2016-01-03

アガサ・クリスティー「クリスマス・プディングの冒険」


1960年に刊行された短編集で、新しいものと古いものが3編ずつ詰め合わせられている。
クリスティ自身による序文が付いていて、これによれば最初に収められている2作品がメインであるとのこと。


「クリスマス・プディングの冒険」 1960年に発表されたエルキュール・ポアロもので、長めの短編。原型になる作品「クリスマスの冒険」はすでに1923年に発表されており、それをふくらませたものだそう。
初期のポアロ短編に良く見られるようにプロットはホームズ譚の影響が強く感じられるものだけれど、クリスマスの雰囲気もしっかり醸成された実にロマンティックな仕上がり。

「スペイン櫃の秘密」 同じく1960年に発表されたポアロものだが、これにも原型になる短編があって、1932年に発表された「バグダッドの大櫃の謎」(『黄色いアイリス』収録)がそれ。
ミステリとしてはトリッキーなものの、全体の組み立てはいかにも不器用。むしろポアロの大げさな言動(シェークスピアの「オセロ」を引き合いに出す)など、ドラマティックな演出に重心が置かれているようではある。

「負け犬」 1926年とかなり初期のポアロもので、オーソドックスなフーダニット。意外な真相は用意されているけれど、いささかアンフェア気味か。

「二十四羽の黒つぐみ」 1940年発表になるポアロもの。読者にとっての推理の余地はあまりないものの、いわゆる日常の謎風の導入と、ちょっと捻った語り口が楽しい。

「夢」 1938年発表のポアロもの。奇妙な発端(これもシャーロック・ホームズっぽい)がとても魅力的で、そこから不可能犯罪へと発展していくのだからたまらない。肝心のトリックは相当無理があるけれど、いかにも探偵小説らしい展開が嬉しい。

「グリーンショウ氏の阿房宮」 1957年に発表されたジェーン・マープルもの。結構、複雑な事件で読み応えもあります。しかし、大した手掛かりも無しにマープルがあれやこれやを見抜いてしまうのはいかがなものか。


長編と比較すればトリッキーなものが揃い、つまらない作品もなかったとは思います。ファンなら楽しめる短編集でしょう。

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