2020-06-13
Pigmalião 70 (original soundtrack)
1970年、ブラジルのTVドラマのサウンドトラック盤。
プロデューサーはネルソン・モッタというひとがクレジット(よく知らない)。アレンジには三人の名前があるのですが、アーロン・シャーヴスというひとがメインのよう。うちにある盤だとエリス・ヘジーナの麦わら帽のやつ、「Como & Porque」のオーケストラがこの方の仕事か。
全体に優雅で軽やか、メロウなアルバムだけれど、特に女声グループのスキャットで唄われるタイトル曲 "Pigmalião 70" ね、マルコス・ヴァーリの書いた、これがとにかく良いメロディ。細かいフレーズのギターと鍵盤の絡みが良く、パーカッションもばっちりはまった仕上がり。スキャットの妙な生々しさ、イントロとサビのみで出てくるストリングスの響きなどはブラジリアン・ポップスならではであります。まあ、アルバム中でもひとつ抜けていますね。
その他では、2パターン入っている "Tema De Cristina" という曲はヨーロピアンなオケが心地良く、特にスキャット(ユニゾンで入っているギターが効いている)で唄われるヴァージョンはイタリアのサントラものを思わせる軽薄な出来で、よろしいですな。
また、エグベルト・ジスモンチの "Pêndulo" はアルバムの雰囲気を守りながらも個性を感じさせる作り込みで、繊細かつドラマティックな曲に仕上がっています。
そういったソフトな感触の曲と対照的なのがヤングスターズなるグループによる "Tema De Kiko" で、ファンキーなオルガン・インスト。ドラムブレイクも決まっており、アルバム中では異色なのですが、ワイルドながらラウンジ感もあって、実に格好いいです。
う~ん、どうもサントラの良さを文章にするのは難しいね。
英米ものとは違う管の音色の処理なんかも気持ちいいアルバムです。
2020-06-06
Richard "Groove" Holmes / New Groove
オルガン奏者、リチャード・ホームズによるジャズ・ファンク盤。1974年、Groove Merchantからのリリース。
ドラムがバーナード・パーディ、なのでグルーヴはある程度は保証されたようなものなのだが、この盤ではドラムが左、ラテン・パーカッションが右チャンネルに配置。でもって、ベースラインはホームズ自身の左手によるもので、非常に太く、くっきりした存在を示していて格好いいです。これでゴリゴリ攻められるとちょっと胸焼けしそうだけれど、演奏時間がうまい具合にコンパクト。また、二本入っているギターのうちリードを取っている方がカラフルというかヴァーサタイル、それでいて押すときは押す、という物のわかったプレイでアルバム全体の風通しのよさに貢献しているよう。
全7曲中、3曲がホームズの自身の手になるもので、うちオープナーの "Red Onion" は重心低めのスロウ・ファンク。パーカッションが熱を煽りつつ、リズムギターがルーズな雰囲気を強調する。これがファンクとしてはアルバム中、一番の出来ではないかしら。なお、あとふたつのオリジナル曲は割合にオーセンティックなオルガン・ジャズであります。
カヴァー曲ではメロウな要素を意識しているのか、ジョビンの曲が "Meditation" と "How Insensitive" のふたつ取り上げられています。リズムは全然ボサノヴァではないもののパーカッションの働きでラテン風味は出ていますし、ある程度の瀟洒な味付けもなされています。
また、スティーヴィー・ワンダーの "You’ve Got It Bad" は都会的なテイストをたたえた仕上がりで、スタッフあたりのR&B寄りフュージョンを意識しているふしも。
そして、その "You’ve Got~" とともに時代への目配りが感じられるのが "No Trouble On The Mountain"。ギタリストのリオン・クックが書いたアルバム中で唯一の歌もので、ボーカルの線が細いことが、かえってニューソウル感につながっているかと。
編成はホーンも入っている、そこそこ大きいものだけれど、雰囲気はインティミット。各プレイヤーの持ち味をしっかり出しながらも全体にそこまでコテコテ感はなく、バラエティにも配慮されたいいアルバムです。
2020-05-16
小森収・編「短編ミステリの二百年1」
かつて江戸川乱歩は『世界短編傑作集』を編みましたが、本書は乱歩が扱わなかった種類のクライム・フィクションもひっくるめて短編ミステリの歴史を概観してみよう、という趣旨のアンソロジー&評論、その第一巻です。収録されている作品が全て新訳というのがいいですね。なお、タイトルに「二百年」とあるので19世紀前半から始まるのか、と思ったのだが、そこまでは遡りません。
本書全体の三分の一を占める評論は東京創元社のウェブサイトに毎月連載されていた「短編ミステリ読みかえ史」(現在はブログに移行されて「短編ミステリの二百年」として継続中)がベースになっています。
この一巻目のラインナップはちょっととっつきが良くないかも。ミステリ・プロパーといえそうなのがコーネル・ウールリッチくらいであって、他はジャンル外の書き手によるミステリ要素を含んだ作品ばかりなのだ。
その分、抜群の切れをもつものがいくつも読めます。ミステリのアイディア部分というのは、どうしても時代が経つと古びてしまうので、そこに寄りかかった作品で百年も昔のものとなると、面白く読むのはなかなかしんどい。
ここで選ばれている作品の多くは意外性だけに頼ったものではなく、結末に持っていくまでの語りや構成の巧さ、演出による驚きが感じられるものが多いです(中には、ちょっと長閑過ぎやしないか、というものもありますが)。
個人的に一番印象が強かったのはリング・ラードナーの「笑顔がいっぱい」かな。ミステリではないでしょうけど。解説ではいやいや、これは悪徳警官ものですよ、なんてありますが。そう考えるなら山口雅也あたりがアンソロジーに採ってもおかしくないか。すごく簡潔、なのにぐっときます。
それからウィリアム・フォークナーの「エミリーへの薔薇」は有名作品でゾンビーズの曲名にもなっています。結末に辿り着いたとき、それまでに描かれていた場面に隠れていた感情までが立ち昇ってくる、という効果が素晴らしい。
あと、最上のウールリッチ作品「さらばニューヨーク」は流石というか。ただひとり混じったパルプ・ライターならではの強烈な個性ですね。
この一冊に限っていえば、トリックや謎解きが主眼ではないミステリの面白さ、なので読む人は選ぶかもしれません。
2020-04-20
The Third Wave / Here And Now
ちょっと前にホルスト・ヤンコフスキーを聴いた流れで、次に「Snowflakes」というコンピレイションをずっと聴いていました。これは、ジャズ系のレコード会社であった独MPSのカタログ中よりイージーリスニング、ラウンジミュージック的な視点で編まれた二枚組です。内容がとてもよく、今から二十年余り前に出たものだけれど、未だに単体ではリイシューされてない盤からの曲も多く収録されています。
その「Snowflakes」の中で、あれ、こんな良かったけ、となったのがサード・ウェイヴ。昔、ソフトロックが持て囃されていた頃に話題に上っていたグループですが、こじんまりしているし、そこまでのものじゃないな、と思っていて。で、長いこと聴いていなかったのだけれど。
要はがっつりポップスのつもりでなければ良いのでした。
「SNOWFLAKES」、副題は"MOOD MUSIC MASTERPIECES FROM THE MPS ARCHIVES"。 ここから3分の1をピックアップした日本盤もあるよう。 |
サード・ウェイヴは十代の姉妹5人からなるボーカル・グループで、その唯一のアルバム「Here And Now」は1970年のリリース。アレンジはジョージ・デューク、演奏も彼のピアノ・トリオが中心になっています。このアルバムにおいてはベースギターでなく、ウッドベースが使われていることが結構大きいですね。
サウンド全体の質感は硬質というかクール。ブラスが入っていてもミックスにおいてはピアノのほうが強調されています。また、線の細い歌声も強化するような加工はあまりしていないように感じます。
アルバム全体としてはポップスとジャズボーカルの中途を行き来するような印象です。
収録曲では "Niki" がもっともコンテンポラリーなポップスに近いつくり。四分音符を刻む鍵盤など、いかにもサンシャインポップという華やかなアレンジが施されています(それでもベースの存在感が強いですが)。
ふたつあるビートルズ・カバーはちょい凝ったコーラス・アレンジもあって、フリー・デザインを思わせるところも。また、"Don't Ever Go" はアコースティック・ギターを生かしたラウンジ風のスローですが、これなどはA&Mレコード的。
それらの一方で、スキャットのみで歌われる曲や、古いミュージカル曲をフォービートで手堅く仕上げたものもあります。
でもって、個人的なベストは変拍子、スキャットコーラスを絡めた "Waves Lament"。木琴、フルート、ブラスのアレンジいずれも良いのだが、これがポップソングとして優れているのか、というと多分違うのよ。
やっぱりフォー・イージーリスニング・プレジャー、ということですね。もしくはモンド・ミュージック。
2020-04-12
フィリップ・K・ディック「タイタンのゲームプレーヤー」
1963年長編の新訳。旧訳で読んでいるはずなのだが、本当に丸っきり覚えてない。だったら新鮮に読めそうなものだが、そうでもなかった。
設定はディストピアものであります。地球はとうの昔にタイタンとの戦いに破れ、その管理化に置かれている(ように読める)。自らの軍事兵器のせいで出生率は壊滅的に落ち込んでいたが、一方で老化を防ぐすべも発見されていた。いずれにせよ、種族としての活力は失われている。
で、殺人事件が起こるのだが、その間の記憶が主人公からは失われていた。
脂の乗っていた時期の作品だけあって、アイディアは豊富だし、予想もつかない展開はスピード感あるものだ。面白いことには間違いない。途中までは。
物語半ばになって、真のテーマが現れ始める。しかし、その接続がうまくない。唐突かつ継ぎはぎ感も強く、辻褄の合わないところが出てくるし、登場人物たちの行動の動機が理解できなくなってくる。そもそも、この組織は何故戦う必要があるのか? とかね、読んでいてもピンとこないのだなあ。ドラマツルギーを成立させるための戦いといった感じで。
ペーパーバックSFというのはこんなものなのか。幕切れも非定型を狙った定型、という印象です。
奇想天外なお話といっても、それなりに説得力というのは必要なのだと再認識した次第。ディックらしさ、だけは横溢していますので、その感触は存分に楽しめましたけれど。この作品はちょっと無茶。
2020-03-10
マーガレット・ミラー「鉄の門」
ミラーの初期(1945年)長編の新訳。ハヤカワ文庫で読んでいるはずだが、大昔のことなので内容は完全に忘れていました。
さて、初期とはいったものの、既にして恐ろしく周到に組み立てられた作品であります。
不安な心理を持つ女性が物語の中心にいるのだけれど、三部構成のそれぞれにおいて、その彼女が全く別の属性で登場する。これが抜群に巧い。それとともにミステリの性質そのものが丸っきり違っているのだ。書き方こそ後の時代にニューロティック・スリラーと呼ばれるものだけれど、ずっと謎に対する意識が強い。
殺人事件をめぐるフーダニットではあるけれど、もっと大きな秘密があるのでは、という興味があって。充分な手掛かりをこちらに与えないままでありながら、ぐいぐいと引っ張っていく。その中で、ジャンル読者のぼんやりとした予想を断ち切る展開、何食わぬ顔のまま爆弾を放り込むタイミング、もう一切の弛みがない。
さらには妄想と現実的なやりとりが間断なく流れるうちに、ばんばんと伏線を投げ入れる。その手つきは(後から見返してみると)あまりに大胆。
ファンタスティックな領域にまで片足を突っ込みながら、綺麗な形に収拾する結末はあまりに見事であります。
心理的な部分に整合性を求める向きには納得行かない部分もあるかもしれないが、個人的にはそのことが些細に思えるほどにオリジナルな創意が優れたミステリでありました。や、凄いねミラーは。
2020-03-03
Horst Jankowski / For Nightpeople Only
2009年に出た24曲入りの編集盤で、中身は独MPSよりリリースされたアルバム「For Nightpeople Only」(1970年)に曲をいっぱい足したものです。
ライナーノーツのクレジットはいまひとつ信用ならなくて、この盤のトラック1~13が「For Nightpeople Only」からとあるのだけれど、実際のアルバムは10曲入りで(記載のレコード番号も間違っているみたい)、そのサイドAに当たるのが1、2、3、4、8、B面が10、9、5、13、7らしい。トラック6、11、12は1972年のアルバム「Follow Me」収録曲のよう。
こんな、他人からすればどうでもよさそうなことを調べるのは、アルバムの曲順にはちゃんと意図や意味がある、とわたしは考えているからなのだ。できればオリジナルなものをいじって欲しくない。もっとも現代においては、大抵のひとはそんな聴き方はしていないのかもしれない。
まあ、ええんやけどさ。
「For Nightpeople Only」は英米のヒット曲のドイツ語カバーとヤンコフスキーによるオリジナル曲が半々、カラフルなアレンジと混声コーラスがとても楽しいイージーリスニング盤。ゆったりしたテンポのものでも控えめに配されたパーカッションが効いていて、仕上がりは軽やか。
ドアーズの "Light My Fire" が陰影に富んだイントロからラウンジ調の本編への展開が無理なく決まっていて、素晴らしいですね。この曲やビートルズの "Fool On The Hill" では深く響くベースラインが印象的で、ジャジーなセンスが見え隠れするのも洒落ています。
でもってアルバム中のベストは、オリジナルの "Das ist der Morgen"。感触の近いものを挙げるとすればワルター・ライム・プロジェクトか。叙情を湛えながら緊張感ある展開が格好良く、クール目のサンシャインポップとして非常に良い出来です。
残りの11曲は1968、69年のもの。基本的な線は変わらないものの、もっとコンテンポラリーな感じを受けます。時期的に前になるせいか編成を大きく聞かせるものが多いか。「For Nightpeople Only」の曲の方がややリズムに意識があるかな、と。
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