2011-07-02

本格ミステリ作家クラブ 選・編「ベスト本格ミステリ2011」


本格ミステリ作家クラブによる年間選集が今年も出ました。タイトルに「ベスト」と謳われるようになってます。
若い作家が増えてるのはいいことですな。

有栖川有栖「ロジカル・デスゲーム」・・・単なる論理クイズになりかねないネタをサスペンスフルなドラマとしてきちんと料理できるのは流石。本格ミステリの形式としても実は冒険なのでは。

市井豊「からくりツィスカの余命」・・・作中作のあまり見たことの無いようなヘンな使い方。こんなのもメタ物に入るのかなあ。それにしても、この作者は若いのに達者よね。物語るのが楽しいんだろうな。

谷原秋桜子「鏡の迷宮、白い蝶」・・・あれもこれもと趣向がぱんぱんに盛り込まれてますな。細かい伏線と暗合に満ちた、華やかな一編。でも、この手がかりは判らんわあ。

鳥飼否宇「天の狗」・・・まるで天狗が起こしたような、幻想的で不可能性を誇る謎。それも解かれてしまえば興醒めか。などと思っていると強烈なオチが。

高井忍「聖剣パズル」・・・ラノベに擬態した歴史ミステリ、それもかなりがっちり。歴史に興味が薄い当方、頭が付いて行かないです。限られた紙幅の中でキャラクターが凄くたくさん出てくるお話を読んでいるようで。しかし、この幕切れはそんな意外なものだろうか。

東川篤哉「死者からの伝言をどうぞ」・・・ゆるゆるのギャグを乗せて語られるのは、非常にオーソドックスなフーダニット。消されてしまったダイイングメッセージ、というアイディアが良いです。

飛鳥部勝則「羅漢崩れ」・・・書き出しから凄く雰囲気のある文章で、おっ、と居住まいを正してしまった。このアンソロジーの中でも特に短い作品だけれど、どこへ連れて行かれるのかわからぬまま話を追っていくと、謎の解決とともに立ち上る恐怖が。キレのよさでも随一かと。

初野晴「エレメントコスモス」・・・これも大人な短編。いろいろな伏線や小道具の意味が綺麗に反転していく様は道尾秀介にも通ずる味わい。一瞬、現実から遊離するような結末の光景も綺麗であります。

深緑野分「オーブランの少女」・・・異世界の醸成、ドラマの完成度とも高い新人さんです。ただ、ワンアイディアというか本格ミステリとしては飛躍に乏しいのでは、と。

杉江松恋「ケメルマンの閉じた世界」・・・評論枠。ミステリとしてどうか、ということを論じているわけではないし、かなり短いのでミステリ版ちょっといい話、みたいではあります。背景となる世界の変化がミステリとしての構造にどのように影響を与えていったのか、とかまで考え始めると、ちょっとやそっとではいかないのだろうけれど。


確かによく出来た作品揃いだったけれど、全体に小粒かな、という感。あくまで好みの問題ではあるけれど、これは本格ミステリなのかなあ、これが現代本格というなら僕はもう追わなくてもいいかなあ、というものもあり。
あと、短編ではアイディアを量ぶちこむのが必ずしも良い事ではない、という気がしてきました。

自分好みの作品が少ないというのは寂しいことであるよ。そろそろ引退かな。

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