2016-01-20
G.K.チェスタトン「ブラウン神父の知恵」
三年ぶりとなる新訳ブラウン神父です。
『ブラウン神父の無心』収録作に比べると、全体的に書き慣れた感じがします。プロットの複雑なものが増えている。ブラウン神父ははっきりと真相を語らず、ほのめかすことしかしない場合もあるので、ぼんやりと読んでいる置いてきぼりになるかも。
そういった作品のうちでは「ペンドラゴン一族の滅亡」が素晴らしいな。絵解きがされるまで、そもそも何が起こっているかわからないという状態だ。伏線も実にさりげなく張られている。間然とすることがない、とはこのこと。
ミステリというジャンルに対する批評性が感じられるものも見られて、ひたすらに愉快で一読忘れ難い「グラス氏の不在」ではシャーロック・ホームズ流の推理をからかったような節があります。また、「盗賊の楽園」では小出しにされる手掛かりから、いくつかの仮説が作られては崩されていたことが(最終的に)明らかにされます。しかし、この作品のあっけらかんとした幕切れはどうだ。
そして、何も特別なことは起こらないのにトリッキーな「ジョン・ブルノワの奇妙な罪」においては、「神父は現実・架空のたいていの探偵と、一つの小さな点で異なっていた――すっかりわかっている癖に、わからないふりをすることはけしてなかったのである」なんて書かれていて。
ブラウン神父譚は読み返すたびに新たな発見があるようで、今回も実に楽しかった。
百年以上前の作品なので気付きにくいけれど、神話的なイメージと同時にチェスタトンは当時の流行や実在する人物名をばんばんと放り込んでいるのですね。社会批評としての要素もあるのだろうが、今回の新訳では軽快な読み物としての面を強く感じました。
まあ、できれば年一冊くらいで読みたいものですが。
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