2011-01-24

エドマンド・クリスピン「愛は血を流して横たわる」


なんだか仰々しい題名であるね。エルトン・ジョンの曲にもこんなのがあった。聖書とかシェイクスピアあたりからの引用なのかと思っていたのだが(ほら、オックスフォード派の作家ってそういうの好きそうじゃない)、訳者あとがきによれば "love-lies-bleeding" とは花の名前だそうな、なるほど。

クリスピンに関して言うと、僕は若い時分にハヤカワ文庫から出ていた二冊しか読んだことがなかったのね。その頃はガチガチのパズラーを追求していたので、んー、まあまあかな、ちょっと緩いよね、くらいにしか思わず。黄金期の作品で他に先に読んでおくものがまだまだあるよな、って感じであって、要はガツガツしてたと。で、後年になって新たにいくつかの作品が訳出されたときもスルーしてきたわけです。
ところが、今となってはかなりミステリについての考え方が変わってきたのと、あと、「クラシック・ミステリのススメ」でこの本が一番大きく取り上げられていた、ということがあって、文庫化を機に読んでみるべえか、となったわけです。

舞台は学校、冒頭から不穏な事件が立て続けに発生、その合間に癖の強いキャラクターの面々が紹介されていきます。そして連続殺人が起こるのだけれど、その状況の奇妙さがミステリ的には心引かれるものですね。
殺人事件の捜査自体はアリバイ検討や聞き込み中心の地味なもので、むしろ、周辺の謎と本筋との相関が徐々に明らかになっていく過程が理詰めであって、面白い。
また、行間に見えるジャンル自体に対するアマチュア的な愛、嬉々として黄金時代のかたちをなぞっていく稚気が嬉しいな。

展開がテンポよく、後半にはサスペンスあり、ドタバタありのサービスで、だれ場がない。ユーモアもうるさくなく、余裕を持って挟まれていて快適な書き振り。宮脇孝雄の解説で気付きましたが、これを書いたときクリスピンはまだ20代だったんですな。うーん、凄いね、昔のひとは。

謎解きとしては些細な手がかりから容疑者を絞り込んでいく手際にクイーン的なものを感じたけれど、細部の詰めは荒く、必然性や説得力に欠けるか。
それでも複雑に絡まっていた構図か綺麗に収束していく様はちょっとしたものですね。

手筋はちがうんですけど、なんかカーっぽい。完成度とかは置いて、楽しい時間を過ごせるミステリでありましたよ。

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