2014-10-04
George Harrison / Living In The Material World
1973年、前作「All Things Must Pass」から二年半ほどのインターバルを挟んでのリリース。
スロウの曲が多めに入っているのだけれど、それらではサウンドがもっさりというか、どうも焦点がはっきりしないような感じ。オルガンはもっと控えめなほうが良かったんじゃあ。特にアルバム後半では似たようなテンポのものが並ぶことで、互いの印象を打ち消しあっているきらいもあります。続けて聴くと、かったるい。CDのボーナスに入っているシングルB面曲のような、リラックスした雰囲気のものがチェンジ・オブ・ペースとして混じっていれば、と思うのですよ。
そういった詰めの甘さもまた、ジョージらしいという気はしますが。個人的には軽快な曲が入ったアルバム前半部分のほうをよく聴きます。
シングル・カットされたのが "Give Me Love (Give Me Peace On Earth)" で、ジョージにとって二曲目のチャート・トッパー。なのだが、曲自体はあまりあざといところの無い素直なプロダクションのもの。当時の人気はすさまじかった、ということなのだろうな。タイトルを連呼する部分のメロディーがバックに対してずれていくのがフックといえば、そうか。スライドのキレは勿論、ジム・ケルトナーによるドラムの組み立ては素晴らしいし、クラウス・フォアマンの弾くベースもよく唄っています。
都会化したスワンプ・ロック、という印象のファンキーなミディアムが "Sue Me, Sue You Blues"。アラン・トゥーサンと共通するようなセンスも感じられ、ここ最近、特に気に入っています。サビ部分やエンディングのフュージョンっぽい演奏も格好いい。
"Don't Let Me Wait Too Long" はカスタネットやティンパニも入って、ガール・グループの線を狙ったのでありましょうか。ロイ・オービソン風の "Who Can See It" もそうですが、ライターとしてもシンガーとしてもそんなに器用というか何でもできるひとではないせいか、ジョージ・ハリスンの曲以外の何物でもない、という仕上がりですな。
新リマスターは2006年版と比較すると音圧が抑え目に。そのせいか、音像に奥行きが感じられるようになったのでは。高音も気にならず、落ち着いて聴けますわ。
2014-09-28
フィリップ・K・ディック「宇宙の眼」
ペバトロン陽子ビーム加速器の見学をしていた人々は、突然の装置の暴走による事故に巻き込まれ、負傷する。やがて病院で意識を取り戻すのだが、どうもこの世界は何かがおかしい・・・・・・。
1957年作品。たしか筒井康隆がこの作品とフレドリック・ブラウンの『発狂した宇宙』を多元宇宙ものの古典として挙げていた、と思う。僕は昔、『虚空の眼』のタイトルで読んでいます。
今回の文庫化は中田耕治訳ということで、元々は'59年にハヤカワSFシリーズに入っていたものらしい。新たに手が入れられているようで、特に古さを感じさせない文章になっています。
世界から感じられる違和感の正体や原因というのは、割合早い段階で明かされてしまう。そして登場人物たちは事態の解決へと動くのだが、状況の異様さはエスカレートしていく。ときに悪夢のようであり、ときに馬鹿馬鹿しく、あるいはとてもリアリスティック。この部分に惜しげもなくアイディアがぶちこまれていて、どんどんと引き込まれますな。枠組みはSFだけれど、もう奇想小説としたほうがふさわしいような、不条理なユーモアも感じられて。特に主人公の家がグロテスクに変容していくイメージなど絶品。
展開はスピーディーでかつ明快、それでいてディックらしさも充分。
気軽に読めるけれど内容も濃い作品でした。面白いよ。
2014-09-25
George Harrison / The Apple Years 1968-75
ジョージのアップル箱が来ました。
パッケージはダーク・ホース時代のと同じようなつくりになっています。大きさもほぼ同じ。
ただ今回、それぞれのディスクは紙ジャケットというか、デジスリーヴに収納されております。インナーバックが付いていて、そちらはオリジナルに準じているものもあれば、そうでないものも。
まあ、ちゃんと作られてはいるとは思いますけれど。中途半端にやるならジュエルケースのほうが良かった、という意見も出るかな?
入手するまでよくわからなかったのが、「All Things Must Pass」と「Living In The Material World」が新規リマスターなのか、それとも以前(「All Things~」なら2001年、「Living~」なら2006年版)と同じなのかで。実際に見てみると、この2タイトルも2014年のリマスター、と表記されていました。
特に「All Things~」のほうは、2001年版と比べると音圧はやや控えめで、中域がしっかり出ているような印象です。どっちにしてもごちゃごちゃしたサウンドですけれど。
あと、付属ブックレットは薄いものですが、写真にはいい紙を使ってますね。
DVDもそのブックレット内に収められています。僕は今回輸入盤を購入しましたがNTSCのリージョン0仕様であって、普通に視聴できました。が、中身は以前に見たことのある映像が殆どかな。
これからしばらくはジョージ三昧だ! という気にはまだなっていないのですが。まあ、ぼちぼち聴いていこうかな、と。
2014-09-23
The Association / Insight Out
1967年リリースのサード・アルバム。
アソシエイションのアルバムにはいいものが多いけれど、そのうちでもコマーシャルなピークならこれかと。何をやってもうまくいくような、そんな勢いに溢れているし、なんといっても2つの特大ヒット・シングル "Windy" と "Never My Love" があるのだから。
このアルバムと翌年の「Birthday」でプロデュースを手がけているのはボーンズ・ハウ。繊細なアレンジとLAのセッション・ミュージシャンによる意外なほど力強い演奏(特にドラム)がはっきりと捉えられている音像は、傑出したエンジニアでもあった彼によるところが大でしょう。
楽曲面では、これ以前よりも外部ライターの手によるものを増やしたことが良い風に出ているよう。それによって、かえってメンバーによるオリジナルのほうも明快な曲調のものばかりが採られることになったのではと思う。
また、ジャズ畑出身のクラーク・バロウズによるボーカル・アレンジも、アイディア豊富かつ親しみやすいもの。けっしてやり過ぎない塩梅がいいのですね。
全体としてフォークロックというより、はっきりとポップに振ったサウンドで。メランコリックなスロウでも軽やかさが感じられる仕上がりはとても好み。
甘く華やか、それでいて快活さもあって。つくづく良いアルバムだなあ、と。
英Now Soundsからのモノラル・リイシューにはボーナストラックがたくさん入っていて、その中に未発表であった "Autumn Afternoon" というアドリシ兄弟の書いた曲があります。お蔵入りにするには勿体無いような、なかなかの佳曲なのだけれど、ライナーノーツには当時渡米していた日本の有名グループもこの曲を録音した、と記されています。バリー・デヴォーゾンも関わっていたというこのグループはジャニーズのことらしいですな。
2014-09-21
アガサ・クリスティ-「ねじれた家」
「もうつぎの人殺しがあってもいいころね?」
「つぎの殺人ってなんだい?」
「探偵小説では、もう二番目の人殺しがいつもあるころですもの。真相を知っている人が、それを喋らないうちにやられちゃうのよ」
1949年発表のノンシリーズ長編。
資産家の老人が急死した。常用しているインシュリン注射、その薬瓶の中身が入れ替えられていたのだ。老人には年の離れた後妻がいて、老人の家族から疑いの目で見られている――というお話。
タイトルはマザーグースの歌詞からきており、事件の舞台となる邸宅も指しているのですが、ねじれた家に住むねじれた人々、というほどには異常な人間は出てこない。
ユーモア味が薄いわりにサスペンスも控えめで、うっすらとした不安が全体を支配しているようである。
この作品、クリスティ自身のお気に入りのひとつであるそうで、実際に凄くよくできたミステリなのだが。
困ったことに、年季の入った読み手だとある先行作との類似に思い当たって、推理するより前に犯人の見当が付いてしまう。そうするとむしろ、このテーマがいかに料理されているか、というのが見所になるのだけれど。クリスティはさらにひとつ、別の趣向を重ねることで、真相を徹底して見えにくいものにしているようだ。
また、周辺を固める小道具の使い方が冴えてますな。遺言状をめぐる謎などは、それだけを取り出すと大したことはないのだけれど、プロットに絶妙な捻りを与えていると思います。
非常に手の込んだ作品ですが、本質はアイディア一点勝負。ゆえにあまり予備知識を持たずに読むのが吉かしら。
2014-09-15
The American Breed / Lonely Side Of The City
ロジャー・ニコルズがトニー・エイシャーを作詞家に迎えて書いた "Always You" という曲がとても好きだ。
最初に聴いたのはサンダウナーズというグループのヴァージョンだったのだけど、この曲が僕にとって特別なものになったのは2007年の再結成ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのものを聴いてから。39年のブランクを経て届けられた "there's always you / thank God for you" というフレーズがとても感動的に響いたのですね。
「Lonely Side Of The City」はシカゴ出身のグループ、アメリカン・ブリードが1968年にリリースした4枚目にして最後のアルバム。韓国Big Pinkからのリイシューです。
この一曲目にも "Always You" が入っていて。サンダウナーズのほうがストリングスも入ってドラマティックであるけれど、こちらはシンプルな分メロディの良さがより伝わりやすいと思う。乾いたドラムの音も好みであって、比較すればやや落ち着いて都会的な感じかな。まあ、どちらも良いのね。
このアルバム、アナログA面にあたる前半が穏やかなサンシャインポップといった趣でとても好みです。オリジナル曲はメロウな出来であるし、カバーではピート・アンダース&ヴィニー・ポンシアの "New Games to Play" という曲も演っており、これもソルト・ウォーター・タフィーあたりを思わせる楽しさ。
そしてA面の終わりにはまたロジャー・ニコルズの曲で、ポール・ウィリアムズと書いた "To Put Up With You" が取り上げられていて、しみじみと聴かせてくれます。
一方でアルバム後半になると、ぐっとMORポップス寄りのものや土臭いアレンジのもの、ソウルっぽい曲なども試みてはいるけれど、逆に個性があまり感じられなくなっているようではあります。そこそこではあるものの、芯になるような強力な曲がないのも正直なところ。
客観的に見ると、バブルガムでヒットレコードを出していた彼らが、セールスの落ち込みとともに色々と試行錯誤していたわけで。全体とすれば中途半端な作品かもしれませんが。
まあ、個人的には捨て置けない、というところであります。
2014-09-14
マーガレット・ミラー「悪意の糸」
マーガレット・ミラーなんて読むのは何年ぶりだろう。1950年の作品だそう。
ミラーというと語り手が自分自身に嘘をつき続けるようなミステリの印象が強いのだけれど、この作品はずっと平明。陰鬱さもあまり感じず、心理の書き込みも抑え目で、全体の雰囲気やプロットは凄く私立探偵小説っぽい。
主人公は女医であるシャーロット。彼女は若い女性からの中絶手術の依頼を断るのだが、後になってその患者のことが気になり、住所を訪ねて行く。家の持ち主である患者の叔父はみるからにうさんくさい男であり、かつ何かを隠しているようであった。言付けを残して帰宅したシャーロットは、ガレージで何者かに殴られ、気を失ってしまう。
シャーロットが仕事の範囲以上にその患者のことを気にかけるのは、その境遇に不倫をしている自らを重ね合わせてしまったからなのだが、そのことによって自らも脅威にさらされる羽目になってしまう。ここら辺りからは巻き込まれサスペンスとしての要素も加わる。
途中で事件性のある出来事が起こってからは刑事が登場。こいつがやたらにクールな野郎であって、台詞のほうもワイズクラックふう。そうすると、シャーロットはヒロインっぽく見えてくる。
真相のほうは可能性が限定され過ぎているため、割りと見当が付き易くなっている。しかし、その開示シーンの迫力・説得力は流石にミラー。また、意外なくらいに伏線の綾もよくできている。
何より、旦那のロス・マクドナルドがまだ駆け出しといっていい時分に、ミラーがこれをものしたというのが驚き。
というわけで、僕の持つマーガレット・ミラーのイメージとは少し違いましたが、コンパクトでありながら内容は濃く、非常に形よくまとまったミステリでありました。
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