2010-08-20

Laura Nyro and Labelle / Gonna Take A Miracle


1970年リリース、バックコーラスにラベルを迎えた、全曲R&Bクラシックのカバーアルバム。

フィラデルフィア制作で、プロデュースはケニー・ギャンブル&リオン・ハフ、アレンジはトム・ベルが担当と聞くとさぞ豪奢なサウンドが、と思いそうだが実際はそれほどでもない。
管弦は控えめにミックスされ、音像の真ん中に大きく在るのはボーカル/コーラスとピアノであって、それだけとればいつものローラ・ニーロであります。僕も最初に聴いたときは、これならわざわざフィラデルフィアまで行かなくても、チャーリー・カレロと組めばよかったんじゃあ、と思いました。ソウルミュージックのプロパーなファンが期待して聴いてみたらがっかりするかも。これなら収録曲のオリジナルのほうがいい、ってね。

けど、何度か聴くうちに、やはりこれは唯一無二のアルバムなのでは、と思い直したのですよ。
'60年代終わりから'70年代にかけて、急速に洗練・都会化していったノーザンソウル。その内に肉声の生々しさを甦らせよう、自分がかつて愛した音楽の力強さを宿らせよう、といった意思がここにはあったのではないか。
そして、そういった(当時の)ソウルミュージックのヒット・メソッドを踏み越えたレコードを作る自由は、ソウルというジャンルの外側にいたアーティスト、ローラにしかなかったのでは。

まあ、そんなことを考えずとも、お気に入りの曲ばかりを歌うローラの声からは、他に無い楽しさや開放感が溢れているのだけれど。なんだかボーカルグループの一員になっているような感じもして。
特に "Dancing In The Street" や "Nowhere To Run" といったダンスナンバーで、パーカッションだけをバックに掛け合いを聞かせる瞬間は、ぞくっとするほど格好良いや。

2010-08-15

紙ジャケを試作してみた。

夏休みの工作、ってわけでもないが。
頂きものの音楽ファイルがたくさんありまして。まあ、それはCD-Rに焼けばいいんだけれど、テキスト形式でのトラックリストがついてなくてさ。それがあればコピペして編集、プリンタで出力で一丁あがり、なんだが。CDのジュエルケース用のアートワークが付属していて、そのバックインレイにしかトラックリストが無いのね。
嫌いなんですよ、プラケのごついのって。かといって、いちいち手で入力していくにはデータが多すぎる。
熟考した結果、自作してみっか、ということになった。面白そうだし。

道具はいつもお世話になっているフリーソフト、ラベルプロデューサー様。これに紙ジャケ用のレイアウトが付いているわけではないのだが、使い慣れているんで。



自分なりに設計図を引いて、その上にジュエルケース用のアートワークをサイズ調整や加工をしながら、しっくりいくように配置していった。

いい感じになったので、プリンタ出力。


あとはハサミと糊でひたすら工作あるのみ、っす。

いろいろ試してみたが、用紙は光沢紙くらいでないと厚みが足りなさ過ぎて、ペラペラでいかにも頼りない。ただ、光沢紙は表面に粘る感じがあって、作業中にすぐ傷が入ってしまうし、汚れも付きやすいのね。ニンともカンとも。



インナースリーヴやレーベル面も刷って出来上がり。



どうだ、スパイン(背表紙)もあるぞ。


ひとつ作るのに結局、半日以上かかってしまった。徹夜なり。
ノウハウは判ったので、次からはもっと早くできるだろうが、しばらくはもうやりたくないでござるの巻。

2010-08-11

espresso espresso


カーミンスキー兄弟が「In Flight Entertainment」に続いて手掛けたラウンジコンピレーション、こちらも1996年リリース。
副題に “a lightly latin brazilian blend” とあり、ラテンやブラジル風の曲を揃えたものです。
一曲目では、セルジュ・ゲーンズブールがお姉ちゃんたちのコーラスを従え、ゆる~い感じでコーヒーについて歌っております。このCDのジャケットと併せて考えるに、これはカフェ・ミュージックのコンピである、という宣言なのかも。

収録曲には南米系のミュージシャンによる演奏もあるのだけれど、それ以外のジャズやイージーリスニングのラテン/ブラジル風味付けのものの方が多いです。
中でもバート・バカラックの "Something Big" は凄いな。コンピで聴いてもすぐ判るというか、もうバカラック以外の何物でもないという。逆にちょっと浮いてるんじゃないか。濃い。

ヒット曲のそれ風アレンジのものも "Bend Me, Shape Me"、"I Feel Fine" とあって。後者は元々ビートルズのオリジナルにもラテンの雰囲気がかすかにあると思っていたので、ここでのスタンリー・ブラック楽団の解釈はゴキゲンな出来。
ビートルズカバーでは他に "Things We Said Today" もありますが、こちらはタイトルを言われなければ判らないくらいの大胆なジャズアレンジ。メロディをシンプルにしてリフ化させているんだけれど、実に格好いいです

さて、ひとつ引っかかったのはウィルソン・シモナルの "Nem Vem Que Nao Tem" という曲で。実はこれと同じ曲が前コンピ「In Flight Entertainment」にもブリジッド・バルドーの唄で入っていたのだな(そちらのタイトルは "Tu Veux, Tu Veux Pas" となっているけれど)。バルドー版ではミディアムのダンス仕様だったのが、こちらではテンポゆるめのパーティサンバ。ファンキーです。
こういうシリーズものならではの遊びも楽しいな。

10年以上前にでたコンピですが全然古くなっていないすね。トータルの内容でも「In Flight ~」と甲乙つけがたい。
まさしく今の季節にぴったりの一枚(ホットコーヒーはちょっと飲めないけれど・・・)。




2010-08-04

Dave Frishberg / Oklahoma Toad


1970年にCTIレーベルからリリースされた、デイヴ・フリッシュバーグのファースト・ソロ・アルバム。我が国ではヴィヴィッドからCD化されていたが、それも入手し難くなって結構経っていました。それが今回、なんと2枚組のデラックス・エディションで登場です。

フリッシュバーグの本業はジャズ屋、ということなんだろうけど、このアルバムには凄く親しみやすいポップソングが満載。それらの楽曲は全て詩・曲とも本人によるものですが、これがかなり、粒ぞろいで。フックのあるドリーミーなメロディ、ユーモラスな(ときに意味不明な)歌詞。伝統的なアメリカのミュージカルライターたちからの流れを感じさせるような、品というか筋みたいなものも感じます。
で、それらの曲を唄うボーカルはとくに上手い、というものではないですが、人懐っこくて肩の力が抜けた、洒脱な味わいのものであります。また、本職である鍵盤の方も気持ちよく転がっていますね。
プロデュースはマーゴ・ガーヤンと彼女の旦那であるデヴィッド・ロスナーが担当。曲によって、カントリー風だったり、サイケがかったり、変拍子を絡めたり、ファンキーに迫ってみたりと、さまざまな意匠を凝らしながらも、全体としては穏やかな手触りであります。

さて、今回のリイシューですが。付属ブックレットを読むと、そもそも、このアルバムは制作を終えた後になってからCTIとのリリース契約がなされたそうで、その際にオーバダビングやリミックス、曲順の変更という条件があったとか。でもって、2枚組CDの1枚目にはCTIミックスとして従来ヴァージョン、2枚目にはプロデューサーズ・ミックスと称して、クリード・テイラーやヴァン・ゲルダーらの手が入る前のものが収録されています。

実際に1枚目のCDを聴いてみると、音は以前のものより分離良く、クリアになっていますが、そのせいか曲によっては派手で、ロック的なエッジが強調されたようにも。

比較して2枚目は装飾を抑えたシンプルな印象ですが、同時に演奏のスウィングする感じが強く伝わってきます。曲順の違いも結構、大きいな。
よりパーソナルな雰囲気でもありまして、ブロッサム・ディアリーとの近しさがこれまで以上に感じられますね。
馴染みのアルバムの違った面が見れた、という感じでありました。惚れ直した、うん。



2010-07-25

Astrud Gilberto and Walter Wanderley / A Certain Smile, A Certain Sadness

うう。涼しめのやつでいこう。
時は1966年、アメリカのボサノヴァブームがピークにあった頃の作品なり。


このCDは結構前に買っていたんだけど、あまりの唄の下手さに、数回聴いたきりで放置してました。
最近になって久しぶりに聴いてみても、遅れたり突っ込んだりを繰り返すヘナヘナのボーカルに、こりゃヘタウマとかいうレベルじゃないよな、という気はしたんだけれど。めげずに何回も聴いているうち、ポルトガル語で歌っている曲は比較的ましだ、ということに気付いたのね。英語がうまくないだけなのかと。
で、アストラッド・ジルベルトの唄がアメリカでどのように受け入れられていたのかを、想像してみたんだけど。我が国でも大昔、海外のスターがたどたどしい日本語で歌うレコードが出されていたけれど、要はあれの米国版なのかな、と。
そういう風に考えるうちに、この唄が近しいものに感じられてきて、明らかに下手ではあるけれど、それも余り気にならなくなってきました。

さて、もう一人の主役ワルター・ワンダレイでありますが。ヴァーヴでの前作「Rain Forest」同様、しゅこしゅこいってます。もともとオルガンという楽器の音は輪郭がはっきりしていないのに、さらにエコーを深く掛けてソフトな感じを出している(ここら辺はアーティスティックな商売人、クリード・テイラーの意向かもしれないけれど)。フレーズをはっきりさせるためか、一音ごとにスタッカートを効かせるようにして弾いていますが、ときにバタバタした感じも受けます。
まあ、全般に演奏はそつがない唄伴という感じで。数曲で聴けるピアノもフレーズを詰め込まないものであって、ラウンジ音楽っぽい。

ジョアン・ジルベルトがギターで参加してるという話ですが、だからといって、どうということはないです。
ボサノヴァ曲もジャズナンバーも全て同じ鋳型に嵌めて聴かせるプロダクション。これは異邦人のポップシンガーのためのアルバムだ。

2010-07-17

本格ミステリ作家クラブ 選・編「本格ミステリ'10」

この年間アンソロジーも十年目か。

法月綸太郎 「サソリの紅い心臓」 ・・・ 事件の関係者の直接の描写がなくデータは全てが伝聞で与えられる、ガチガチのパズルストーリー。けれども、書き振りにゆとりがあるせいか息苦しいものになっていないのは、流石。 限られた容疑者の中からロジック操作でもって真犯人を絞り込む、その手つきの冴えが見どころ。

山田正紀 「札幌ジンギスカンの謎」 ・・・ 限られた紙幅のなかに、これでもか! というくらいのアイディア・奇想が詰め込まれていて、圧倒される。ただ、色々ぶち込みすぎたせいか、手掛かりや推理には無理が感じられるし、小説としてもゴタゴタしているような。ベテランらしからぬ稚気は嬉しいけれど。

大山誠一郎 「佳也子の屋根に雪ふりつむ」 ・・・ まるで戦前の探偵小説のような、書割りのような作品世界での不可能犯罪。大山誠一郎を読むのは久しぶりだけれど、まったく作風にブレがない。マニアによるマニアのための小説かもしれないけど、それをよしとするだけのレベルにはあると思う。

黒田研二 「我が家の序列」 ・・・ この作家が得意とするミステリと人情噺を絡めたもの。隠されていた構図は結構読めてしまうけれど、その分、小説としてのまとまりがあります。現実的な舞台でのいわゆる日常の謎が、不思議とおとぎ話のように感じられる締めくくりがいい。

乾くるみ 「《せうえうか》の秘密」 ・・・ 暗号もの、それも凝りに凝った。キャラクターは爽やかな学園青春作品なのに、一般受けはしそうにないややこしい作品ではあります。判りやすく、しかも面白い暗号ものというのは難しいのだろうな。ところで、この京都弁は微妙な笑いを狙ってると思うのだけど。

梓崎優 「凍えるルーシー」 ・・・ これは再読でしたが、驚愕の真相に異様な動機、それを大胆に潜めるテクニックと、やはり大した新人が現れたという感に変わりはないですね。探偵役の勘が良過ぎる気はするが。

小川一水 「星風よ、淀みに吹け」 ・・・ SFプロパーによる、かっちりした近未来フーダニット。犯行方法の意外性が素晴らしいですが、ミステリ的なケレンが弱いため、このアンソロジーで読むと損をしているような感じも。

谷原秋桜子 「イタリア国旗の食卓」 ・・・ 毒殺トリックの新たなバリエーションが楽しめます。トリック実現の困難さを小道具や細かい手掛かりでもって丁寧にカバー。小さな点どうしを結んでいくうちに、いつのまにかありえないような場所に到達する、というのも探偵小説の醍醐味のひとつであります。

横井司 「泡坂ミステリ考 - 亜愛一郎シリーズを中心に」 ・・・ 評論ですが、個人的には社会状況の中でミステリがどのような意義・効果を持ちえるのか、的なことには全く関心が沸かないのね。批評的な人間じゃないもんで。

前年の『本格ミステリ'09』を読んだときはそろそろマンネリかな、という気がしたんですけど、今回は安心して読める作品揃いながら、ちょっと新味もあって持ち直した印象。けど、収録作品数は今までで一番少ないんだよな。

2010-07-16

アガサ・クリスティー「ゴルフ場殺人事件」


引退した有名なゴルフ・プレイヤーである、ルノー氏。現役時代に稼いだ賞金で自分のゴルフ場を経営するなど、今は悠々自適な生活。彼の元にはその資産を目当てに、家族だけでなくさまざまな親族や友人たちが出入りしていたのだが、最近になってルノーは自分の死後は全ての資産を寄付すると宣言、にわかに彼の周りの人物の間に険悪な空気が。そんなある日、ゴルフコースでルノーが打ったボールがギャラリーの頭部を直撃、死に至らしめてしまう。だが、その本当の死因は事故ではなかった・・・。
と、いうようなお話ではないです。題名は『ゴルフ場殺人事件』となんだが芸がないものですが、実際は死体がゴルフ場で発見されるというだけで他にはゴルフに関する要素は出てきません。

クリスティのボアロもの、第二作です。デビュー作『スタイルズ荘の怪事件』には先行する探偵小説の形式を意識したような堅いところがありましたが、この二作目にはそういう部分は既になく、早くもクリスティのスタイルは完成しているような感があります。

表面的な事件そのものはシンプルなのに、複雑に絡みあったプロットはちょっと先が読めないもので。そして、物語中盤で明かされる隠された構図、そのアイディアは大したものであり、こんなにあっさり出してしまっては勿体無い、と思わせるくらいでありますが、その後も事件が発生、どんでん返しがあるなど、後半部分はまさに巻を措くあたわず、の展開が楽しめます。
また、ヘイスティングズの惚れ病が発症して意図的に捜査を妨害したり、尊大なライバル探偵が現れ、ポアロのプライドに火をつけるなどの味付けも充分。

謎解き面では奇妙な手掛かりの数々がチェスタトン的であったり、クイーン風であったりで実に楽しいです。特に、現場に落ちていた腕時計が二時間進んでいたことからの推理の流れが素晴らしい。プロットが入り組んでいる分、ポアロによる絵解きのシーンは丁寧で、かなりの紙幅が割かれているのも嬉しかった。
純粋に推理の醍醐味が楽しめる力作でした。