2014-04-13

XTC / Skylarking


「Skylarking」(1986年)のリマスター、「corrected polarity edition」だそうな。
極性修正、とか言われてもピンときませんが。ブックレットの記載によれば、プロデューサーであるトッド・ラングレン所有のスタジオにおけるミックスダウンの際、マルチトラックマシンとステレオミックスマシンの間の配線に間違いがあったらしい。当時は誰も気付かず、XTCの面々は「痩せて迫力の無い音になっちゃったな」と思っていたとのこと。
トッド・ラングレンはこの件について反論しているのですが、やや話がずれている気がしますな。

ともかく、極性云々あるいはリマスター、どちらの効果かはわかりませんが、今回のリイシューでは空気感が豊かなものになったように思います。それぞれの音が生きいきとしているけれども決してうるさくはない。特にギターの音が良くなったなあ。


この「Skylarking」というアルバムは特に我が国で人気が高いようでありますね。個人的にはバンドらしさが濃い "Earn Enough For Us" が一番好き。いや、要はビートルズっぽいからなんだけれど。
今回、"Dear God" がボーナストラックの形ではなく、アルバムの流れの中にちゃんと位置しているのもいいですな。

しかし、このジャケットは……

2014-04-07

Lesley Gore / Girl Talk


レスリー・ゴア、4枚目のアルバムでリリースは1964年。
プロデュースはクインシー・ジョーンズ、アレンジはクラウス・オガーマンという、レスリー・ゴアにとってのいつものチーム。サウンドは華やかで明るく、まさに'60年代前半のアメリカン・ポップ王道、という感じですね。少しリズムが強調されてはいますが、パーカッションやハンドクラップらでの補強によるものであって、軽やかさを損なっていないのは流石。
レスリー・ゴア本人の唄については今更ですが、正確であり、スロウであってもべたつかないキレの良さが好ましい。また、エリー・グリニッチらによる力強くも爽やかなバックグラウンドボーカルは、ガール・グループものに通じるテイストを濃く感じさせます。

収録曲では、そのグリニッチとジェフ・バリーによる2曲、"Look Of Love" と "Maybe I Know" がハイライトなのですが、ちょっとクールで蓮っ葉な感じの "Hey Now" やR&B的なフックを持つ "Wonder Boy" も良いな。


ところで、このアルバムは最近になって英Aceよりボーナストラック13曲を加えてリイシューされたのだけれど、このボーナス部分の構成がちょっと妙。前年にレコーディングされながら当時は未発表であった(そして後に独Bear Familyによって発掘された)ものが4曲、残りが翌'65年にリリースされたシングル&アルバム曲となっていて。これを見る限り、今後Aceからレスリー・ゴアのカタログが次々と出されるわけではないようですね(「California Night」あたりは出そうな気はしますが)。編者であるミック・パトリックの意図として、ブリティッシュ・インヴェイジョン前後のアメリカン・ポップ・ミュージック、その最良の部分をこのCD全体を使って照らし出してみたのかな、なんて思うのだけれど。
そのボーナス部分ではシェルビイ・シングルトンがプロデュースした "I Just Don't Know If I Can" がロネッツを意識したような仕上がりで興味深い。

あえて注文をつけるなら、"Look Of Love" のシングルヴァージョン(スピードを上げた上でスペクター風の味付けを加えたもの)も収録して欲しかったな。

2014-04-06

アガサ・クリスティー「死が最後にやってくる」


紀元前2000年のエジプト、権力者である家長は、若く美しい妾を伴って旅から帰ってきた。それをきっかけに、くすぶっていた家庭内の不満が顕在化していき、ついには死者が。

1944年発表、ノンシリーズもの長編。なかなかに冒険的な舞台設定の作品でありますが、出てくるキャラクターたちは現代物とあまり変わらず、むしろ典型化が激しいかな、という印象。
古代を舞台にしたことで、死者の呪いというミスティフィケーションがうまくいっているのですが、その一方で、いつものクリスティ作品らしい小道具の使用があまり見られず、人間心理の物語としての側面がより大きくなっているように思います。
物語中盤から事件は次々に起こっていきますし、フーダニットとしての形態をとってはいますが、警察や探偵が存在しないため、それらはまず家庭内の問題として処理されていきます。

事件を巡る状況には不可解なところがあるものの、それを前面には立てずに進行していくので、謎解きの興趣はやや薄く感じられるな。
誰も信用できない、というサスペンスの高まりは作者のクローズド・サークルものにも通ずるものであって、この辺りはうまい。

ミステリとして、現代ものでは出来ない趣向というのが周辺的な部分にかかっている。その工夫を面白く思うかどうか。
クリスティをある程度の量読んできたひと向けの作品ではないかしら。

2014-04-04

The Grass Roots / The Complete Original Dunhill/ABC Hit Singles


米Real Gone Musicによる、グラス・ルーツのシングル集。
タイトルに「Complete」で「Hit」とあるように、シングル曲のうちチャート・インしたものを網羅しました、ということらしい。

実はこれ、結構な労作のよう。全てオリジナル・シングル・ヴァージョンで固められているのですよ。モノラルです。
以前にも書いたけれど、ダンヒルはセッションテープやモノマスターを'70年代に廃棄してしまっているとの話で。今回使用された音源は、海外でのリリース用に送られたサブマスターか、それが利用出来ない場合はアナログレコードから起したそうであります。
なるほど聴いていると、これは盤起しかな? というような歪みっぽいところが感じられるものもありますが、殆どの曲は力強く、パンチの効いた(と書くと死語なのだが、英語でいう "punchy" ってやつです)仕上がりで、個人的には満足です。


実をいうと僕は、グラス・ルーツについてはP.F.スローンが制作に関わっていた頃のフォークロックが好きなのであって、それより後のポップソウル路線のものには、あまり関心はないのです。今回、改めて聴いてみても、その思いは変わらなかったな。良い曲もあるけれども、時代が進むにつれてサウンドがもっさりしてきているような気がして。まあ、ここら辺りは好みの問題ですね。
ところで、このCDのブックレットにはスローンの相方であったスティーヴ・バリーのコメントがふんだんに盛り込まれていて、なかなか読みでがあって面白い。スローンがダンヒルを去って、バンドのオリジナル曲を多く入れたアルバムもセールスには結びつかずといった難しい時期に、バリーはグラス・ルーツのメンバーたちとミーティングを行なったという。そうして最後には「君たちはポップグループであって、ザ・バンドのような存在ではない」という結論になり、外部のソングライターによるヒット性のありそうな楽曲を演っていく、という方針が決まったらしい。

しかし、今更なんだが、このヒット曲集の流れで聴くと、やはり "Let's Live For Today" が一番輝いているように感じられるな(非シングル曲なら "Is It Any Wonder" なんて凄く好みのがありますが)。
この曲はスローン&バリーが書いたものではないけれど、イントロのギターのウェットな響きからしてフィル・スローンのセンスがはっきりと感じられます。また、ドラマティックな展開には、うん、ヒット・レコードとはこういうものだよな、と納得。

あれだな、もう古い音楽だけでいいな、僕は。消費税も上がったしね。

2014-03-30

泡坂妻夫「煙の殺意」


作者の初期にあたる1976~79年に発表された短編8作を収録。
この時点にしてナラティヴの豊かなこと。謎の形態は勿論、読み物としてのバラエティが流石です。


「赤の追想」 ホームズ譚を思わせる導入も愉しい、日常に潜んだ謎を扱ったもの。わずかな登場人物、内容の半分以上を回想が占めるという構成で、非常に動きの少ない物語だが、それゆえに意味の反転が印象的。結末といい、とても綺麗な形をもつ一編。

「椛山訪雪図」 美術ミステリといったらよいか。回想の物語であるがゆえに生々しさがなく、絵画に込められた幻想味がより高まっている、この作者ならではの詩美性が強調された作品。ミステリらしくない謎をいかにミステリとして生かすか、というのが実に巧い。

「紳士の園」 刑務所から出所したばかりの男たちが遭遇した死体消失事件。落語のようなとぼけたやりとりが愉しく、それに乗せられて読み進めると、異様な推理を経て、恐ろしく落差のある結末が待っている。語り過ぎない、その加減が絶妙ではないか。

「閏の花嫁」 殆どが書簡のやりとりで構成された短編。オチはすぐに予想がつくのですが(というか、予想のつかない形でこのオチを使うことは困難だろう)、決して物語からはみ出ていかない範囲で収められている伏線と、あくまでユーモラスにまとめた過程が読み所。

「煙の殺意」 亜愛一郎ものとも共通するような奇妙なロジックが炸裂する強烈な一編。こんな話を思いつくひとはやはり、どこかイカれているのではないだろうか。しかも幕切れが洒落ているというのだから、わけわかんねえ。

「狐の面」 法力で病気を治すという旅の修験者たちと寺の住職の対決。土着的文化と科学精神の衝突からくるユーモアが愉しい。手品の種明かしはこの作者らしい。一見たわいもないような事件に隠れた意図があった、という構図も良いな。

「歯と胴」 倒叙ものでありながらその語りの中にちょっとした捻りが。また、ミステリファンとしては当然、犯人がどこでミスを犯すのか、を意識しながら読むことになるのだけれど、これは巧妙。複雑な読後感を残すクライムストーリーであります。

「開橋式次第」 特にユーモアが強調された作品であって、バラバラ死体が出てくるものの、ミステリとしてはあっさり目。とは言え、独特の奇妙な動機はここでも。


ミステリ作家というのは変なことを考えるのものだ、そう何度も思わされました。他人と同じ素材を扱っていても、どれも独自の仕上がりなのが嬉しい作品集です。

2014-03-23

E・C・R・ロラック「鐘楼の蝙蝠」


「死体をしょいこまされた場合、将来の不都合を避けるためには、どういうやり方で始末するのがいいだろうか?」
居心地の良い客間で行なわれた冗談半分の議論、だが、それは後に起こる犯罪を暗示するものであったのか。謎の脅迫者に付きまとわれていた作家は、突然に行方をくらました。また、同じ頃に外出した夫人も消息を絶つ。そして、脅迫者のアジトと思しい場所からは、ついに殺人の痕跡が発見された。

昨年に訳出された『悪魔と警視庁』と同様、マクドナルド警部が活躍する長編。発表されたのはこちらの方が先のようです。
『悪魔と警視庁』では最初に魅力的な謎が出されるものの、その興味が持続していかないという難点がありましたが、今作では不可解な手掛りが徐々に出されていき、事件が錯綜していく展開がうまくいっています。
派手な趣向も盛り込みつつ二転三転するプロットと、そのつど裏を読みたがるマクドナルドの推理も結構しつこく、これは愉しい。

ただ、やっぱり最後の謎解きがなあ、そんなに飛躍がないというか。トリックは肩透かしな上、伏線を出すのが余りに遅すぎるのでは。計画された犯罪としても、僥倖に恵まれすぎているような気がするし。

そういった物足りない点はあるのですが、控えめなユーモアを感じさせる会話は悪くないし、洒落たエンディングといい、う~ん、やはりこれはポスト黄金期の作品として鑑賞するのが良いのではないでしょうか。
『悪魔と警視庁』が楽しめなかったひとはやめといた方がいいかも。

2014-03-22

J.J. Jackson / J.J. Jackson (eponymous title)


1950年代末から活動していたらしいニューヨーク出身のシンガー、J.J.ジャクソン。裏方としてアレンジや作曲の仕事もしていたそうなのですが、これは1967年になってようやく出された自身のファーストアルバム。プロデュースはルー・フーターマンという、ブラザー・ジャック・マクダフなんかも手がけているひとです。ジャクソンもまた、ジャック・マクダフのアレンジをしたことがあるようで、その関係でしょうね。
このシンガー、見かけは相当いかついものの、声は良いですよ。ウィルソン・ピケットに少し似ているかな。巨体を利したような豪快で迫力あるボーカルを聴かせてくれます。
録音は英国で行なわれたようで、そう知って聴いてみると、米国産ソウルと比べ音像に奥行きや広がりが乏しいような気がしなくもない。その一方で、ビートグループ的な密度が感じられるような。

収録されている曲にはスタックスソウルあたりを下敷きにしたようなものが多いですが、ポップな味付けが強い曲のうちにはやや時代を感じるものもあって。今聴いて良いのは所謂ノーザン・ダンサーになりますね。
中でも出来がひとつ抜けているのは、やはりシングルヒットの "But It's Alright" で。シンプルであるけれど格好いいギターリフを中心に据えたすっきりとしたバックに、八分目くらいの力で余裕を感じさせるボーカルが実に決まっています。
また、"I Dig Girls" はダイク&ブレイザーズを思わせるアップで、剥き出しのドラムが気持ちいいし、プリティ・シングズが演った曲の作者ヴァージョン "Come See Me (I’m Your Man)" では抑えた唄い出しから、サビ部分に至って本領発揮の爆発が堪えられない。

スロウもありますが、こちらもやはり熱っぽいボーカルであることには変わりありません。カントリー風味の "Try Me" は唄い回しがどことなくオーティス・レディングっぽいし、"A Change Is Gonna Come" ではサム・クック節も聴かせるのですが、どちらも曲が進むに連れて荒々しさが前面に出てくるものです。

また、アナログでは各面の真ん中にあたるところにそれぞれインストが配置されていて。これらではジャクソンはオルガンを演奏しているそうなのですが、熱唱のボーカル曲ばかりの中で、アルバムのチャンジ・オブ・ペースとして巧く機能しています。ここら辺り、裏方として培ったセンスが生きているようでありますね。