2012-11-03

有栖川有栖「江神二郎の洞察」


江神二郎シリーズ(もしくは学生アリスもの)、まさに待望の短編集。

有栖川有栖が英都大学に入学してから二年生になるまでを描いた九編、書き下ろしひとつを含むそれら収録作品の発表時期には二十数年のスパンがあるのですが、今回、一冊のものとしてまとめられるに際して全作品に修正・加筆がなされているようで、違和感はないですね。
果たして次がいつ出るのか、そう考えると何だか読むのが勿体無いようでもあって。一編ずつ間を置いて読んでいきましたが。

もうなんていうか、いいね!
いや、このシリーズに関してはあまり客観的な言葉は出てこないのだな。
それでもあえてなんか書いて見ると、

冒頭の「瑠璃荘事件」では生活に根ざしたところに盲点があったり。シリーズのファンなら最後のパラグラフに悶絶必至だし。
一筆書きのような「ハードロック・ラバーズ・オンリー」。
「やけた線路の上の死体」ではトリックより細部を詰めるロジックが鮮やか。
「桜川のオフィーリア」の明白すぎる真相、という趣向。
ケメルマンの有名短編の向こうを張った「四分間では短すぎる」「ミステリとは無為なもんや」を地でいく、遊び心満点の仕上がり。
肝試しの「開かずの間の怪」は馬鹿馬鹿しくも楽しいし。
「二十世紀的誘拐」はなんか作家アリスっぽい事件。
書き下ろしの「除夜を歩く」が一番、分量があるというのも嬉しい。内容も充分で、机上の空論の楽しみを堪能。また、江神部長のミステリ論はある意味、身も蓋も無いものなのだが、ジャンルに対する愛をびしびし感じさせるものだ。
最後の「蕩尽に関する一考察」はチェスタトンかな。

まあ、どれも良いんすよ。青春小説としての肉付けとミステリ部分の絡み方が凄く丁寧で。流したようなものがないです。

それにしても推理研メンバーたちが繰り広げるミステリ談義のなんと楽しげなことか。
限定された期間にのみ許された幸福な空間。なんだか切ない。

2 件のコメント:

  1. 限定された期間にのみ許された幸福な空間。

    これは学生時代の特権ですね。社会に出たら、あのころが懐かしいって
    思うとき、だいたいがこの(↑)空間を懐かしんでるんです。
    「江神二郎の洞察」を読んで、何でこの短編集がもっと前に出て
    くれなかったんだろうって、思いましたね~。

    そんな魅力的な作品を数多く生み出す有栖川さんの内面を
    ひもとく解説がされているサイト、探したら見つかりました。
    http://www.birthday-energy.co.jp

    すごい詳しいですが、早くからご自身の才能を
    生かしてのばす生き方は称賛に値するそうです。
    だけど、これからは体調にも注意とか。
    小説の塾もやりつつですから、大変でしょうけど
    がんばって頂きたいですね~。

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