「トンプソンが殺すべき男はおかまだった」という文からこの小説は始まる。余計な手続き抜きで行動が語られるのだ。
ジャン=パトリック・マンシェット、フランス本国では1972年出版のロマン・ノワール。
裏表紙の紹介文には
「精神を病み入院していたジュリーは、企業家アルトグに雇われ、彼の甥であるペテールの世話役となる。しかし凶悪な4人組のギャングにペテールともども誘拐されてしまう。ふたりはギャングのアジトから命からがら脱出。殺人と破壊の限りを尽くす、逃亡と追跡劇が始まる!」 とある。
物語の内容としては、それでほぼ委細が尽くされていると言っていい。ざっくりとした、しかし恐ろしく切れのある文体でもって暴力と悪罵、破壊行為が描かれるのみ。
内面描写を省略した、というより殆どのキャラクターがそもそも語るべき内面など無く、頭がいかれていて、即物的に言動をしているように思える。特にひどいのがヒロインのジュリー。ギャングたちが人を殺すのはそれが仕事なのだからだが、ジュリーは主人公なのに、いったい何を基準に行動しているのかさっぱり見えてこず、不条理劇めいた場面すらあって。
だが、およそリアリティの無いストーリーの中で、その判らなさ加減がキャラクターに実在感を与えている気もする。
苦痛を感じても苦悩はしない。やるべき事をやる、それだけが描かれ、読み終わった後には冷たく張り詰め、荒涼とした空気以外には何も残さない。
言い訳のないクライムノベルだ。自己言及ばかりのハードボイルドもどきに辟易している人は是非。
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