚えていない。訳者は同じながら、今回、早川から出るにあたって新たに手を入れてあるそうです。
内容は典型的なディストピアもので、SFとしてはやや地味。監視社会におけるサスペンスとして中盤くらいまでは展開していきます。権力の設定、ガジェット、悪夢的なツイストなどからは、いかにもディックらしいセンスが感じられるけれど、後年のディック作品のような、そこから一気に突き抜けていく部分もない。ただ、落ち着いた筆運びは、感情的な説得力を持たせるものだ。プロットにも余計な要素が少なく、まとまりがあって、わかりやすいお話になっています。
また、ディック本人は60年以上前、米国ではなくある全体社会国家をイメージして執筆したそうなのだが、ここで描かれている社会はデフォルメされてはいても、かなり現代的なものとして受け取れる。
物語後半、パーセルが追い詰められてからの反撃は(直球すぎるきらいはあるものの)、トリックスター的で娯楽性が高い。そして、それだけに結末はしんどいなあ。
しかし、フィクションとして振り切ってしまわずに、とどまったうえで希望の身振りを示すのもディックらしさではあるか。
2018-09-30
Milton Wright / Complete Friends And Buddies
ミルトン・ライトのアルバム「Friends And Buddies」(1975年)、そのごく少数出回ったというファースト・プレスと、内容に手を入れたセカンド・プレスをまとめたうえにボーナス・トラックもつけた完全盤。
ふたつのヴァージョンの違いだが、セカンド・プレスではシンセがオーヴァーダブされて、ミックス・バランスもかなり変わっている。また、最初のには間に合わなかった "Keep It Up" という曲が差し換えで入っている。
個人的にはファースト・プレスのほうが断然好みで。サウンドが生々しくってずっと現代的。メロウネスとエネルギーのバランスが素晴らしい。一方、セカンド・プレスはシンセによるスペイシーな感触が加わっている。悪くはないけれど、やはり時代の音という印象がする。"Keep It Up" はいかにもマイアミ・ソウルらしいけだるさと湿度を感じさせるメロウなミディアムだが、ややディスコ入ってるかな。
収録曲はどれも弛みなく作られているのだけれど、特にタイトル曲の冒頭で聴ける女性コーラスの豊かな響きが、もうなんともたまらない。ミルトンのマニッシュな歌声との対比も実に格好良い。
また、キャッチーなミディアム "My Ol' Lady" はアイズリー・ブラザーズを思わせて、これもまろやかなグルーヴが心地いい。
セカンド・プレスからは漏れたのが "Nobody Can Touch You"。アコースティックでビル・ウィザーズ風といえるか。これにはシンセは入れ難そうだし、そのままだと流れから浮いてしまうから外されたか。
ミルトン・ライトの歌唱はスティーヴィー・ワンダーの影響が伺えるラフなものだけれど、朗々と歌い上げる局面もあって、あまりソウルっぽくない。ゆったりとした地中海岸的なリズムアレンジの曲なんかでは、その歌唱もあいまってジョン・ルシアンを想起したりもする。
個々のパーツだけを取り上げるとそんなに個性はないのだけれど、その纏め上がりがオリジナルというね。グレイトな盤です。
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