2013-10-04
平石貴樹「松谷警部と目黒の雨」
平石貴樹、久方ぶりの新作は何と文庫書下ろしであります。描写は控えめ、ユーモラスで平易な文章ですが、内容は勿論、ガチガチのフーダニット。探偵役は松谷警部、ではなくて白石イアイという若い女性巡査です。
設定は1998年の冬であり、都内でOLが殺害され、その友人たちに聴取をしていくうちに、彼らのグループ間で過去に複数の変死事件が起こっていたことがわかった、というもの。登場人物表を見ても、警察関係者以外は殆どが被害者の学生時代からの知人ということで、つまりは内輪の事件のよう。
物語序盤で、被害者が発見されるきっかけになった電話について白石巡査がちょっと冴えた推理を披露する。これで期待が持たされるわけだ、読者も、松谷警部も。ただ、それ以後の展開はいかにも警察小説らしく、調査と手堅い推論が繰り返されていく。
そのまま終盤に入り、どうにも有力な線は途絶えたように見えたが、白石巡査は「・・・・・・もう一息だと思うんです」。そして、その後には全体図のどこに当てはまるかは解らないようなエピソードがいくつか示される。この呼吸、ミステリをそこそこ読んできた人間ならわくわくさせられるのでは。
真相の方は、複数の事件それぞれに独立したアイディアがあって、なおかつそれら全体を見通すことでフーダニットとしての謎が解ける、という感じですね。状況のちょっとした齟齬から犯人を限定していく手際が実にスマートであります。大胆で意外な伏線の数々も愉しい。
いってみればオールド・ファッションド・ディテクティヴ・ストーリーであって、新奇さや小説としての味付けといったものを求める向きには物足りないかもしれませんが、著者のこれまでの作品を楽しんできたひとなら今回も間違いないかと。
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