2011-04-01

エラリー・クイーン「Zの悲劇」


ドルリー・レーンものの新訳、三作目が遅れることなく出ましたよ。特に、この作品は若い女性の一人称で語られるので、日本語として新しくなり、すっきりと意味が通る方が合ってますね。

ミステリとしてはオーソドックスな形式を踏んでいるせいか、この時期のクイーンとしてはそれほど目立たない作品ではあります。
事件の展開に対してドルリー・レーンがずっと後手に廻ってしまうことでサスペンスが維持されているのだけれど、『Xの悲劇』『Y~』から作品内の時代を十年経過させたのは、そもそもレーンを衰えさせなければ成り立たない物語だから、という気はする。それにしたって、レーンの老け込みようは何度読んでいても悲しいな。

中盤、裁判のシーンがあるが、『Xの悲劇』において輝かしい逆転を演出していたそれに比べ、ここでのものはあまりぱっとしない。だが、その後からが本作の肝で。法的に最終判断を下された(様に見える)事件を、いかにして再びまな板の上に乗せるのか。この展開に探偵作家としてのクイーンの成長を見ることができるのでは。

土壇場での解法は盲点を突いた手掛かりの連鎖から始まる、恐ろしく鮮やかなもの。あまりに明快であるせいで、かえって軽視されているのではと心配になります。
ロジックの切れによって生み出される圧倒的なスリル、これこそがクイーンだ。

法月綸太郎による解説は力がこもり、読み応えあるもので、特にレーンとブルーノ知事の共犯関係に触れたところなど、ウンウンと頷きすぎて首が痛くなりそうであります。
最後は九月ですな。

0 件のコメント:

コメントを投稿