2012-03-21

アガサ・クリスティー「リスタデール卿の謎」


お馴染みの名探偵は出てこない、ノンシリーズ短編集。出版は1934年であるけれど収録されているのは全て'20年代に発表されたものであって、クリスティのごく初期に属する短編群ということになります。

女史の初期冒険長編を思わせる設定のものが多いんだけれど、ご都合主義な展開に甘々のロマンスで、まとめて読むと同工異曲という印象を受けるのは否定できないところ。「ジェインの求職」という作品なども、これって「赤毛組合」じゃん、と思い期待して読み進めるとお転婆ヒロインの冒険編だったり。
ただ、リアリティ、もしくはフェアプレイや伏線云々といった縛りから開放された筆捌きは余裕が感じられるもの。キャラクターは典型であるけれど生きいきとしており、ひとつひとつの短編として見れば楽しく読める。
冒頭に置かれた表題作「リスタデール卿の謎」が特にいいな。これもシャーロック・ホームズ譚をなぞったようなプロットなのだけれど、御伽噺の域にまで達した予定調和がとてもチャーミング。

また、そうしたほんわかした雰囲気の作品の間にシリアスな作品がいくつか挟まっていて、これがいいスパイスになっているかな。
そのうちの「ナイチンゲール荘」では、日常のなかに潜む不安心理を描いた奇妙な味風の物語が、やがて強烈なサスペンスに変化していきます。使われているのは既視感あるパーツばかりなのだが、仕上がりはユニーク。
また「事故」という作品は、過去に夫を毒殺した容疑で裁判にかけられた女性は、また再度同じことをしようとしているのだろうか? というありがちな話なのだけれど、最後までどう転ぶかはわからない様から目を離せない。

収められた作品で、手の込んだトリックが使われているようなものは皆無であります。ユーモラスなクライムストーリー集として、気楽に読むが吉かと。

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