2011-02-26
coming soon...?
フィレス関連の新盤4種が届きました。
"newly remastered from the original master tapes" と謳われており、実際、音のレンジが拡がっていて、今風に聴き易いといえるか。先にリリースされた「A Christmas Gift for You」と同様、'90年代初めにアブコから出たCDと比べると結構印象が違います。すっきりしたウォール・オブ・サウンド、というのはなんだか変かも。
「The Sounds Of Love: The Very Best of Darlene Love」は昨年の春に出るはずだったのがずっと延期されていたタイトルでしょうか。"first multi label" コンピレーションということで、ブロッサムズとしてのの録音も。
「Be My Baby: The Very Best of The Ronettes」には初CD化の "I Can Hear The Music" が。レニー・ケイによるライナーノーツがついています。
「Da Doo Ron Ron: The Very Best of The Crystals」には未発表であった "Woman In Love" という曲が収録。
そして、レーベルコンピレーションにあたる「Wall Of Sound: The Very Best of Phil Spector 1961-1966」。
待ちに待ったリイシューでありますが、ラインナップはなんだか代わり映えしないものであって、正直喰い足りないぞ、と思いきや。
なんと六月にはオリジナルアルバム6枚入りのボックスセットが!
これまで待たされたことを思えば、六月なんてすぐだね。
2011-02-23
Manfred Mann / Mighty Garvey!
マンフレッド・マンが1968年に発表した「Mighty Garvey!」はなるほど良く出来たサイケポップのアルバムではある。マンフレッズ版サージェントペパーであるとか、ゾンビーズの「Odessey and Oracle」に比肩するなどという、いささか大袈裟な文章を見たこともある。けれども、僕にはこのアルバムが彼らの代表作とは思えないのだな。
'60年代イギリスにおいて群雄割拠するさまざまなバンドの中でも、抜きん出てヒップな存在と目されていたのが彼らだ。そのマンフレッズならではの個性といったものが、この「Mighty Garvey!」からはあまり感じられない。そもそも、他のバンドの作品と比較されること自体、違うだろうと。
フォンタナ移籍後のマンフレッド・マンは新加入のシンガー、マイク・ダボのソングライティングが開花していくことで、逆にそれまでの魅力であったジャンルミックス的なセンス、唯一無二といえる音楽性が見えにくくなった。この辺、痛し痒し、ではあります(彼らのもうひとつの面はサウンドトラック盤「Up The Junction」でうかがえる。純粋に劇伴であるインスト曲を構成・演奏できるロックバンドが当時、他にどのくらいいただろうか)。
「Mighty Garvey!」というアルバム、収録曲の制作には二年近い幅があって、ちゃんと聴けば音像に統一感がまるでないことはすぐわかる。そこにエディ・ガーヴェイというキャラクターを立て、あたかもトータルアルバムであるように擬態して、寄せ集めであることを隠蔽しようとしたのが本当のところだろう(また、コミックリリーフのように極端に違う曲調のものを放り込むことで、他の曲どうしでの違和感を緩和しているのだとも思う)。
もっとも、そんな時流に乗って制作したような作品ではあるが、個々の曲自体は素晴らしい。前述したダボとドラマーのマイク・ハグの書くメロディは、この時点で職業作曲家レベルに達していたのでは、という気さえする。
個人的に一番好きなのは "No Better, No Worse" という曲。魅惑のコード進行、絶妙なバックコーラスにメロトロン。確かにピーク時のゾンビーズと比較しても引けをとらない哀愁と麗しさである。典型的な時代の音ではあるけれど、ここまでくればオリジナリティなどどうでもいいかもしれない。
2011-02-14
三津田信三「作者不詳」
編集者・三津田信三を狂言回しにした三部作の二作目、ですが独立した作品として読めます。
いわくありげな同人誌「迷宮草子」、そこには7編の奇妙な物語が記されていた。そして、「迷宮草子」を一旦読み始めたものは、そこに書かれた物語に合理的な解決をつけなくては、怪異に取り込まれ、消失してしまうという。
ホラーとミステリを合体させた連作短編集、ということになりますか。
それぞれテーマとして、ドッペルゲンガー、衆人監視下での消失、毒殺、倒叙、孤島での皆殺し等趣向が凝らされており、その上、各編の文体を変えるなど同人誌としての体裁もしっかり。
謎解きではさまざまな可能性を検討され、多重解決めいた面白さも。そして必ず盲点を突く真相が用意されており、独立したミステリ短編として申し分ない。また、事件に解決をつけても、それですっきりさせてしまうのでなく、むしろ不気味な余韻を残すのもたまらない。
メタ趣向を突き詰めた感もあり、「迷宮草子」の作品に現実的に整理を付ける一方で、作品内現実レベルではどんどん得体の知れないものに侵食されていく、という顛倒が強烈です。
最後に「迷宮草子」そのものの謎に迫るのですが、ここで腰砕けにならずに、むしろさらに迫力が増していくのは流石。しっかり長編としても成立しています。
投入されたアイディアの密度がとんでもなく高く、刀城言耶シリーズを書く前からこの作家は凄かった、ということが確認できますねー。
2011-02-12
Jackie Cain & Roy Kral / Double Take
1961年リリース、ジャッキー&ロイのコロンビア録音盤。ジャケットにも大きく「STEREO」の文字が掲げられているけれど、非常に分離のはっきりしたミックス。右チャンネルにロイ・クラールの、左にはジャッキー・ケインのボーカル、センターに演奏となっておりまして、ボーカルが完全に分かれていることから男女デュエットの妙が存分に楽しめるようになっています。
ユーモラスな掛け合いからはじまり、抜群のコントロールによるぴったり決まったユニゾン、変化してのハモりあり、さらには分かれてのスキャットなど相当テクニカルに思えるのだが、聴き手に緊張を強いず、実に楽しく聴いていられる。いやあ、これは大した芸ですよ。
歌の正確さ、発音の明瞭さが音楽の質に直結している好例でありますね。
また、ピアノトリオによる演奏も軽快で洒落ていて、心地いい。全体が快調なグルーヴで貫かれており、一気に聴かせられる。
ところで、間奏部分でよく耳を澄ませると、右チャンネルからうなり声がオフ気味で聞こえてくる。してみると、ボーカルと演奏は同録なのかな。ロイ・クラールの一度に行っている演奏が別々の方向から聞こえてくるのは、近代的なステレオレコーディングとは逆の感じを受けて、なんだか面白い。
ロマンチシズムの配合も適量な、大人のカップルについてのコンセプト・アルバムとしても聴ける一枚。
2011-02-11
The Free Design / Kites Are Fun
フリー・デザインをもう一枚。こちらはファースト・アルバム、1967年リリース。
この時点で既に、基本的なスタイルがほぼ出来上がっているのは流石で、素人臭さは微塵もない。特に繊細でスリリングなアレンジはオリジナリティを感じさせる堂々としたものだ。
おそらくクリス・デドリックは若くして、ミュージシャン固有の作家性などというものにそれほど信を置かないひとではなかったか。積み重ねた音、その絡み合い方にこそ神が宿るのだ。
とはいっても、このアルバムからはまだ青さ・瑞々しさも聴き取ることができます。ボーカル/コーラスは凛として姿勢良く、背筋の伸びたものであり、そこここに漂うフォーク的な清新さも好ましい。
そして何より、優れたミュージシャンのデビュー作にのみに見られる、これから何か新しいものがはじまっていくような勢いが全体にみなぎっており、その表現は時に力強ささえ感じさせる。後に強調されていく小洒落た面よりも、ここではむしろスケール感の方が勝っている気がします。
初めてフリー・デザインを聴く人は、これが一番入り易いんじゃないでしょうか。
冒頭を飾るタイトル曲 "Kites Are Fun" はまさしく、名刺代わりに相応しい一曲。
2011-02-05
アガサ・クリスティー「チムニーズ館の秘密」
初期のクリスティ作品でも、その冒険ものを読んでいると、若々しく、日常に倦み、自ら波乱を待ち望んでいるキャラクターが登場します。金はないが元気とバイタリティには事欠かないこれらの人物はなるほど深みがなく、典型にしか過ぎないかもしれませんが、映画のセットのような背景に置かれたとき、とても輝いて見えます。威勢が良く、陽性のユーモアたっぷりの台詞もまた、魅力的で。
そして、この『チムニーズ館の秘密』には外国の王子や財界の大物、上流階級の勇敢なヒロインに、変装の名人である大泥棒までが登場。殺人事件や政治的謀略を巡って英仏両国の警察を巻き込みながらも、コミカルなやりとりが横溢しており、古き時代の優雅でお気楽なハリウッド映画を思わせます。
さらに、軽快な語り口だけでなく、意表をつく展開も間断なく起こり、巻を措くあたわざる面白さ。無駄なくお話を進める素敵なご都合主義に対して、必然性やリアリティなどを要求するのは野暮なもの。ただただ乗せられて、華やかな舞台でおこる冒険活劇を楽しめばよいですね。
ミステリとしてはまあ、大したことないと言えますが、それでも終盤のミスリードにはミステリ読みほど「まさか」と思わされるのでは。意外な真相がきっちりつくられているので、読後感も良かったです
2011-02-04
Free Design / Stars/Time/Bubbles/Love
不思議なのは、大してセールスがあったとは思えないこのグループが、1960年代後半から'70年代はじめにかけて7枚ものアルバムを出せた、ということ。
まぎれもないポップスでありながら、彼らの音楽は聴き手のほうを向いているような感じがあまりしないのだな。
なるほど、そのコーラスアレンジやハーモニーは大したものだけれど、反面、歌唱そのものはそれほど魅力的ではない。というか、声の印象が薄いです。
そして、意欲的なアレンジはだが、ときに危うく。特に他人の曲をカバーする際、アイディアを注ぎ込むあまり、結果として原曲の良さを損なってしまっていることもままある。
何より、下世話さが決定的に欠落しているのだ。彼らにとってポップソングはアート(技巧)であったのだろうか。
とはいえ、アルバムはどれも非常に洗練され、かつ丁寧につくられているのは間違いのないところ。
今の気分なら4枚目の「Stars/Time/Bubbles/Love」(1970年リリース)でしょうか。アレンジ面での遊びが曲の中にうまく溶けており、親しみ易くなった感じ。特に前半はリズミックなフレーズが多く、キャッチーといってもいい。けれど、一枚聴き終えたあとに残る印象はやはり、奇妙に淡白で。
決して大きな音楽ではない。けれど、音楽の楽しみはそれだけではないはず。
いや、「フリー・デザイン」という名のグループなのだ。聴き手の欲するそのものをトレースすることには興味は無かったのだろう。
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