2009-06-21

本格ミステリ作家クラブ・編「本格ミステリ09」


今年も読んだよ、本格ミステリ作家クラブによる年間ベスト短編アンソロジー。
今回は収録された8作うち3つが既読でありました。それはひいきの作家が多く収録されている、と考えればよいのだろうけれど、こういったアンソロジーには、僕個人としては今まで読んだことのなかった作家との出会いを期待しているところがある。今回選ばれた顔ぶれは、まるっきりの新人がひとりとあとは殆どベテラン作家であって、ちょっと新味がないという気はする。安心して読めるといえばそうだけれど。
それに関連して、杉江松恋氏のところには気になる文章が。

ま、個人的に気になった作品をば。

法月綸太郎「しらみつぶしの時計」 ・・・ 外部から隔絶された空間、その内部にあるすべて異なる時間を指している1440個の時計。六時間以内に、推論だけを頼りに唯一つだけ正しい時刻を指す時計を見つけねばならない。思考パズルというか頭の体操を小説化したような展開が、一番最後になって本格ミステリでしかありえない飛躍をする瞬間のカタルシスは大したもの。タイムリミットものとしてサスペンスも効いている。

小林泰三「路上に放置されたパン屑の研究」 ・・・ いわゆる日常の謎、を扱いながらも物語の外枠がどんどん捩れていく。奇妙な味であるし、初期の筒井康隆風でもあるかな。落ち着くところの見当はつきやすいけれど、内側の謎と外側の物語が綺麗にリンクした形はお見事。

柳広司「ロビンソン」 ・・・ 昨年、最も話題になった短編集『ジョーカー・ゲーム』から。こうやって他の作家のものと並べると、短い紙幅に詰め込まれたアイディアの量が半端ではないことに気づかされるね。

沢村浩輔「空飛ぶ絨毯」 ・・・ 作者は未だ単著はないひとだそうだ。最初に奇抜な謎が提示されるのだが、謎解きをしながらも物語は予想できない展開へ。これが計算によるものなら凄いのだけれど、天然かもしれない、という気もする。

あとの短編はみな、オーソドックスな名探偵による謎解き小説、という感じのものでした。当然ながら総じてレベルは高いけれど、続けて読むと有難みが薄くなるかなあ。

最後に収められた、千野帽子の評論「『モルグ街の殺人』はほんとうに元祖ミステリなのか?」も良い。このアンソロジーのシリーズは最初に出たものからずっと読んでいるけれど、個人的に評論では今までで一番面白かった。この「本格ミステリ09」収録作品に対して「2008年にもなってそんな小説書いてるっていうのは、どうなの?」と言ってるようでもあります。

0 件のコメント:

コメントを投稿