2013-02-22
Terry Callier / What Color Is Love
テリー・キャリアー、カデットからの二枚目、1973年。プロデュースは前作「Occasional Rain」に引き続きチャールズ・ステップニーが担当。
非ソウル的な音作りという点では共通しているものの、「Occasional Rain」では小編成での演奏であり、時に実験的なアレンジが試みられていたのに対して、今作ではアコースティック・ギターの響きは残しながらも管弦がふんだんに取り入れられ、ドラマティックな作りに。展開が豊かになり、映画音楽を思わせる瞬間もあります。アルバム最後の曲は女性コーラスが入るものの、インストでありますし。
実際、普通のポップスファンがこのアルバムの多くの曲から連想するのはバート・バカラックやジム・ウェッブではないだろうか。特にタイトルになっている "What Color Is Love" やキャッチーな "Just As Long As We're In Love" のアレンジはとてもバカラック的であるし、この二曲やカントリー的な甘さを含んだ "I'd Rather Be With You" などはB.J.トーマスが歌ってもおかしくないのでは。
もっとも、そういったポップソングだけでなく、ペースを変えるようにファンキーなベースが効いた "You Goin' Miss Your Candyman" も格好良く決まっています。
全てテリー・キャリアー自身の手になる楽曲はますますメロディに磨きがかかり、ヴォーカルは前作同様に熱がこもっていながらも、よりストレートでくどさが気にならないものになっています。
と、いうわけでソウルのプロパーなリスナーには結構好みが分かれそうでありますが、ジャンルなんてどうでもいいわ、というひとなら黒人音楽版「A Tramp Shining」としてお勧めしたいな、と。
2013-02-17
Spinetta / Silver Sorgo
アルゼンチンのミュージシャン、ルイス・アルベルト・スピネッタによる2001年のアルバム。
「銀のもろこし」というタイトルはまるで宮沢賢治のようだな。
肉体性を感じさせるバンド演奏から人工的な箱庭ポップスまで、スタイルは自在に行き来するも、サウンド全体としては浮遊感を湛え、ヨーロッパ的なロマンティシズムを感じさせる、とてもメロウなもの。
一方、メロディからは英米のものよりはむしろ、日本のポップスに近いセンスを感じます。
冒頭に置かれた "El Enemigo" が良いです、凄く。透明な響きのギターとシンセサイザーの組み合わせは、'70年代中頃のトッド・ラングレンをアップデイトしたようである。そして、そこにニール・ヤングを思わせるリリシズムが炸裂する。極上のアダルト・メランコリック・ロックンロール。
また、"Abrazame Inocentemente" は下世話なアレンジにキャッチーなメロディのポップソング、なのに喚起するのはどうしようもなく切ない感情だ。
世界の中で迷子になってしまったよ、とっくに大人だというのに。
ひんやりした質感の音と甘いメロディの中で、発育不全な情感が溶けていく。
もう泣いたりはできないおっさんのためのモダンポップ。
2013-02-11
アガサ・クリスティー「ナイルに死す」
1937年のエルキュール・ポアロもの長編で、ナイル川を巡航する観光船をクローズド・サークルに仕立てた作品です。
クリスティの書いたミステリの中でも最も長いものだそうですが、そんなことは全く問題にならないくらい筋運びは滑らか、ただ登場人物が多いだけです。腹に一物ありそうな面々が実に手際よく紹介され、いかにもこれは伏線なんだろうなあ、というエピソードを盛り込みながらサスペンスが高まっていく。で、すっかり乗せられて気持ちよく読んでいると、不意打ちのようなタイミングで事件が起こる、この呼吸が鮮やか。
殺人の他に、高価な宝石の盗難、果ては政治犯までが絡んできて、ミステリとしての奥行きは充分であります。
また、作品の途中から『ひらいたトランプ』にも顔を出していたレイス大佐が登場、ワトソン役を務めるのだが、ヘイスティングズと比べて明敏であり、そのことによって今まで以上に踏み込んだディスカッションが可能となっているよう。
実を言うと、フーダニットとしては弱いのです。トリックには驚くようなものが使われていますが、相当に無理目。それを細かい伏線の数々によって押し切ってしまった感はあります。
ただ、メインの謎だけではなく脇筋もしっかり作りこまれており、一見錯綜していた構図が綺麗に収束していく手際はお見事としか。
物語る力が半端ないのに、そこには一切の強引さを感じさせない筆運びが素晴らしい。華やかで堂々たるエンターテイメント小説という印象を持ちました。
2013-02-10
Sam Dees / The Show Must Go On
サム・ディーズが1975年にアトランティックからリリースしたファースト・アルバムが、米Real Gone Musicより単独タイトルとしてCD化されました。ボーナストラックにはシングル曲/ヴァージョンが6曲。
制作は南部アラバマで、裏方としてのキャリアを示すように収められている曲は全てサム・ディーズの自作であり、プロデュースも本人によるもの。ただ、'72年からぽつぽつと出されてきたシングルが多くを占めているためか、統一感はあまりないかな。
一曲目 "Child Of The Streets" はニューソウルのコンセプトアルバムかブラックスプロイテーションのオープニングを思わせるクールなスロウファンクで、えらく格好いいのですが、同じようにシリアスな感じのものはアナログB面一曲目に当たる "Troubled Child" くらいで、他の曲はオーソドックスな南部ソウルに都会的なセンスがブレンドされたようなものが多い。ソングライティングは勿論、滑らかな美声でありながら、時に力強いシャウトを聴かせる歌唱が良いですね。
中ではスロウの "Just Out Of My Reach" が特に気に入っています。メロウなバックと熱っぽいヴォーカルの対比が素晴らしく、ちょっとボビー・ウォマックを思わせます。スウィートなミディアム "What's It Gonna Be" も哀愁が感じられる出来で、いい。
どんなスタイルの曲を演っても典型的なものにはならず、どこか知的な洗練が感じられるのが持ち味でしょうか。シンセの使い方など、うまいものだ。
ポップだけれど味わいもあって、いいアルバムですな。
2013-02-05
ヘレン・マクロイ「小鬼の市」
第二次大戦中、カリブ海の島国に流れ着いたアメリカ人であるフィリップ・スタークは通信社の記者として働くこととなるが、急死した前任者をめぐる状況には不審なところがあった。スタークがその謎を追ううちに、さらなる不可解な出来事が明らかになっていき・・・。
これまで読んだことのあるマクロイ作品とは随分と雰囲気が違いますね。クリスティのノンシリーズ活劇ものをシリアスめにしたような感じといったらよいか。
主人公スタークは文無しながら知恵と腕っぷしには長けている陽性のキャラクター。彼が危険を承知で謎を追っていくうちに偶然手掛かりに出くわしたりする展開はスリラー味が濃いものです。事件の陰には大きな陰謀が見え隠れし、舞台のエキゾティックな味付けはプロットにも有機的に絡んできています。
一方で謎解きとしてみるとちょっと弱い、というか判りにくい。説明されればなるほどね、と納得するのだけれど。被害者が残したメモの意味は英語が苦手なひとにはピンとこないでしょう。
登場人物がどいつもこいつも何かを隠しているような中で、一番の秘密は何だったのか。丁寧な伏線や切れ味を感じさせる結末は、いかにもこの作家らしいもので嬉しくなりました。ただし、この趣向は先にマクロイの他の作品をいくつか当っていたほうが楽しめるのは確かであって、間違っても最初の一冊にはしないでね、と。
2013-01-27
The Rolling Stones / Charlie is my Darling
豪華版で買ったのは輸入盤でも日本語字幕が付いているということと、ライヴCD「Live in England '65」があるからでした。
映画としてはどうなんでしょうね、なんか焦点がはっきりしないようでありますが。「A Hard Day's Night」のドキュメント仕様というか。熱狂するファンやメンバーの素の姿、それにインタビューはまあ、一回見ればいいかな、くらいのものですか。
やはり、当時の演奏シーンを曲が完走する形で見れるのは凄く大きいですな。ステージ正面からのショットがなく殆ど真横から撮っているため、全体像が掴み難い画ではありますが、迫力は充分。ただ、映像と音の同期に違和感を感じるところもあります("Around And Around" の音はT.A.M.I.ショウ出演時のものからとってきたものらしく、権利のせいなのか同梱のサウンドトラックCDにはこの曲だけ入っていません)。
それと、ホテルの部屋でのリラックスした演奏シーンも見所。"Siitin' On A Fence" の歌詞を詰めていく部分が良いですね。続けて "Tell Me" を唄うのはなんだか演出っぽい、という気がしましたが。
ビートルズの "I've Just Seen A Face" と "Eight Days A Week" を唄うところなんて見ると、それほどライバル心というのは強くなかったのじゃないか、なんて思いました。
期待していた「Live in England '65」は、EP盤「Got Live If You Want It!」の拡大版のような(そうでもないような)。
オリジナル曲はわずか三曲、勢いで押し捲るがゆえに単調なところも無いではありませんが、音がゴリゴリして力強い、ガレージR&Bとしての趣が格好良い。初期ストーンズのライブ盤としてはこれが決定版でしょう。
2013-01-21
The Remo Four / Smile!
リヴァプール出身のオルガンR&Bコンボ、リモ・フォー唯一のアルバム。オリジナルは1967年、ドイツのStar-Clubからのリリース。
レコーディングは一日にも足らない時間のうちに、スタジオライヴに近い状態で行なわれたそう。取り上げているのは普段演奏していたカバー曲ばかりとあって咀嚼も充分で、ジャズインストと唄物のR&Bが混在しているのだけれど、その感触に違和感が無い。ステージの熱と迫力がうまく持ち込まれたようなタイトで太いサウンドが気持ち良い。
ジャズやソウルを若い聴き手向けに消化した音楽は当時の英国には数あれど、ブライアン・オーガーやズート・マニー、あるいはペドラーズらと比較するとリモ・フォーのリズム感覚はずっとビートグループ然としたものだ。これは彼らの活動の中心がハンブルグにあったということが大きいのではないかしら。かの地ではロンドンあたりのクラブに集う流行に敏感でヒップな客相手とはまた違う、もっとダイレクトで性急な表現が受けていたと想像されるのだが如何か。
そしてこれより20年後に、ビートグループ的なセンスによるオルガンR&Bというコンセプトを再現したのが最初期のジェイムズ・テイラー・クァルテットだと個人的には思っているのだが、それはまた別の話ということで。
ルーツへの愛情を感じさせながらも黒すぎず、かといってプレイヤーとしての主張が出過ぎることもない、その距離感がとてもスマートで格好いい。ガッツとプライドを感じさせる、まさしくスタイリストたちによる一枚。
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