随分と久しぶりになるジル・ソビュールのアルバムは、ファンからの寄付を募って制作され自己レーベルからのリリース、という話を聞いていたので、地味あるいはチープなものなのかな、と思っていたんだけれど。
いざクレジットを見ると、プロデュースはドン・ウォズ、ドラムを叩いてるのはジム・ケルトナー! ペダル・スティールにはグレッグ・リーズが、でもってトム・ペティのところのオルガン弾きなんかも参加、ついでにマスタリングはテッド・ジャンセンときたもんだ。なんだよ、今までで一番豪華(というには渋過ぎるか)な布陣じゃあないの。
そういった頼りになるプロフェッショナルたちが参加したせいなのか、「California Years」は彼女のものとしてはかなりすっきりとして、ツボをわきまえたサウンドになっていると思います。
今までのアルバムはやたらセンスの良さを感じさせ、才気あふれるアイディアが盛り込まれたものであったのだけど、それがかえってリスナーを選んでしまう原因にもなっていたという気がするのだな。
今作ではアコースティックギターと唄があくまで軸であって、タイトな演奏がそれをバックアップという、いってみればオルタナカントリーポップな仕上がりで、かなり取っ付きやすくなっているね。下品に歪むギターが暴れる場面やシンセの使用も今回は控えめ。しみじみ要素が増量です。
楽曲の面では相変わらず、メロディメーカーとしてもストーリーテラーとしても冴えまくり。アルバムタイトルが示すように、ジル自身がカリフォルニアに移住してからの生活がテーマのひとつになっているようで。
その一曲目のタイトルが "Palm Springs"。なんだか素晴らしい場所を夢見て、いざ着いてみたらモーテルはウェブサイトで見たのとは違って、混んでるうえに年寄りばっかり、バー・バンドは「リロイ・ブラウンは悪い奴」を演ってるし。
野生の馬 円を描く鷹 グラム・パーソンズ インスピレーション
でっかいサボテンに コヨーテ
わたしの世界が変わる そんな何かが起こるはず
というリフレインが皮肉と希望の両方をはらみ、絶品。ランディ・ニューマン的でもあるか。
もともとジルは過去のポップカルチャーにまつわる固有名詞やフレーズを持ち込むことが多いのだが、"San Francisco" という曲では「サンフランシスコに行ってみたいの、髪に花を挿して」と唄われ、フラワー・ポット・メンやらスコット・マッケンジーのヒット曲を連想させるし、"League Of Failures" ではニール・ヤングのそのものずばり、"I've been a miner for a heart of gold" という歌詞が顔を出す。で、"Palm Springs" でもそうなのだが、それらフレーズは特定の時代やシーンを想起させながら、同時に現代との落差を表現する文脈で使われる。これがうまいんだ。
けれど、そういった批評性を持ち込まないものも今作にはあって。純粋にオマージュとも言える曲が "Where Is Bobbie Gentry"。ちょっと粘るリズムに乗せて、ポップの先人に対する憧れを唄う。ビリー・ジョーうんぬん、という歌詞が出てこないのも単なるノヴェルティにはしないという愛情を感じさせるものだ。アルバム中でも、この曲は一番キレがいいポップソングになってると思う。
しかしボビー・ジェントリーというセレクトも微妙にセンスを感じさせるものだよなあ。
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