2011-07-10

アガサ・クリスティー「七つの時計」


『チムニーズ館の秘密』から四年ぶりの冒険もの。『チムニーズ~』と同じ舞台や、共通した登場人物も。
物語の中心になるのは、朝方まで遊んで昼過ぎまで寝ているような有閑階級の若者に、クリスティ作品ではお馴染みのお転婆なヒロイン。
これから物騒な事件が起こるとは思えないほど、長閑で緩いユーモアをもった語りで物語は始まります。

初期クリスティの冒険ものの例によって、リアリティは皆無で。何しろ、秘密結社のメンバーは時計の文字盤をかたどったマスクを被っているのですから。もっとも女史自身そんなことは充分自覚していて「美しい異国の女山師。国際的ギャング団。だれも正体を知らない謎の〈ナンバー7〉 ――なにもかも、百ぺんも小説のなかで読まされたことばかりだ」なんて台詞も飛び出します。

プロットや道具立て自体は既視感があるものですが。莫大な価値が見込まれるナントカを狙って暗躍する国際的な犯罪組織と、その企みに気づいて行動を起こす若くて向こう見ずな男女、という。それまで発表された冒険ものと大差ない感は否定できず、新味に欠けるよなあ、そう思い込んだ時点で実は既にクリスティの術中に嵌まっているのですね。
まあ大雑把なお話だよねえ、などと侮って読んでいると終盤に大きな驚きが待っていて。チェスタトン的ですらありますよ、これは。いや、まいりました。

小説としてはごたごたしたり、間延びしたりするところもあるのですが、単純にミステリとしてやられました。ミスリードが上手いわあ。
当たり前のことを言っちゃいますが、非凡ですなあ、クリスティは。

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