2011-08-17

アガサ・クリスティー「牧師館の殺人」


「誰かがプロザロー大佐を殺してくれたら、社会にあまねく貢献することになるのに」
平和そのもののようなセント・メアリ・ミード村、その牧師館で殺人事件が起こる。被害者は誰からも疎まれているような人物であったが、現場には偽装の跡も。

クリスティの十作目にして、ジェーン・マープルが登場する最初の長編です。
非常に判り易い偽の手がかり、多すぎる動機。現場やその周辺の見取り図が添えられ、探偵小説の原型に立ち返ったようでもあります。アマチュアリズムの楽しさ、というものも感じられて。そこのところにエルキュール・ポアロという馴染みの探偵役がいながら、新たなキャラクターを創出した理由があるのかも。別のスタイルで試してみたいという。

はじめのうち、ミス・マープルは有用な目撃者あるいは助言役というところで、出番も限られていてあまり目立たない。扱われているのがシンプルなフーダニットということもあって、ちょっと読んでいても締まりがないかな。良くも悪くもオーソドックスなカントリーハウスものだなあ。

それが、解決編に入るとマープルは、ひとが変わったように堂々として名探偵役を演じるようになります。
その謎解きですが、膨大なパズルのピースが全てあるべきところに収まる様が圧巻ですし、被害者の残した手紙をめぐる分析は意外性があり、かつ明晰そのもので唸っちまいました。
ただ、全体にやや煩雑なのは否めないし、細部の説得力に欠けるきらいも。

うーんと、設定がこなれていないかな、という印象です。犯罪計画の複雑さが作品世界にいまいち合っていないのでは。
これをシリーズものの第一作として読むか、(長い後になって続きが書かれるものの)単発作品と見るかでまた違ってくるかも。

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