2015-09-19

The Dave Clark Five / A Session With The Dave Clark Five


デイヴ・クラーク・ファイヴ、1964年の英国ファースト・アルバム、日本独自のリイシューです。ボーナス・トラックには当時、日本盤に差し替えで入っていた4曲が追加されています。
発売元のオールデイズ・レコードというのはオリジナル発表後50年以上経った作品ばかりを扱っている会社であって、まあつまり、このCDもそういう類のものだ。
パッケージは紙ジャケットなのだが、写真の色味がきつい上にタイトルの位置が変更されている。さらには裏側のデザインはほぼ原型をとどめていなくて、これならプラケースの方が良かったなあ。

さて、肝心の音質のほうですが。
一聴して、インスト曲ではヒスノイズが目立つものの、意外に悪くないぞ、と思いました。ライナーノーツはついていますが、どのようなマスターを使ったのかは記載されていません。アナログ盤起こしなのか、あるいは日本で保管されていたサブマスターを使ったのか。
しかし、試しに2008年に出たコンピレーション「The Hits」を引っ張り出してきて "Can't You See That She's Mine" で聴き比べてみると、やはり「The Hits」の方がクリアですね。例えば、セカンド・ヴァースに入る直前に掛け声が小さく入るのだけれど、これが今回のリイシューでは聞こえなくなってしまっている。

まあ、手に入る材料で頑張ってみました、というものでしょう。何となく流している分には、そんなに不満はないです。音楽そのものは格好いいですしね。
来年になったらセカンドの「Catch Us If You Can」も出すのかしら。デイヴ・クラーク公認のものがリリースされない限り、手を出してしまうかも。
なお、デイヴ・クラークについてはライノ・レコード創立者によるこんな記事があって。欲をかきすぎたために売り時を逃して、にっちもさっちもいかなくなっているような。

2015-09-13

The Isley Brothers / Brother, Brother, Brother


アイズリー・ブラザーズ、1972年の公的には3人編成による最後のアルバム。

この時期の作品では、ソウル・ミュージックに白人的な感覚を溶け込ませるという創意がわかりやすい形で出ています。
彼らは作曲も自分たちでするのですが、この前作にあたる "Givin' It Back" では例外的に全曲がカバー、しかも一曲を除いてすべて白人ロック/ポップ畑のものでした。そして、この「Brother, Brother, Brother」ではキャロル・キング作が3曲に、ジャッキー・デシャノン作のものが1曲取り上げられていて、それらはオリジナル曲と並んでいても全く違和感がないアイズリーの音楽になっています。
演奏のほうは鍵盤が多用され、アコースティックな感覚が強いもの。ファンキーな曲であってもヘビーさがさほど前面に出ない仕上がり。曲によっては、バックトラックだけならウェストコースト・ロックを聴いているような瞬間があります。

ゴリゴリのファンクではないし、甘々なスロウでもないというものが多く、スタイルとしては過渡期なのですが、アイズリー版ニューソウルといった感じがして、とても好きな作品です。
収録曲ではオープナーである "Brother, Brother" の柔らかな感覚が抜群。でもベストはやはり "Work To Do" かな。軽快でキャッチーなファンクで、ここでもアコースティック・ギターが効いていますね。

2015-09-06

アガサ・クリスティー「ブラック・コーヒー」


戯曲2作を収録。

「ブラック・コーヒー」は1930年に発表したエルキュール・ポアロもので、クリスティ自身が手掛けた脚本としては初めての作品だそう。
ある科学者が研究の成果を盗まれることを恐れ、ポアロに調査を依頼する。だが、ポアロが屋敷に到着したときには、すでにその主は死亡していた。というお話。
いかにも舞台らしいと思えるのは、暗転している間に何かが起こるという趣向。あと、色んな人物が大した理由もなく、疑わしそうな動きをするところがあるね。
ミステリとしては毒殺を扱ったものだが、その機会を持った人物はきわめて限られているため、犯人の設定にはあまり驚きを生み出す余地はなさそう。
ただし、犯行の動機から展開されるロジックには面白いところがあって、この部分はむしろじっくりと消化することができる小説向きではないかしら。
ともあれ、ヘイスティングズとジャップというレギュラーも登場して、そこそこ楽しめました。
なお、クリスティはこれ以外にポアロが登場する戯曲を書いていないそうで、オーソドックスなパズラーは芝居にはあまり向いていない、ということでしょうか。

もうひとつの「評決」はだいぶ離れて1958年の作品。こちらにはシリーズキャラクターは出てきません。
犯罪が行われますがミステリではなく、観念的なメロドラマという感じ。プロット上のツイストは用意されてはいるものの、人間関係の動きを中心に据えてあって、雰囲気も重い(もっと皮肉なテイストを強調すれば、いわゆる「奇妙な味」になりそうなお話なのですが)。
正直、娯楽性はあまり高くはないかな。

対照的な2作品でしたが。合わせ技で一本、には少し足りないか。

2015-09-05

The Isley Brothers / It's Our Thing


アイズリー・ブラザーズが1969年、自身のレーベルであるT-Neckからリリースした最初のアルバム。
これ以前3年ほどの間はモータウンに所属し、あてがわれた曲ばかりを歌っていたのに対して、ここでは全ての作曲・プロデュースを自分たちで手掛けている。結構な変化というか冒険であったと思うのだが。
ジャケットに写る姿を見てもそれまでが揃いのスーツであったのが、いけてるのかそうでないのかはわからないが、とにかく個性的な格好であります。

アイズリーの音楽には都会的で洗練されたイメージがあるが、ここで聴けるのは粗野さを残したダイナミックな表現だ。
何といっても大ヒット・シングルである "It's Your Thing" が強力なファンクなのだけれど、ちょっとレイドバックした感覚がある。ホーンが入っているせいもあるか。いくつかあるスロウに土臭さが感じられるのも、この時期ならでは。
また、ロナルド・アイズリーのヴォーカルは後年のようなウェットな色気は控えめで、荒々しく、ストレート。ゴスペル的な感覚も濃く出ているように思う。

アルバムには "It's Your Thing" 以外にもゴツゴツして乾いた感触のファンクが多く並んでいて、スライ&ファミリー・ストーンやジェイムズ・ブラウンの影響が強く感じられる。そして、そこに個性を与えているのは存在感あるギターではないか。チャールズ・ピッツという、スタックスでもセッション・ミュージシャンとして活動していたプレイヤーによる演奏で、切れのいいリズムギターはもちろん、スロウの曲でもその硬めの音が独特の緊張感を生んでいる。

スタイルは借り物かもしれないけれど、自分たちのやりたいことで押し切った、そんな勢いがみなぎっている。まだまだ若々しくて、けれんの無い歌声が気持ちいい。

2015-08-31

マーガレット・ミラー「まるで天使のような」


文無しになったばくち打ち、ジョー・クインはヒッチハイクの途中で降ろされた土地にある、小さな宗教施設で施しを受ける。そこでクインの世話をしてくれたシスターは、彼が探偵免許を持つことを知って、ある人物についての調査を依頼する。簡単な仕事に充分以上の報酬、軽い気持ちで仕事を請け負ったクイン。だが、それは未解決のままになっている事件を掘り返すとば口であった。


ミラーのこれはやはり代表作のひとつでしょうか。以前は早川からでしたが、創元から新訳版が出たので久しぶりに再読。
1962年発表作品で、ロス・マクドナルドなら『縞模様の霊柩車』の頃だ。

主人公であるジョー・クインはふたこと目には皮肉な軽口を叩く、シビアな状況にもユーモアを見出そうというキャラクター。依頼された範囲の仕事は片付けたものの、疑問点を放ってはおけず、クインは関係者たちの過去を調査し始める。どこにでもありそうな港町と、異様な宗教施設を行き来しながら。
やがて、終わったように思われていた事件は、クインの行動が触媒になったかのように再び動き出す。

私立探偵小説のように展開しながら、複雑な謎解きの妙味が楽しめる。間に挟まれるドラマも印象的で、クインの成長劇としても読める。
だが、そんな雰囲気は、終盤に事件の真犯人が登場してから一変。
ひとがひとならぬものへと変貌していく強烈な不安感。ここからが、まさしくマーガレット・ミラーだ。

周到に伏線が張り巡らされているため、真相を一足先に見通すことも可能だろう。しかし、用意されているのは意外性だけではない。
すべての時間が停止するような結末。ここより先には何もない。パズルとスリルを止揚しながら、ミステリ的な問題を越えた異様なものが噴出する。

凄いな。唯一にして極上。

2015-08-29

The Isley Brothers / The RCA Victor & T-Neck Album Masters (1959-1983)


アイズリー・ブラザーズのボックスセット。内容は1959年の「Shout!」と、1969~83年の間にT-Neckから出されたアルバムが全部入り。ボーナス・トラックもトータルで80曲以上に及びますが、多くはシングル・ヴァージョン等のミックス違いかな。
23枚組です。にじゅうさん。多すぎて、あまりしっかりとは聴き切れないだろうに。買う前には、結構持っているのも多いしなあ、そういうのは聴かなくても既に聴いた気になってしまいがちなんだよなあ、と迷っていたのだが、全収録作品が新規リマスターされているということなので結局入手。ほんと、いいカモだよな。
実際にいくつか聴いてみたところ、音圧はほどほどに高いものの耳当たり良く、これはちゃんとしたマスタリングだぞ、うむ。



さて、本ボックスの目玉となっているのは「Wild In Woodstock」という、1980年のライヴ盤です。ライヴといっても彼らがずっとレコーディングに使用してきたベアズヴィル・スタジオで行なった演奏に歓声をかぶせた、ちょっと偽っぽいライヴ。制作はしたものの、レコード会社の却下にあってお蔵入りになっていました。後年、その収録曲のうちいくつかはボーナス・トラックなどの形で日の目を見ることになりましたが、今回のものは新たにミックスがやり直され、歓声も入っていません。
オープニングに「3+3」(1973年)からの "That Lady" を格好良く決めると、続いて当時の最新アルバム「Go All The Way」から3曲。その後もいわゆる「3+3」体制以降の曲が演奏されているのですが、「Go For Your Guns」からが一番多くて、逆にその前作である「Harvest For The World」の曲は無いというのが興味深い。
観客もいないスタジオ・ライヴなので、アルバム全体とするとメリハリに欠けるところがありますし、プロダクションも簡素なのですが、演奏のクリアさ、生々しさがそれを補っていると思います。特にファンク・ナンバーの迫力はなかなかのもの。スロウでは "Summer Breeze" が長尺になっているのがライヴならではか。



いやあ、やっぱりアイズリーはいいですな。急がず慌てず、一枚一枚ちゃんと聴いていこうと思います。


2015-08-26

エラリイ・クイーン「九尾の猫〔新訳版〕」


わが同胞Qよ、おまえはおしまいだ。あとは復活するしかない。〈猫〉を追うために。
つぎは何が起こるか。
おまえは何をするか。
どこを探すか。
どうやって探すか。

1949年に発表されたシリアル・キラーもの。物語が始まった時点ですでに5人が犠牲になっている。そして、被害者たちの間にはまるで接点が見当たらず、それゆえにニューヨーク中の誰が〈猫〉と呼ばれる犯人であってもおかしくはない。
通常のように限られた容疑者の動機と機会を捜査するという手順が踏めず、全くの手詰まりのまま被害者は増え続ける。


クイーンのファンにとってはとても面白い作品だ。こんな発想のミッシング・リンクはそうないだろう。また、エラリイがそれぞれ姉を失った二人の男女に下した最初の指令なども、いかにもクイーンらしい。
『災厄の町』以降の、探偵小説を通してアメリカ社会を描く、という面でも読み応えがある。さまざまな国から移住してきた被害者たちの家系が事細かに語られ、人種や文化が入り混じる場所であることが強調されているようだ。

一方で、謎解きの切れ味を期待すると、それほどではない。決定的な手掛かりにクイーン親子が行き当たるのは、偶然のきっかけによるものだ。
また、前作である『十日間の不思議』では真犯人の奸計にエラリイが陥ってしまったのだが、この『九尾の猫』における捩れは、そもそも初歩的な捜査上のミスによるものだ。
さらにいうと、事件解決のためだけなら、わざわざエラリイは飛行機に乗ってウィーンまで行く必要はなかったはずだ。探偵のアイデンティティを危機にさらすことに目的があるように見えてしまう。
もっともこんなことが気になるのは、僕がこの作品を何度も読んでいて、素直に楽しめなくなっているからであって。時代を反映して作風を変容させながらも、クイーンはパズルから逃げなかった。『九尾の猫』はその偉大でいびつなひとつの達成だ。


作者クイーンとしてのテンションの高さ、それが今回読み直して一番の魅力だった。
たとえば路地裏の逮捕劇――。

またひとつ星が出た。
まわりの建物の裏窓はどれも煌々と明るく、あけ放たれていた。ずいぶんにぎやかだ。いくつもの頭と肩がそこにある。特等席だ。そう、闘技場。闘犬場。お楽しみ。見ることはけっしてかなわなくても、見たいと望むのはかまうまい? ニューヨークでは、だれの目にもそうした望みが宿っている。劣化していく古い建物。歩道の掘削。口をあけたマンホール。交通事故。どうした? 何があった? だれがやられた? ギャングか? あっちで何をやってる?
たいしたことではない。