2016-06-19
コードウェイナー・スミス「アルファ・ラルファ大通り」
人類補完機構全短編、その第二巻です。
第一巻である『スキャナーに生きがいはない』には15編が収録されていたのに対し、こちらは7編とやや長めのものが多いかな。今回、初訳となる作品はありません。
ただし、『スキャナー~』には初期の習作やスミスの死後に夫人が完成させたものもあったのに対して、こちらは1961~66年に発表された短編で固められていて、その密度の高さはただごとではありません。ひとつとして落ちるものは無い、と思います。
中では「クラウン・タウンの貴婦人」が、一番分量が多くて読み応えがあります。古典的な物語の枠組みを利用しながら、臆面もないドラマを盛り上げていく。とても残酷であり、そして強い感情的な高まりを呼び起こす作品だ。
また、「ショイヨルという名の星」では『スキャナー~』に収録されていた「スズダル中佐の犯罪と栄光」のスズタルが再登場。作品内の時代では「スズタル中佐の~」のほうが3000年ほど先行しているようだけれど、実際に発表されたのはこの「ショイヨル~」のほうが先なのだな。
この作品集での年代としては長編『ノーストリリア』のそれをまたいでいるので、久しぶりに『ノーストリリア』も読み返そうかな。
さて、最終巻にあたる『三惑星の探求』はいつ出るかわからないけれど、これまで未訳であったものも収録されるので、気長に待ちたいですな。
2016-06-14
The Kinks / Everybody's In Show-Biz
「Everybody's In Show-Biz」(1972年)のレガシー・エディションが出ました。ディスク1はオリジナルを2in1で収録、ディスク2は未発表のものなどで固められています。
キンクスのRCA~Arista時代のカタログはVelvelから出たSACDハイブリッド盤で揃えていたのですが、「Everybody's In Show-Biz」についてはボーナストラックが入った代わりに本編が微妙に削られてしまっていました。
そういうこともあって、待望のリイシューです。
といっても正直、この作品にはどうも中途半端という印象があるのです。
アナログ1枚目に当たるスタジオ録音は後の演劇的なものへの過渡期といった感じ。収録曲では "Sitting In My Hotel" と "Celluloid Heroes" のふたつのスロウが抜きん出ていい。また、管楽器の使い方など意外にカラフルなところが見られるし、カントリーやR&Bに加えて "Supersonic Rocket Ship” のカリプソ風味などバラエティには富んでいる。"Hot Potatoes" やデイヴ作の " You Don't Know My Name" はロニー・レイン&スリム・チャンスのような味わいがある。その一方で、わかりやすいポップソングが見当たらず、全体としてとらえるとやや地味なのは否めない。
さらに、2枚目のライヴがいまひとつなのだな。編集にはぶつ切りのところが多く、雰囲気が持続しないようで、あまり気持ちよくない。ライヴ盤というより、既存曲を新たなアレンジで聴かせて、当時のキンクスの方向性をはっきり示すという趣旨だったのもしれないが。
今回のディスク2には13曲のライヴと未発表トラック4曲が収録されています。
ライヴのほうはオリジナルに収録されたものの前日の演奏なのですが、今まで抱えていた不満がかなり解消された思いです。ミックスは分離よく聴きやすいし、曲間のつなぎも自然で、ひとつのショウとしての流れを楽しめるものになっていますよ。
一方、スタジオ録音の中では未発表曲の「History」がなかなかの佳曲で、あまりいじりまわしていないアレンジもいい塩梅でありますね。
2016-06-08
The Move / Something Else From The Move
1968年のライヴ盤、英Esotericからのリイシューです。
元々は5曲入りのEPで、ミックスはモノラルでした。当時の技術的な問題からか、録音されたボーカルの音量が安定しておらず、曲によってはスタジオで歌い直されたそう。
2008年に出たボックスセットではこのときの録音から新たに12曲がステレオ・ミックスで収録され、差し替えがあったボーカルパートも元のものに戻されました。
今回リリースされたのはボックスセットで登場したステレオ12曲に、オリジナルEP全曲を加えたものであって、初登場となる音源はありません。ですが、EPからの曲はオリジナル・モノラル・マスターからの新規リマスターとなっています。
改めて聴いてみて、音質は置いて、この時代のライヴ録音としてはバランスがいいほうだとは思いました。
ファンクラブ向けのニューズレター 「ムーヴのライヴレコーディングに参加してみないかい?」 |
さて、ここに収められたライヴはファースト・アルバムのリリース前後に行われたもので、曲のアレンジにはサイケ・ポップ風なところが濃いけれど、演奏のほうは結構ワイルド。ロイ・ウッドのギターはワウ踏みまくりだ。複雑な構成を持つ曲であっても、ひたすらにぶっ飛ばしていく展開が痛快です。スタジオ録音ではヘヴィな面を見せても、これほどまでに荒々しさや勢いを感じさせることは無かった。
あえて近いものというと、ザ・フーになるかな。
2016-06-04
アガサ・クリスティー「複数の時計」
ある教師の家に派遣されてきたタイピストのシェイラ。依頼者が留守であることから、彼女は居間で待っていることにした。時刻の合っていない時計がいくつも置かれているその部屋で、やがて彼女は恐ろしいものを発見してしまう……。
1963年に発表されたエルキュール・ポアロもの長編。ポアロが登場するのは物語が半ばになってからで、それ以後も出てくる場面は余り多くなく、安楽椅子探偵といった役割です。中心になって描かれているのは諜報部に属する青年と警官の捜査で、そのせいでスリラー味が強く感じられます。
この作品、はじめのうちは凄く面白いのです。語りはいきいきとしているし、不可解な事件がつるべ打ちであって、ミステリとしての引きは充分以上。
また、いったん片付いたと思われた事案が崩れ、その後に新たな事件が起こるという展開も良いです。
しかし、最後まで読むと、やはり歳をとってからのクリスティは、作品を細部まで作りこむことができなくなっていたのだなあ、と思ってしまった。
犯人の推理をすることは読者にとっても可能なのだけれど、それ以外の部分があまりに手掛かりに乏しい。ある古典的な大技を使っているのだが、あまりに雑なやり方であって、ちょっとあきれてしまった。
物語結末でのツイストは時代に対応しているようで、悪くないとは思うのだけれど。
大風呂敷を広げて、解決は平均未満という感じでした。
ポアロを出さないでおけば謎解きにそれほど期待せずに、これでも納得したかも。
2016-06-02
The Independents / Just As Long: The Complete Wand Recordings 1972-74
シカゴのボーカル・グループ、インディペンデンツがSepter傘下のWandに残した音源のコンプリート集。英Aceからのリリースです。
収録曲のうちに未発表だったものはないのだけれど、彼らのセカンド・アルバムはこれまでリイシューされていなかったこともあって、シングル・オンリーのものも加えてまとめられたのは喜ばしい。
インディペンデンツというグループはソングライター・チームであるチャック・ジャクソンとマーヴィン・ヤンシーが中心になって結成されました。ライナーノーツによれば、ライヴ活動を好まなかったヤンシーは最初のシングルがヒットしたあと、表面的にはグループから脱退したのですが、レコーディングには引き続き参加していたそうであります。
力のあるボーカルにしっかりしたコーラス。メロディは'60年代っぽいテイストが強くて好みなのだけれど、あれ、これどこかで聴いたことのあるぞ、みたいなものもちらほら。それらのひとつひとつをとってみると、突出した個性を感じさせるものではありません。しかし、とてもバランスがいいのですね。メロウなサウンドを背景にして、よく映えている。
アレンジはトムトム84が担当していて、シカゴ・ソウルにややデトロイトっぽいニュアンスを加えたものといえましょうか。鍵盤の利かせ方が洒落ています。
曲調としてはスロウが多いのだけれど、風通しがよくって、続けて聴いていても飽きがこない。
彼らの出したシングルの多くはR&Bチャートで上位に入っていて、そこそこは売れていたのですね。しかし、レコード会社の資金繰りがうまくいかなかったせいで解散してしまったよう。
ところで、彼らの曲のうちいくつかの作曲者は「Maurice Barge - Jimmie Jiles」になっているのですが、このクレジットを他では見ないことから、ライナーノーツではそれらもジャクソンとヤンシーが書いた曲だ、と断言しています。実際どうなのでしょうかね。
2016-05-18
クリスチアナ・ブランド「ハイヒールの死」
1941年に発表された、クリスチアナ・ブランドのデビュー作です。
ときどき、とてもオーソドックスなスタイルで書かれたパズラーを読みたくなる。で、過去に二度ほど読んでいるはずなのに、そのわりにはあまり内容は覚えていない、この作品を久しぶりに手に取ってみたのだけれど。
ユーモラスで軽妙なテイストが強調されていますが、いやあ、読みにくい。
扱われているのは女性ばかりの職場で起こった毒殺事件。しかし、この女性たちは属性の似た人物が多くて、ある程度のところまで読み進めていかないとなかなか区別がついてこない。
また、誰に毒を投入する機会があったかというのが当然、問題になるわけですが、現場の人の出入りが多い上に、建物の構造は読んでいてもわかりにくい。
主人公であるチャールズワース警部は若く、思い込みの激しいキャラクターです。物語途中での推論は穴だらけで非常に頼りないのだが、紆余曲折の末に、最終的には鋭いところを見せてくれます。
ただ、真相に気付くきっかけとなるものは説得力が弱いし、パズラーとして見ると、この手掛かりの出し方はだめじゃん、というものも。
登場人物たちの精神的な暗部が垣間見えるところや、終盤になって容疑者がくるくると入れ替わる趣向などはブランドらしいといえますが、それらも後年ほどの切れはまだありません。
面白い伏線もあって個人的には楽しく読んだけれど、この作者のものとしては落ちる出来かな。
2016-05-07
The Move / Shazam
ムーヴのセカンド、「Shazam」(1970年)はあまり好きなアルバムではなかったのだ。1曲1曲がやけに長ったらしいし、サウンドは重たくて抜けが悪く感じる。前作での収録曲を再録音していることや、全体の半分がカバー曲というのも、いかにもマテリアル不足であったことを示しているようだ。
久しぶりに聴き返しても、3曲目以降がやっぱり長い。だれてくる。しかし、どの曲にも部分部分をとれば凄くいいところがあるのに気付いた。アレンジそのものは繊細だし、"Fields Of People" なども歌のある部分だけ聴いていれば素晴らしいんだけど。
その「Shazam」、今回のEsotericからのリイシューは2枚組になりました。ディスク1はアルバム本編+その他という構成で、初登場となる音源はありません。前回のSalvo版との比較で言うと4曲増えていますが、"A Certain Something" のステレオ・ミックスと "Blackberry Way" の疑似ステレオが外され、代わりにそれぞれの曲のモノラル・シングル・ヴァージョンが収録されています。
マスタリングはファースト・アルバム同様、Salvo版ほどやり過ぎず、いじり過ぎずといった感じでおおむね満足なのだけれど、"Beautiful Daughter" (アルバム中、この曲がいちばんいいと思う)の左右チャンネルが従来と逆になっているのが気になる。
ディスク2はアルバムのアウトテイクが2曲と、BBCセッションがなんと23トラック。そして、このうちの半分以上が今回オフィシャルとしては初登場になるものです。
で、そのBBCセッションを聴いていて気付いたのだが、当時の米国のヒット曲を結構カバーしているのですね。'60年代の英国でもそれなりのセンスのあるグループは、カバー曲を演るにしてもシングルB面とか、ちょっと目立たないけど良い曲を掘り起こしてくるところがあったと思うのだけど。ムーヴは "California Girls" や "Sound Of Silence" のような超有名曲を堂々と取り上げていて。このあたり、米国をツアーするにあたり、そういった曲もレパートリーにしていかないとならなかった、ということなのかな。
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