2012-11-04

長沢樹「夏服パースペクティヴ」


昨年の横溝正史賞受賞作者による二作目。副題には「樋口真由”消失”シリーズ 少女洋弓銃殺人事件」とありますが、探偵役が共通する前作『消失グラデーション』を読んでいなくても、内容は独立しているため問題はありません。

廃校を改造したスタジオ、そこで学生たちの手によってプロモーションビデオが制作され、さらにその経過を追ったドキュメンタリー風(?)映画が撮影される。そんな、リアルと芝居の境界線を意図的にぼやけさせた場所で起こる事件。
前作が終盤に近づくまでがなんだかありがちなお話であったのに対して、今回ははじめからかなり変な状況設定。監督はカメラを止めたように見せて、気を抜いたスタッフたちを実はこっそり撮影しているとか。さらに廃校にまつわる幽霊なんかも絡んできて、いかにも何か仕掛けていそう。
そんな中でいくつか起こる不可能/不可解な事件。そしてその背後には、もっと大きな謎の存在が暗示されていく。
さらに後半に至り、麻耶雄嵩を思わせるような怒涛の展開が。

トリック一発の驚きでは前作に譲りますが、大技・小技を複数絡め、ミステリらしい雰囲気が濃厚になっていて、読んでいる間の楽しさではこちらが勝っているかと。謎が解かれた先に、背後に隠れていた物語が浮かび上がる、という趣向も三津田信三ばりに決まっています。
ただ気になったのは、確かに辻褄は綺麗に合うのだけれど、これは読者にとっては推理の余地が少ないものでもあって。伏線の判りにくさ、といってもよいか。ふ~ん、そんな細かいことをよく拾い集めたね、的な感想を持ってしまったのだな。

というわけで、前作に引き続き留保は付けてしまいますが、面白かったことは確か。とりあえず次も読むと思います。

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