2012-11-25

R・A・ラファティ「昔には帰れない」


「”わたしがちょっと家をあけると、いつもこうなんだから”――どこかの母親が、食われたばかりの子供の下顎骨と頭頂骨を手にとって、そういったそうな」

当初の予定より少し遅れましたが、ちゃんと出ましたラファティの日本オリジナル短編集。
2部構成になっており、第1部には比較的シンプルな作品が集められています。書き出しにおいてアイディアがはっきりと提示されているし、ねじれた物語もまるでアメリカの田舎に昔から伝わる大らかなホラ話のように砕いて語られていて。エンターテイメントとしてよく出来ているものばかり。
なかでも気に入ったものをば。
「素顔のユリーマ」 頭からケツまで逆説に貫かれたような物語。子供のまま歳を取ってしまったような主人公は作者の自画像でもあるのだろうか。
「月の裏側」 何ということの無い日常の事件、それをSFとして語ってしまうセンス・オブ・ワンダー。
「ぴかぴかコインの湧きでる泉」 繰り返しの展開の末にくる宙ぶらりんの結末が巧みすぎ。
「昔には帰れない」 地上に浮かぶ小さな月、のイメージだけで既にとても魅力的なのだが、そこに子供時代へのノスタルジーも絡まって、いや楽しい。

そして第2部。こちらは変な作品が多い。陽気でペシミスティック、そしてわけわからんがぐいぐい読まされる。これぞ比類なきラファティ。
こっちで印象的だったのは。
「忘れた偽足」 異星人の生態に異星人のユーモア。理解を越えるエピソードが次々と繰り出されるけど、どこか論理的な筋道も感じられる。そして終末のみに許されるハッピーエンドが良い。
「大河の千の岸辺」 分割され、圧縮・梱包された古代の岸辺そのもの、というイメージが素晴らしい。
「行間からはみだすものを読め」 すさまじい饒舌とあまりに不自然な設定に、もはや何が起こってもおかしくはないという気にさせられる。現実の崩れ方もまた、いとをかし。
「一八七三年のテレビドラマ」 偽の歴史を背景にした額縁小説。表の物語を裏側が侵食してしまう趣向はSFとしても胡散臭すぎるのだが、その出鱈目さがかえって楽しい。

退屈なものがひとつとしてない、純粋にSFを読む愉しみが詰まった短編集でありましたよ。

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