2017-08-27

The Rolling Stones / It's Only Rock 'n Roll


1974年、ミック・テイラーが最後に参加した作品。
なかなか印象がはっきりしないアルバムで。アナログではA面ばかり聴いていました。

オープナーである "If You Can't Rock Me" の迫力はただごとではない。つっかかっていくようなグルーヴが独特で、ライヴ演奏ではこれが再現できないようだ。間奏のチェンジ・オブ・ペース(キース・リチャーズによるベース・ソロが実にセンスいい)は決まっているし、エンディング部分におけるボーカルの入り方も最高。初めて聴いた高校生のときから今に至るまでずっとフェバリットの一曲だ。
テンプスのカバー "Ain't Too Proud To Beg" はこの時代に普通にモータウンのヒット曲を演ってしまう、というのがまたいいじゃないですか。初期のソウル曲カバーと違い、余裕が感じられ、なおかつしっかりとオリジナリティが感じられる仕上がり。この間奏も気が利いているよね。
で、タイトル曲である、"It's Only Rock 'n Roll (But I Like It)"。ちょっとダルな雰囲気とサビでのテンションの対比が格好いい。これもライヴ演奏だと平坦に流れていってしまうのだな。アコースティック・ギターの使用が絶妙に効いていますが、ちょっといつもと違う乗りはドラムがケニー・ジョーンズだからかも。
続く "Till the Next Goodbye" はいかにも'70年代のアルバム曲、といったスロウ。ややカントリー入った雰囲気は、強烈な曲に挟まれると印象に残りにくいのは仕方がないか。
A面最後の"Time Waits For No One" はパーカッションも効果的な、ラテン色のあるスロウですが、やはりこの曲はミック・テイラーのソロですね。流麗でどこまでも伸びていくようなタッチが素晴らしい。

アナログB面にあたる後半は、ひとつひとつは悪くないけれど強力なものもないという感じ。なんだか落ち着いてしまっているのな。
アルバム最後の "Fingerprint File" はスライ&ザ・ファミリー・ストーンを下敷きにしたようなエレクトリック・ファンクで、良く動くベースはおそらくミック・テイラーによるもの。あまり、らしくないという気もして、この曲は好みが分かれるかも。テープスピードを上げているせいで、ボーカルもちょっとおかしな感じがする(DSDマスターの日本盤ではピッチが修正されています)。

やはり通して聴くとちょっと落ちてしまうな。3曲目までの勢いが凄いので捨て難いアルバムではありますが。

2017-08-17

コードウェイナー・スミス「三惑星の探求」


〈人類補完機構全短編〉、その三巻目にして完結編。前巻から一年以上かかりましたが、無事に出たので良かった。

最初の四作品はキャッシャー・オニールというキャラクターが登場する連作で、これらだけでペーパーバック化されていたもの。オニールは砂の惑星、ミッザーにおける元支配者の甥であったが、革命により追放の憂き目にあっていたという設定。
「宝石の惑星」 ミッザーの専制政権を打破するための物質的支援を求めるべく裕福な星、ポントッピダンを訪れたキャッシャー・オニールが、その地で起こっていた問題の解決を持ちかけられる。とても古典的なプロットだ。キャラクターからなにから典型的なスミス作品という感じ。
「嵐の惑星」 160ページ余りの中編で本書の中では一番ボリュームがある。すさまじい竜巻が吹き荒れる異世界が迫力を持って描かれる前半から、超常能力による戦い、そして人間性を復活させる物語へと展開。ひとつ、とても魅力的なアイディアがあるのだが、あえて膨らませることなく使われているのがもったいないような。濃厚なイメージが後を引く力作です。
「砂の惑星」 ミッザーへ戻ってきたキャッシャー・オニールは超人と化していた。やすやすと目的を果たしてしまったオニールは、次に聖なるものを求める旅を始める、というお話。宗教的な要素が強く、読んでいても正直あまりピンとこなかった。
「三人、約束の星へ」 この作品でのキャッシャー・オニールは脇役である。中心になる三人は宇宙船、各辺五十メートルの立方体、そして二百メートルある鋼鉄製の人間だ。彼らは遠い昔には普通の人間であり、今は人類に敵対する存在に対抗するために宇宙空間を飛び続けている。魅力的なキャラクターもさることながら、物語後半の急展開がなかなかに凄い。
これら四作品は作者が歳を重ねてから書かれたせいか、これより前の作品と比べると語りにおけるけれん味が控えめな感じを受けました。濃ゆい中身は紛れも無いコードウェイナー・スミスのものでありますが。

「太陽なき海に沈む」 コードウェイナー・スミスの奥さんであるジュヌヴィーヴが夫の死後に単独で書いた作品。読んでいてもあまり違和感がない、スミスの世界になっています。どこか中世の国を思わせるような惑星で繰り広げられる、醜悪な陰謀とそれを阻止しようとする物語だが、展開は少々あっけない。そして巨大猫のグリゼルダがかわいい。

あとは〈人類補完機構〉ものではない作品が六つ入っていて、すべて既読かな。
中では「西洋科学はすばらしい」の軽妙な語り、「達磨大師の横笛」「アンガーヘルム」の放り出すような結末が印象に残るものでした。

2017-08-16

Dusty Springfield / A Brand New Me: The Complete Philadelphia Sessions


ダスティ・スプリングフィールドのフィラデルフィア録音集、米Real Gone Musicからリリース。ダスティ・ミーツ・ギャンブル&ハフであるこれらの曲、今回のリイシューでは全曲が新たに8トラックからミックスし直されたという点が大きいです。

収録曲のうち10曲目までがアルバム「A Brand New Me」(1970年)から。ただし、曲順はオリジナルとは全然違うものになっています。
リミックスの成果ですが、音質は非常に良くなっていますし、全体に曲のエンディングが長くなりました。その一方でバランスをいじったことでサウンドの質感が少し変わっています。ソウルっぽい臭みや、初期フィリーらしさは薄れたように思うし、迫力を増している分、繊細さも損なわれているのではないかしら。ボーカルがとても生々しく聴こえるようになり、ポップスとしてはより明快なものになったのですが、う~ん。オリジナル・ミックスとどちらが優れているか、という話ではないのだけれど、旧いライノ盤のCDも大事に置いておいたほうがいいか。
いずれにせよ、いい曲、いい歌唱揃いのアルバムではあります。


残り7曲はアルバムリリース後である'70年2月の録音で、殆どがボーナストラックなどのかたちでこれまで発表されてきたものですが、初登場の曲もひとつあります。
制作当時にはリリースされなかったこれらも、アルバム本編と比して見劣りするとは感じません。全てトム・ベルがアレンジを手掛けていて、通して聴いていて統一感があるのもいい。未発表であった "Sweet Charlie" は落ち着いた調子の曲ですが、これもしっかりと作られたものです。

ダスティ・スプリングフィールドは英本国においては(クレジットはされていないものの)共同プロデューサーとしてレコード制作をしていたのに、米国では出来上がってきたオケに歌を乗せるだけで、かなりストレスを感じていたそうだ。特に、アルバム「A Brand New Me」では選曲に関わることもなく(作曲はすべてケニー・ギャンブルが関わったもの)、曲を覚えてすぐに歌入れという仕事であったよう。しかし、考えようでは非常にプロフェッショナルなアルバム作りであったともいえるのではないかな、プロデュースは一切こちらにまかせときなさい、というのは。もう少しシンガーとしての自分に自信を持てていたら、米国での活動も違ったものになっていたかもしれないな、なんてことを思いました。

2017-08-06

Laura Nyro / A Little Magic, A Little Kindness: The Complete Mono Albums Collection


ローラ・ニーロの初期作品をモノラル・ミックスで収録した2CD、米Real Gone Musicからのリリース。マスタリングはヴィク・アネシーニが担当。

ディスク1に入っているのはヴァーヴからのデビュー・アルバム「More Than A New Discovery」(1967年)と "Stoney End" のシングル・ヴァージョン(アルバムとは歌詞が異なるもので、初CD化)。
この「More Than~」、これまでは「The First Songs」と改題して出し直されたステレオ盤がリイシューされていましたが、その「The First Songs」では曲順だけでなくミックスもオリジナル・ステレオとは異なっており、特に "Wedding Bell Blues" ではエコーがやたら深くかけられ、"Stoney End" においては音が歪んでしまっていました。
今まで、オリジナルの「More Than~」に使用されていたモノラルおよびステレオ・マスターはもう残っていないと思われていたのですが、入念にリサーチをやり直した末にモノラルのマスターテープが発見されたということです。
実際に聴いてみると、これはナチュラルな気持ちいい音。マスターがあまり使われていなかったからか、アネシーニによるマスタリングのおかげか、クリアでなおかつ聴き疲れしない。素晴らしい仕事です。



ディスク2はコロンビアに移ってからのアルバム「Eli And The Thirteenth Confession」(1968年)に、"Eli’s Comin’" のシングルエディットと "Save The Country" のシングル・ヴァージョン(「New York Tendaberry」のものとはまるっきり別アレンジ)を収録。
「Eli~」のモノラルはラジオプロモ向けに作成され、一般には出回らなかったもの。これもマスターテープをソースにしたということですが、ミックスそのものはステレオからのフォールド・ダウンなんですね。しかし、そう教えてもらわなければなかなか気付き難いだろうバランスのとれたミックスに(結果として)なっています。音質もいい。
きらびやかさならステレオ・ミックスのほうに分がありますが、このまとまりの感じられるサウンドも捨てがたい。ステレオ盤を聴いてやかましい女だな、と思ったひとにはこっちのがいいかも。



厚めのブックレットは非常に情報量が多いもの。新たにチャーリー・カレロやボーンズ・ハウにインタヴューしていて、とても読みでがあります。これによれば、Verveからのデビューに際してチャーリー・カレロも呼ばれてローラ・ニーロに会い、その歌も聴いていたのだが、カレロのスケジュールが開いていなかったのでそのときは共に仕事をするには至らなかったそうだ。それで、カレロと同様にフォー・シーズンズを手掛けていたハーブ・バーンスタインが担当することになったわけだと。
また、「Eli~」のリズムセクションとボーカルはスタジオライヴ形式で録音したが、ときにはボーカルの差し換えがあったとも認めています。

ともあれ聴いていて、惚れ直したというか、やっぱりいいな、と思いました。ポップソング、ソウル、ジャズが混じり合いながら、他の誰にも似ていない音楽。"Eli's Comin" のただ事ではない性急さはいつ聴いてもぞくぞくする。
まあ、「More Than A New Discovery」のモノラルだけでも充分に価値のあるリイシューじゃないすかね。

2017-07-31

青崎有吾「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」


高校二年生の裏染天馬が活躍するミステリ短編集。

「もう一色選べる丼」 食堂の裏側に放置されていたほぼ食べ終わっている丼が乗ったトレイ。一体誰が、そして何故返却しなかったのか。
物証からのシャーロック・ホームズ風プロファイリングを基点にして、有り得た状況を推測していくというもの。設問のハードルが相当に高い分、推理には無理があるというか、そこまでの根拠はないだろう、という気はします。発想は面白いし、話の落としどころもとてもいいと思うのですが。

「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」 神社で開かれている夏祭り、そこに出ている夜店の多くは何故かお釣りを百円玉ではなくて五十円玉で支払っていた。
脇になる謎は割と見当が付きやすい。その一方でメインとなる五十円玉のホワイは説明されてもあまりピンとこなかった。ロジックによる飛躍ではなくて、思いつきが飛躍しているように思える。あと、物語やキャラクターに対して無理やりに陰影を付けようとしているようで、収まりが悪く感じました。

「針宮理恵子のサードインパクト」 ブラバンの一年生はなぜ、練習場にしている教室から締め出されるのか。
やや小粒ながら、意外な気付きからの解決の流れには淀みがない。状況の反転も決まっていて、作品としてのまとまりもいい。アンソロジーとかに採られるのはこういうのだろうな。

「天使たちの残暑見舞い」 廊下から戸口を監視された状態で、教室内にいた二人の少女が消失。
盲点を突いた真相が見所なのかもしれないけれど、う~ん。こういう種類のアイディアならかちっとした謎解きとして構成するより、もっとあっさり処理したほうが良かったのでは。情景の意味が変化するところなどはセンスが光ります。

「その花瓶にご注意を」 廊下に飾られていた花瓶を割ったのは誰か? 
裏染天馬の妹、鏡華が探偵役を務める、いわばスピンオフですが、ミステリとして手堅く作られています。犯人は早い段階で明らかになるものの、状況証拠しかないので当人は白を切り続ける。それをいかに追い詰めるか。証拠の出し方には例によって都合の良さを感じますが、演繹的な推理が予想外な場所へ導いていくという見せ方は好みです。

長編と同じようなロジックによるスリルを期待すると、ちょっと違いますね。意外性の配慮は嬉しいですし、気軽にさくさく読めるので、こういう行き方もありですか。

2017-07-30

The Beach Boys / 1967: Sunshine Tomorrow


1967年のビーチ・ボーイズにフォーカスした2CD。タイトルの「Sunshine Tomorrow」は "Let The Wind Blow" の歌詞にあるフレーズです。


ディスク1はアルバム「Wild Honey」を中心にしたもの。
〈Wild Honey Stereo〉は新たに作成されたステレオ・ミックス。このアルバムはあまり音数がないので、分離を良くしても仕方がないと思っていたのだけれど、楽器やコーラスのディテイルがなかなか新鮮で、何度も繰り返し聴いております。"I'd Love Just Once To See You" の抜けの良さが気持ちいい。一方で、音質の向上は期待していたほどではなかったです。奥行きに乏しい音像といい、元々の録音のせいなのだろうな。
続いては〈Wild Honey Sessions〉が14トラック。「previously unreleased」とあるものの、ボーカルが入ったトラックに関してはボックスセットやコンピレイションなどで小出しになっていたもののミックスや編集違いが殆どで、もう驚くようなものは残っていないのだとは思う。ただ、今では入手し難いものもあるので、こうやってひとところにまとめられたのはいいかと。一方で、バッキング・トラック・セッションでは初めて聴くものが多く、中でも "Darlin'" のそれは進行の過程が興味深い。また、未発表曲のものもありますが、断片的で喰い足りない。
〈Wild Honey Live 1967 - 1970〉は「Wild Honey」収録曲のライヴヴァージョンが5曲。録音バランスがあまり良くないのが残念。
最後は "Mama Says" のボーカルセッションの模様で、試行錯誤の様子が伝わってきます。


ディスク2の始めは(時系列でいくとこちらのほうが「Wild Honey」より先ですが)〈Smiley Smile Sessions〉より10トラック。成立過程からして、純粋にアルバム「Smiley Smile」のためのセッションというのは、量があまり無いのだろうな。それはともかく、「Smiley Smile」本編に漂う密室性というか、わけのわからない感じは薄いですね。リラックスしていて、けれど美しい音楽で、これは嬉しい驚き。
続いてはブートレグにもなっている未発表アルバム〈Lei'd In Hawaii "Live" Album〉の音源が14トラック。ライヴ盤制作のために録音されたハワイでのコンサートが充分なクオリティにないと判断され、スタジオでの演奏に歓声を被せた疑似ライヴ盤を作ろうとしていたのだけれど、結局は没になったという代物。それもさもありなん、恐ろしくゆっるゆるの演奏・歌唱であります。ボックス・トップス、マインドベンダーズのヒット曲や、ビートルズの "With A Little Help From My Friends" なども取り上げているのですが、そこにビーチ・ボーイズらしいセンスが付け加えられているとも感じられないなあ。
そして、〈Live In Hawaii, August 1967〉は実際にハワイで行われたライヴ録音から5曲。このときはブライアン・ウィルソンが鍵盤で参加していて、ブルース・ジョンストンが不在。ドライヴ感のないよれよれの演奏はリアルですね。曲としては "Gettin' Hungry" のライヴというのが珍しいか。
そして〈Thanksgiving Tour 1967〉は11月のライヴ演奏が3曲。このときにはサポートメンバーが追加されているせいか、ぐっと余裕のあるものになっています。
最後はスタジオ録音ふたつ。"Surf's Up" は「Wild Honey」期のセッションから。既出のものより前半部分が長くなっているのが嬉しいところ。そして、"Surfer Girl" は前出「Lei'd In Hawaii」での録音をアカペラにミックスしたものです。


玉石混交というか、統一感には乏しいセットではあります。'60年代におけるビーチ・ボーイズのライヴ演奏に興味がないひとには少々きついかもしれません。まあ、買う人はどっちみち買うんだろうけれど。

2017-07-20

Listen To Me: Soft Rock Nuggets Vol.4


ソフト・ロック・ナゲッツ、4枚目は英国産の音源を中心にしたもの。タイトルになっている "Listen To Me" はホリーズのあの曲です。ほかにもハーマンズ・ハーミッツの "No Milk Today" やトレメローズの "Silence Is Golden" などあって、ふうむ、弾が足りないのか? と思ってしまうのだが、それならアイルランドのフレッシュメンとか入れて欲しいな。なお、ブリティッシュ・ビート系でいくと、スウィンギング・ブルー・ジーンズの曲もあります。
一曲目に置かれているのはアイヴィー・リーグの "That's Why I'm Crying"。英国ポップにおいてファルセット・リードのコーラススタイルをいち早く打ち出したのが彼らではないでしょうか。そういったスピリットがみなぎっているように感じる曲です。

全体のざっくりした印象としては、米国ものと比べるとミドル・オブ・ザ・ロード寄りですね。サンシャイン・ポップじゃなくって、英国らしいくすんだ曇り空。トニー・マコウリィですから、と言ってしまえばそれまでだが、管弦の響きの違いが大きいかと。
初CD化のものはおそらく4曲、いいのが揃っています。ダニー・ストリートというひとの "Every Day" はトム・スプリングフィールドが手掛けた瀟洒なボサノヴァで、変化球ですがコンピレイション中ではいいスパイスになっています。しかし、クリス&ピーター・アレン(これは米国制作だと思うが)はそろそろアルバムごとリイシューしていただけないかしら。

この盤での個人的なベストはモンタナズの "You've Got Be Loved" になるかな。トニー・ハッチのセンスはやはり、当時の英国における制作方の中ではひとつ抜けているように思う。もっともハッチの場合、米国録音の可能性もあるのだが、あまりはっきりしたデータを見たことがないのだなあ。