2012-03-20
有栖川有栖「高原のフーダニット」
臨床犯罪学者・火村英生もの三作品を収録した中編集。
「オノコロ島ラプソディ」
冒頭に編集者との叙述トリック談義があって、作家にとっての難しさが見えて面白いのだが、これはどう本筋に結びつくのかな、と読み進める。
扱われているのは非常に地味なアリバイものでリアリティのある事件、といったらよいか。最近の若い本格ミステリの作家はこういう題材ではあまり書かないよな、ことさら奇を衒わなくとも読者を唸らせるものが出来る、というところを見せてくれるんだろうな、と思っていたところ。
解決編に至って、ううむ。脱力しました。そう繋がるのね・・・。形而上的なずらし、というか。
作者後書きではドタバタ・ミステリを狙った、とあるけれど。
「ミステリ夢十夜」
「こんな夢を見た。」という書き出しで始まるショートストーリーが十編。
ミステリというよりは奇妙な味の作品群で、ファンタジーといってよいものもあるし、見方によればトリッキーなものもあって、バラエティはなかなか。
掴みどころがなく変な余韻を残す話を続けて読んでいると、まさに夢、というイメージが濃くなっていく。
こういうものを個々の作品について語るのは野暮な気もするが、個人的には「第八夜」がラテンアメリカ系の作家のようで面白かった。
とは言っても俺はガチガチの謎解きが読みたいんだよ!
というわけで、表題作
「高原のフーダニット」
双子の弟を殺した兄は、以前に面識があった火村に電話をかけてきた。聞けば必ず警察には出頭するという。だが、その兄の方も何者かの手にかかり・・・。
風光明媚な田舎の、小さなコミュニティを舞台にしたフーダニット。アガサ・クリスティを意識したそうで、作中でもクリスティやポアロ、マープルという名が出されているが、それ以外はいつも通りという印象(アリスの迷推理もクイーン的だ)。
タイトルにはフーダニットとあるし、勿論、主眼は犯人探しなのだが、むしろ、その途上で浮かび上がってくるホワイ? が読み所。そして、そこから見えてくる状況から、あとは判りやすくも丁寧に配置された手掛かりによって、実にスマートに犯人は決定される。こういう推理における力点の捻り、とか上手いよね。
濃密なディスカッションも堪能でき、これには満足。
しかし、一冊トータルとして見るとちと軽いか。ファン以外にはどうかな? という感じですな。
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