四つの中編を連作風にまとめた一冊。
各編、プロットは探偵小説らしいのものなのですが、それは短編を支えるぐらいの内容で、その分キャラクターが饒舌であって、独特の道徳観や文明批判が強く出ています。といっても堅苦しくはならず、あくまでユーモラスな娯楽読み物として仕上がっているのですが。
ブラウン神父譚でもお馴染みの善悪の入れ替わりや、物語の最初のほうで示されたあるモチーフが後半になってより大きな形で反復される、などのチェスタトンらしさはここでも健在。そして、価値の転倒を引き起こす独特の逆説ももちろん。
中編として紙幅の余裕があるせいか、じっくりとした筆致で思想や事物の極端化・抽象化が強烈に進められ、どの作品も現実感は希薄であります。
風景や出来事は詩的あるいは幻想的に描写され、事物の形は揺らぎ、曖昧になっていき、ついには登場人物の意識まで侵食するようで、そこでは何でも起こりうるような印象さえ覚えます。
そうした混沌の世界が入念に醸成されるからこそ、理性が際立ち、奇妙な論理が光り輝くのでしょう。
チェスタトンを読むことは独特の体験であります。他の何にも似ていないゆえ、一般的なミステリ読みで未だその作品に触れたことのないひとには、受け付けない一冊かも知れません。まずはブラウン神父シリーズから入るが吉ででしょう。
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