2011-03-05

Dave Stewart & Barbara Gaskin / Broken Records - The Singles


スチュワート&ガスキンが1980年代前半にリリースしたシングル6枚分を収めた、日本編集盤。
前半にシングルA面であったカバー曲、後半にB面のオリジナル曲が収められているが、単純にリリース順ではなく一枚のアルバムとしての流れを考えて並べられているのが嬉しい。
実はシンセが多く使われているポップスはあんまり得意じゃない。だから僕の聴く音楽は'70年代前半で止まっているのだが。

やっぱりシングルA面曲がいいです。楽曲を各要素にまでいったん還元して、それらを自分たちのスタイルでもって磨き上げ、一から再構築していくという印象。もはやカバーというより、翻訳のような行為だ。
冒頭の "I'm In A Different World" が一番、凄いな。コーラスの絡み方にソウル的な甘さは残しているものの恐ろしくアク抜きされており、フォー・トップスのヴァージョンとはまったく別物。そう言われなければ同じ曲とは思わないだろう。メロディ、コードともに改変されている上、オリジナルでは数回繰り返される大サビを一度だけにし、ブリッジ化したことで曲が分かり易くなっている。
"It's My Party" はさすがにレスリー・ゴアのほうがいいと思うけれど、芝居がかった歌・演奏ともになんだかやりすぎ寸前。語りまで入ってます。
ロックンロールを可憐なガールポップに仕立てた "Johnny Rocco" にほのかに感じられるレトロ風味や、バーバラ・ガスキンのレンディションが素晴らしいディズニーの挿入歌 "Siamese Cat Song" のエキゾチシズムも良いな。一曲のなかでも次々に様相が変化していくさまはファンタジックであり。
そして、ミュージカルの "Busy Doing Nothing" に至ってはコーラスごとにアレンジが変わり、繰り返しが無いという手の込みよう。

さて、後半のオリジナル曲となると、ユーモア成分が減少して、アレ?という感じです。ま、まあB面だものね。楽曲自体は悪くないんだけれどインストゥルメンタルの比重が高く、そうなってくるとどうしても音に違和感があって。それはシンセだけでなく、その時代の音として(シモンズのドラムとかねー)聴いていて落ち着かない気持ちになってしまう。
そんな中では牧歌的な "Henry And James" が風通しが良くコンパクトで、ほっとさせられます。

遊び心溢れる仕掛け満載の、家内製人工ポップな一枚。サウンドのほうはともかくとして、注ぎ込まれたアイディアの数々は古びていない、かな?

2011-02-27

ジャック・リッチー「カーデュラ探偵社」


「超人的な力と鋭い頭脳で難事件を解決する、黒服の私立探偵。ただし営業事件は夜間のみ。その正体は―」
特異な名探偵、カーデュラものの短編は全部で8作しか発表されていないようで、それを「全作収録した世界初の完全版〈カーデュラの事件簿〉」ということです。個々の作品は全て既訳があるものだけれど、それがまとまったことに価値があるのでしょう。実際、これはひとつひとつ単独で読むより面白いと思います。

クールな一人称で語りながらもユーモラス。そして、ちょっとした気付きから意外な解決へとたどり着くという、ミステリとしての出来も上々で、ひとつとして落ちるものがないのは大したもの。
もっと読みたい、となるのは当然でありますが。そもそも、思っても見ないような意外なオチが身上であるのがこの作者で、それがシリーズ探偵ものとなると縛りがかかり書きにくいと想像され。さらに、どの作品もミステリとしての捻りの中にカーデュラの特異な設定をうまく生かしたものになっているので、マンネリを避けようとすれば量産は利かないものだったのでしょう。

カーデュラものだけだと200ページにも満たないためか、後半にはノンシリーズの短編5作が収録されています。どれも奇妙な設定のクライムストーリーで、ジャック・リッチーという作家のショーケースになっているのでは。

ワン・アンド・オンリーの個性をたたえながら、肩の凝らない軽い読み物に仕上がっているのが素晴らしい。洒落ていて上質のエンターテイメントとはこのことなり。

2011-02-26

coming soon...?


フィレス関連の新盤4種が届きました。
"newly remastered from the original master tapes" と謳われており、実際、音のレンジが拡がっていて、今風に聴き易いといえるか。先にリリースされた「A Christmas Gift for You」と同様、'90年代初めにアブコから出たCDと比べると結構印象が違います。すっきりしたウォール・オブ・サウンド、というのはなんだか変かも。

「The Sounds Of Love: The Very Best of Darlene Love」は昨年の春に出るはずだったのがずっと延期されていたタイトルでしょうか。"first multi label" コンピレーションということで、ブロッサムズとしてのの録音も。
「Be My Baby: The Very Best of The Ronettes」には初CD化の "I Can Hear The Music" が。レニー・ケイによるライナーノーツがついています。
「Da Doo Ron Ron: The Very Best of The Crystals」には未発表であった "Woman In Love" という曲が収録。
そして、レーベルコンピレーションにあたる「Wall Of Sound: The Very Best of Phil Spector 1961-1966」。

待ちに待ったリイシューでありますが、ラインナップはなんだか代わり映えしないものであって、正直喰い足りないぞ、と思いきや。
なんと六月にはオリジナルアルバム6枚入りのボックスセットが


これまで待たされたことを思えば、六月なんてすぐだね。

2011-02-23

Manfred Mann / Mighty Garvey!


マンフレッド・マンが1968年に発表した「Mighty Garvey!」はなるほど良く出来たサイケポップのアルバムではある。マンフレッズ版サージェントペパーであるとか、ゾンビーズの「Odessey and Oracle」に比肩するなどという、いささか大袈裟な文章を見たこともある。けれども、僕にはこのアルバムが彼らの代表作とは思えないのだな。
'60年代イギリスにおいて群雄割拠するさまざまなバンドの中でも、抜きん出てヒップな存在と目されていたのが彼らだ。そのマンフレッズならではの個性といったものが、この「Mighty Garvey!」からはあまり感じられない。そもそも、他のバンドの作品と比較されること自体、違うだろうと。

フォンタナ移籍後のマンフレッド・マンは新加入のシンガー、マイク・ダボのソングライティングが開花していくことで、逆にそれまでの魅力であったジャンルミックス的なセンス、唯一無二といえる音楽性が見えにくくなった。この辺、痛し痒し、ではあります(彼らのもうひとつの面はサウンドトラック盤「Up The Junction」でうかがえる。純粋に劇伴であるインスト曲を構成・演奏できるロックバンドが当時、他にどのくらいいただろうか)。

「Mighty Garvey!」というアルバム、収録曲の制作には二年近い幅があって、ちゃんと聴けば音像に統一感がまるでないことはすぐわかる。そこにエディ・ガーヴェイというキャラクターを立て、あたかもトータルアルバムであるように擬態して、寄せ集めであることを隠蔽しようとしたのが本当のところだろう(また、コミックリリーフのように極端に違う曲調のものを放り込むことで、他の曲どうしでの違和感を緩和しているのだとも思う)。

もっとも、そんな時流に乗って制作したような作品ではあるが、個々の曲自体は素晴らしい。前述したダボとドラマーのマイク・ハグの書くメロディは、この時点で職業作曲家レベルに達していたのでは、という気さえする。
個人的に一番好きなのは "No Better, No Worse" という曲。魅惑のコード進行、絶妙なバックコーラスにメロトロン。確かにピーク時のゾンビーズと比較しても引けをとらない哀愁と麗しさである。典型的な時代の音ではあるけれど、ここまでくればオリジナリティなどどうでもいいかもしれない。

2011-02-14

三津田信三「作者不詳」


編集者・三津田信三を狂言回しにした三部作の二作目、ですが独立した作品として読めます。

いわくありげな同人誌「迷宮草子」、そこには7編の奇妙な物語が記されていた。そして、「迷宮草子」を一旦読み始めたものは、そこに書かれた物語に合理的な解決をつけなくては、怪異に取り込まれ、消失してしまうという。

ホラーとミステリを合体させた連作短編集、ということになりますか。
それぞれテーマとして、ドッペルゲンガー、衆人監視下での消失、毒殺、倒叙、孤島での皆殺し等趣向が凝らされており、その上、各編の文体を変えるなど同人誌としての体裁もしっかり。
謎解きではさまざまな可能性を検討され、多重解決めいた面白さも。そして必ず盲点を突く真相が用意されており、独立したミステリ短編として申し分ない。また、事件に解決をつけても、それですっきりさせてしまうのでなく、むしろ不気味な余韻を残すのもたまらない。

メタ趣向を突き詰めた感もあり、「迷宮草子」の作品に現実的に整理を付ける一方で、作品内現実レベルではどんどん得体の知れないものに侵食されていく、という顛倒が強烈です。
最後に「迷宮草子」そのものの謎に迫るのですが、ここで腰砕けにならずに、むしろさらに迫力が増していくのは流石。しっかり長編としても成立しています。

投入されたアイディアの密度がとんでもなく高く、刀城言耶シリーズを書く前からこの作家は凄かった、ということが確認できますねー。

2011-02-12

Jackie Cain & Roy Kral / Double Take


1961年リリース、ジャッキー&ロイのコロンビア録音盤。ジャケットにも大きく「STEREO」の文字が掲げられているけれど、非常に分離のはっきりしたミックス。右チャンネルにロイ・クラールの、左にはジャッキー・ケインのボーカル、センターに演奏となっておりまして、ボーカルが完全に分かれていることから男女デュエットの妙が存分に楽しめるようになっています。

ユーモラスな掛け合いからはじまり、抜群のコントロールによるぴったり決まったユニゾン、変化してのハモりあり、さらには分かれてのスキャットなど相当テクニカルに思えるのだが、聴き手に緊張を強いず、実に楽しく聴いていられる。いやあ、これは大した芸ですよ。
歌の正確さ、発音の明瞭さが音楽の質に直結している好例でありますね。

また、ピアノトリオによる演奏も軽快で洒落ていて、心地いい。全体が快調なグルーヴで貫かれており、一気に聴かせられる。
ところで、間奏部分でよく耳を澄ませると、右チャンネルからうなり声がオフ気味で聞こえてくる。してみると、ボーカルと演奏は同録なのかな。ロイ・クラールの一度に行っている演奏が別々の方向から聞こえてくるのは、近代的なステレオレコーディングとは逆の感じを受けて、なんだか面白い。

ロマンチシズムの配合も適量な、大人のカップルについてのコンセプト・アルバムとしても聴ける一枚。

2011-02-11

The Free Design / Kites Are Fun


フリー・デザインをもう一枚。こちらはファースト・アルバム、1967年リリース。
この時点で既に、基本的なスタイルがほぼ出来上がっているのは流石で、素人臭さは微塵もない。特に繊細でスリリングなアレンジはオリジナリティを感じさせる堂々としたものだ。
おそらくクリス・デドリックは若くして、ミュージシャン固有の作家性などというものにそれほど信を置かないひとではなかったか。積み重ねた音、その絡み合い方にこそ神が宿るのだ。

とはいっても、このアルバムからはまだ青さ・瑞々しさも聴き取ることができます。ボーカル/コーラスは凛として姿勢良く、背筋の伸びたものであり、そこここに漂うフォーク的な清新さも好ましい。
そして何より、優れたミュージシャンのデビュー作にのみに見られる、これから何か新しいものがはじまっていくような勢いが全体にみなぎっており、その表現は時に力強ささえ感じさせる。後に強調されていく小洒落た面よりも、ここではむしろスケール感の方が勝っている気がします。

初めてフリー・デザインを聴く人は、これが一番入り易いんじゃないでしょうか。
冒頭を飾るタイトル曲 "Kites Are Fun" はまさしく、名刺代わりに相応しい一曲。