2011-08-07

ジョン・フランクリン・バーディン「悪魔に食われろ青尾蠅」


ニューロティック・スリラーという懐かしい呼称が思い出される一作。昔、リチャード・ニーリイとか我が国でも結構話題になっていたよね。
これは1948年作と、この手のものとしてはなかなかにクラシック。

精神病院から二年ぶりに退院してきたヒロインが、周囲に対して微妙な違和感を覚えて疑心暗鬼になりますが、人から変だと思われたくなく(ついでに自分の認識にも自信が持ちきれず)いじいじ考え込む、という心理が描かれます。
更に文章自体にも巧妙な工夫があり。特に事件は起こっていないのに、読者にとっては作中の現実レベルを疑わせるような構成がされていて。ミステリとしての機知がちゃんと備わっている、という感じを受けましたよ。

それでも、はじめのうちはあくまで理性的な小説としての形を守っているのだけれど、やがて主人公は生きているはずのない人物と再会、そこから物語は一気に混沌としたものになっていく。
回想だか悪夢、あるいは妄想のようなものが時系列を無視して入り混じり、これらの要素がどういうレベルのものなのか読んでいて区別がつかない。しかし、同時にそれまでは伏せられていた過去の経緯を比較的少ない分量の文章でもって一気に知ることも出来るようになっているわけで、これはやはり充分に効果が計算されての構成ではないか。
また、読者にとっては理解できていると思っていたヒロインの存在がどんどん謎めいたものになっていく、という趣向も良いですな。

どう展開するのか予想もつかない筋を追ううち、終盤に登場する「悪魔」は唐突であり時代的な限界も感じさせるが、その分、迫力がある。
結末にはホラー的な手触りも残りますが、クライムノベルの要素も感じました。
セオリーに縛られないものを読みたいひとには、いいんではないかしら。短いしね。

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