これも古典中の古典ですが、新訳が出ました。この作品は若い頃に二度ほど読んでいるのだけど正直、ややこしくて何だかよくわからなかった、というのが今までの印象で。今回、読み直してようやく、ああ、こういう話だったのかと理解できたような。
ロンドン塔で起きる殺人に、連続帽子盗難事件とポオの未発表原稿が絡むという三題噺で、いかにもそそられる道具立て。殺人事件の謎単体を取るとそれほど面白いものではない、普通のフーダニットだという気がしますが、その他の事件が有機的に絡み合うことで、ミステリとして膨らみが出ていると思います。
展開は尋問と会議が延々と続くもので、舞台変換も少なく、やや単調か。カーらしいユーモアも見られるのですが、ドタバタはやや控えめであって、悲喜劇めいた可笑しみであります。
また、相当大きなトリックがあるのだけれど、それが終盤に明かされるまでのヒキがなく唐突に驚きが来るので、そこに至るまでのサスペンスに欠けるか。あと、ミスリードが弱いような。
最後まで読み終えればなるほど、大胆な伏線がふんだんに散りばめられ、アイディアも豊富に投入された意欲作であるということが判るのですが。間違ってもカー初心者向けではない作品でしょうね、これは。
なお
「創元推理文庫では今後、『黒死荘の殺人』『蝋人形館の殺人』そして『皇帝のかぎ煙草入れ』(新訳版)と、いまだ色褪せない巨匠の傑作を続々と刊行していく予定です」ということであります。なんだか凄いね。まあ「近刊予定」の類はあんまり期待しすぎちゃ駄目なんだろうけどさ。
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