2009-12-05
James Brown / Live At The Garden
このライブ盤の元々のものは、演奏はともかく、音が良くない上に編集も乱暴であって、ちょっとファン以外には勧められるものではありませんでした。その上、ジャケットのセンスもピンとこないものだし、そもそも「~ Garden」というタイトルなのに、実際は大会場であるマジソン・スクエア・ガーデンやボストン・ガーデンではなく、ラテン・カジノというサパークラブで収録されたもので、ちょっと詐欺っぽい。まあ、そのくらいのことで文句言ってちゃあJBのアルバムなんて聴いてらんない、というのも事実でありますが、翌年に出た「Live At The Apollo Volume Ⅱ」が代表作のひとつとして評価されているのと比べると、明らかに落ちる存在であって、初めてCD化されたのもかなり後になってからでした。
さて、今回の拡大盤ではオリジナルのモノラルLPを全収録した他に、新たに4トラックからミックスし直したものが入っています。この新ミックスでは、音が良くなっているのは当然として、前座の(といってもJBも参加しているのだが)インストと、それまでは短く編集されていた本編のショウの全容がしっかり収録されています。オリジナルのアルバムとは別物と言っていいんじゃないかというくらい、はっきりと見違える出来になっていて。というか、今まで随分もったいないことをしてたのな、という感じです。
肝心の演奏の方ですが、収録されたのがアポロシアターでのライヴ盤の半年くらい前なのだけれど、そちらとも結構違いますね。アポロでのライヴではすっかりファンキーソウルのスタイルが馴染んでいて、余裕も感じられるものでしたが、この「Live At The Garden」ほうは、性急さが勝っているという印象。まだ "There Was A Time" や "Cold Sweat" なんて曲が無く、過渡期といった風も。
また、そういった曲が無いせいか "I Got You (I Feel Good)" はフルコーラス演っていて、これは嬉しい。この曲、後のライヴになるとメドレーで2、30秒くらいしか演らなくなるので、サックスソロもしっかり聴けるここでのヴァージョンはいいですね。
で、今回の新ミックスでの一番の目玉は "Papa's Got A Brand New Bag" になるかな。この曲、オリジナルLPでは本来の曲を半分くらい切り出して、"Hip Bag '67" というタイトルを付けて収録されていたのですが、今回は9分越えの煮えたぎる演奏をフルで堪能出来ます。
あと、未発表であった "Come Rain Or Come Shine" というスロウでは、何故かロン・カーターがベースを弾いているらしく(と言ってもあんまり聴こえないんだけど)、これも発見、ということになるかなあ。
とりあえず嬉しいリイシューでありますが、ホント、'60年代のJBのカタログはちゃんと整理し直して頂きたいものではあります。
2009-11-15
マルセル・F・ラントーム「騙し絵」
1946年発表、フランス産本格ミステリ。作者は英米の探偵小説を読み漁り、その影響下でこの作品をものしたそうであります。実際、これでもか、というくらいにアイディアが詰め込まれていて、その密度が凄い。「読者への挑戦」まで用意されてるんですから堪えられません。
ポール・アルテより濃いですよ、こりゃあ。
複数の警官がつきっきりで見張っている状態で、ダイヤモンドが偽物にすり替えられるという、かなりの不可能犯罪が起こるのですが、その他にも監視下における消失事件などが用意されております。
基本はガチガチの謎解きミステリながら、さらにサスペンスを演出する場面など色々盛り込みすぎるあまり、小説としてのバランスはあんまり良くないかな。なんか、ごたごたしてる感じ。
ただ、語り口は軽やかかつユーモラスで、全体にすいすい読めてしまうのはいいですね。
また、作中にミステリ小説というジャンルに対する自己言及的なやりとりも ありますが、これもアントニィ・バークリイのような批評性から来るものではなく、純粋にアマチュアリズムから出ているもののようで微笑ましいです。
解決部分は複数の人物が自説を開陳していく、という流れのもので、それまで目立たない端役のようなキャラクターまでが結構鋭い推理を展開していきます。ここら辺、にやにやしてしまう趣向ですし、レベルも高いです。
でもって、メインのトリックが豪快で。かつての日本新本格のような、実現可能性はどうだろう、というような手の込んだもの。強力な謎に対して充分応えるだけの大技であります。
探偵小説ファンなら読んで損は無いですね。300ページほどの本ですが、満腹。
2009-11-08
アントニイ・バークリー「ジャンピング・ジェニイ」
昔、国書刊行会から出たものの文庫化で、僕も再読なのですが、バークリイの作品は筋が込み入ってるものが多いので、この作品も細かいところは忘れていました。
『ジャンピング・ジェニイ』は探偵役が奮闘する様が道化にしか見えないという、ジャンルに対する皮肉な視点がこの作者ならでは。特に、ある被疑者にかけた容疑がそのまま探偵自身にも当てはまってしまう展開など、すれたファンでも悶絶ものであります。
ミステリの構成的に見ると多重解決、ということになりますか。結末は予想もしていない驚きもので、流石、と言いたいところなのですが、充分な伏線も無く唐突に出されるものであり、説得力がない。後付っぽいこのやり方ならいくらでも出来るじゃない、とも思ってしまいます。従来のミステリに対する批評性だけが突出してしまったような印象。
10年くらい前、バークリイの未訳作品が次々と紹介され始めたときのミステリファンの反響は、そりゃあ大したものでした。個人的にも英国探偵小説の隠れた大物として、この作家のセンスはクリスチアナ・ブランドあたりと同等なんじゃないか、なんて思っていたものです。
しかし最近では、それはちょっと違うのかな、このひとは本格ミステリのコアな作家ではないのかな、という風に考えています。抜群のテクニックと新しいコンセプトを持ち合わせていたのは確かですが、技巧に溺れるあまりミステリ本来の面白さを犠牲にしているような感があるのです。結局、やりたいことが違うのだ、と。
ミステリファンとしては、あんまり読者を見くびるなよ、と言っておきたいところ。
とは言っても、読んでいる間は滅茶苦茶面白かったのですが。今月末に出る『毒入りチョコレート事件』の再刊も買ってしまうでしょう。本当に面倒臭い作家ではあります。
2009-10-25
深水黎一郎「花窗玻璃 - シャガールの黙示」
フランスにあるランス大聖堂にそびえる塔から男性が転落死。現場は密室状態で、警察は自殺として処理。だが、半年後にその転落事件の目撃者が死体に。二人とも死の直前に、聖堂内にあるシャガール作のステンドグラスに見入っていたようなのだが。
深水黎一郎の「芸術探偵シリーズ」(帯にそう書いてあるのだ)の最新刊。これまで絵画、オペラを背景にした事件を取り扱ってきたのだが、今回はゴシック聖堂にステンドグラス、ということです。
題材と事件の照応がこのシリーズの肝であるのだけれど、今回は読み終わってみればかなりその縛りがきついことがわかります。その上、ゴシック聖堂の歴史を書き込み、文体に凝りまくり、構成も捻りを入れ、とまあコストパフォーマンスを度外視した良い意味でアマチュア的な労作であります(といっても読みにくくはない、というのはいいところ)。
しかし、本作最大の仕掛けをミステリとして評価できるのか、というと考え込んでしまいます。作中に現れるあるものに事件の真相が表現されていた、というのは後から見直して、おお! 凄いな、よくぞここまで、と驚けるものではありますが、それは伏線やヒントとは違い、あくまで判ってみれば、という種のものであって、解決編を読んでいるときのカタルシスに直結するものではないのです。真相をそのまんま書いていながら、その部分を読んでいる最中にはまず気付けない、という暗合をミステリとしての達成として受け止めていいのかどうか。
まあ、そういった部分を抜きにしても豪快な、バカミスっぽいトリックも炸裂していて楽しめますし、第一の事件の目撃者は何を見て驚いたのか、というのが明らかにされるところは絵的になかなか美しく、この作者が確かなセンスを持っていることを確認できます。
ミステリの可能性を拡げるかもしれないが、それが袋小路への一歩かもしれない、ような力作ですね。
2009-10-04
WIT' YO BADD SELF !
認識が変わったのは、この曲がヒットしていた当時に録音されたダラスでのライヴ盤を聴いたときだった。この曲のタイトルをJBが静かな口調で告げると、客席の反応が歓声ではなく、どよめき。そして演奏はスタジオ録音とは違い、すさまじいテンションだ。観客も大盛り上がりで「I'm black and I'm proud」のフレーズを叫ぶ。なるほど、当時 "Say It Loud ~" という曲が凄く支持されていたということは判ったし、白人なら絶対このライヴの場にはいたくないな、とも思いましたよ。
さて、ワックスポエティクス日本版の最新号にはギャンブル&ハフのインタビューが掲載されている。彼らのキャリアがどうやって始まったか、一緒に仕事をしていたミュージシャン達についてなど非常に興味深いのだけど、個人的にガツンっ、ときたのはケニー・ギャンブルの以下のコメント。
2009-10-03
歌野晶午「密室殺人ゲーム2.0」
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編。
前作のラストがカタストロフを予感させるものであったのですが、今作ではそういうことが何もなかったかのように、殺人ゲームが継続されるので、大きな違和感を呑み込んだまま読み進めることになります。
で、その辺の事情は物語後半に明かされるのですが、それと同時に殺人ゲームの持つ意味がずれる趣向が良いです。単なる二番煎じではないという。
思いついたトリックを実行したい、そして自慢したいという動機のみで殺人が繰り返されることによる、読み手の倫理観を揺さぶるインパクトは、続編とあって弱まっているのは仕方のないところ。
ただ、トリックの手の込みようは前作と劣らないです。仲間に見せ付けるだけの為に練りに練られた、効率のかなり悪い殺人方法がやりすぎ感あふれていて、素晴らしい。
また、解決に至るまでのディスカッションもあらゆる可能性を入念に潰していく様態であって、純粋にミステリとしてみれば今作の方が優れているかも。
しかし、もう続きは無いんじゃないかな。
2009-09-21
アントニー・レジューン「ミスター・ディアボロ」
探偵キャラクターも魅力が弱く、実際に黄金期に書かれた作品ならまだしも'60年代でこれはちょっとなあ。
謎解きのほうはスマートかつシンプルな盲点を突くもので、すごく筋のいいものだけれど、あっさりと語られるため盛り上がりきらなくて、肩透かしな感じを受けてしまう。これも惜しい。
また、よく考えると犯人の行動・計画には相当無理があるのだが、そこは古典へのオマージュとして許せるかな。
ただ、誤導が弱く、これが結果としてサスペンスの欠如に繋がってしまっていると思う。
まとまりは良いんだけれどもねー。
アイディアは素晴らしいが、プレゼンテーションがいまいちなため小粒な印象をあたえてしまう作品だと。あくまでマニアが楽しむ作品あって、一般向けじゃないよね。