2015-02-21

The Action / In My Lonely Room


昨年、英国のTop Soundsというところからリリースされたアクションの初期音源です。彼らがパーロフォン・レーベルと契約する以前のものを4曲収録。アセテート起しらしいのですが、聴ける音にはなっています。

1965年にアクションはデッカのオーディションを受けていたそうで、そのときの録音が3曲。
マーサ&ヴァンデラスのカバー "In My Lonely Room" は後にパーロフォンからも出されますが、既にアレンジは出来上がっています。ジョージ・マーティンのプロデュースがクリーンで滑らかなものであったのに対し、こちらは生々しいバンドの表情が捉えられているようで、なかなか。録音バランスが悪く、バックコーラスやギターが聞こえにくいものの、スタジオライヴのような演奏の熱はそれを補って余りあるのでは。
"You'll Want Me Back" はインプレッションズのスロウを、そのままバンドで演ったという印象。オリジナルに比べてとても簡素な編成なので、ちょっと面白みがないかな。
"Why You Wanna Make Me Blue" はテンプテーションズの曲ですが、これは格好いい。性急さとしなやかさが同居した、これぞアクションといった仕上がりです。

最後の "Fine Looking Girl" は1964年の録音で、アクションの前身バンドであるボーイズによるパイ・レコード向けの(おそらく)デモ。レジー・キングの手になるオリジナル曲ですが、マージービート風であって個性には乏しいかな。

2015-02-16

Robert Lester Folsom / Ode To A Rainy Day: Archives 1972-1975


ロバート・レスター・フォルサムが唯一のアルバム「Music And Dreams」(1976年)をリリースする以前、友人たちとともに制作していた音源です。昨年、米国のAnthology Recordingsというところから出されました。
元々は2トラックのオープンリールで録音され、それを8トラックテープにコピーしたものを知り合いに向けて売っていたのだそう。こう書いても若い人には何のこっちゃ判らないだろうな。8トラというのは大昔のカーステレオにも使われていたのですが。

学生が自分の家や倉庫などでレコーディングしたテープなので、音質は良くないし録音バランスもラフ。元が2トラックとあって、いくつかあるインストを除けばモノラルに近い定位のミックスです。
しかし、えらいもので曲のほうは悪くない。自主制作ものにありがちな独りよがりなものがなく、どれもはっきりとしたメロディを持ちコンパクトにまとまった曲ばかりです。
「Music And Dreams」を聴いたときにもちょっと思ったのだけれど、ニール・ヤングの影響が感じられるものがありますな(ちなみに2トラックで初めて録ったのが "Southern Man" だったそうだ)。"On And On" というちょっとヘビーな曲など、本当にニール・ヤングそっくりなのだが、出来は凄く良い。他では "See You Later, I'm Gone" というのが "Helpless" っぽいな。
また、"Show Me To The Window" は「Music And Dreams」にも収録されていた曲で、こちらのヴァージョンはさらに飾らないというか、フォーキーらしい仕上がりです。

全体に「Music And Dreams」ほど落ちついてはおらず、若々しい表現でありますが、メランコリックなメロディはやはりこのひとの持ち味。ただ、このサウンドではちょっと他人には勧めにくいかな。
ところでこの作品のリイシュー・プロデューサーとしてクレジットされているのが、何とドン・フレミング。同名異人ではないかと思ったのだが、まさにティーンエイジ・ファンクラブやソニック・ユースのプロデュースも手がけていた当人らしい。何でもロバート・レスター・フォルサムとドン・フレミングは若い頃からの友人だったとか。いやあ、わからないものだ。

2015-02-15

アガサ・クリスティー「魔術の殺人」


「あなたは、どのくらいまでわかっていて、ジェーン?」
ミス・マープルは、鋭くキャリイの顔を見あげた。
二人の婦人の眼と眼があった。
ミス・マープルは、ゆっくりいった。
「かりに、わたしの考えがたしかだとしたら・・・・・・」

マープルは女学生時代の知り合いであるキャリイが危機にさらされているのでは、という曖昧な相談を受けて、目的を隠しキャリイの屋敷に滞在することとなる。
くだんのキャリイという女性は三度も結婚しており、そのたくさんの家族たちと共に暮らしていた。ただ、誰からも彼女は憎まれてはいないようだ。マープルは何かはっきりとしない違和感を覚えるのだが。


1954年発表の、ジェーン・マープルもの長編。
メインとなる事件で使われているトリックは実に単純というか、ひねりのないもの。純粋に犯人を推理しながら読んでいけばわかるかも。
一方で、マープルが真相に気づく契機となったと述懐する、あることがひっくり返った趣向は秀逸です。

誤導には結構あこぎなものがある。銃声に関する証言や心臓がどうこういう会話など、結局は何でもないものとして片付けてしまっているけれど、特に前者は二つの方向をもつ誤導であって。単純に捜査の方向を誤らせるという意図とは別に、その証言をしたものを読者に疑わせるという効果が見られる。
そういう小さな積み重ねがあるため、マープルをひっかけるために行なわれた犯人の偽装工作には、クリスティ作品に慣れ親しんできた読者ほど裏を読んで「まさかあのパターンか」と思わされるのではないか。

ただ、あれこれ工夫は見られるもののミステリとして芯になる部分が、せいぜいが短編を支える程度の小粒さであることを救うところまではいっていないと思う。また、前半は結構締まった仕上がりですが、後半に起こる事件の扱いがいかにも乱暴であって、いかにもプロット上の要請から置かれたという感じがします。
雰囲気は良いし楽しくは読めたのだけど。

2015-02-08

Jellyfish / Bellybutton


ジェリーフィッシュの残したアルバム、「Bellybutton」(1990年)と「Spilt Milk」(1993年)が2CDデラックス・エディションで出ました。米Omnivoreからのリイシューです。
大量のデモやライヴ音源が入っていますが、今回初出となるものは無いようです。個人的に二枚のアルバムに関しては出たときに聴いていたのだけれど、それ以外のリリースは追いかけてなかったので、なかなか新鮮。


ジェリーフィッシュを聴いていると、しょっちゅう「こういう曲、どっかで聴いたことあるなあ」と思うのだが、圧倒的な完成度による迫力でねじ伏せられてしまうのだ。引用がマニアックなものに陥っておらず、ダイナミズムを生んでいる、といったらよいか。
その点デモ(といっても殆どアレンジは出来上がっているのだが)の場合、そこまでプロダクションを詰めている訳ではないので、比較的アイディアが判り易い。コーラスだけをとってもクイーンだけじゃなく、ELOやビーチ・ボーイズ、あるいはゾンビーズっぽいなあと思ったり。今となってはそれもほほえましく感じるな。

今回のパッケージではブックレットにメンバーによるコメント、各曲の解説がついています。勿論、本編もリマスターされていて、基本的にはいいリイシューだけれど。
「Bellybutton」収録の "I Wanna Stay Home" のイントロがやけに短いものに差し換わっています。シングル・ヴァージョンか何かと間違えたのでしょうか。
あと、「Spilt Milk」のジャケットもおかしい。本来、"Jellyfish presents Spilt Milk" と書かれているはずが、"presents" の部分が空白になっている。


決定版とはいかなかったよう。ちょっと残念。

2015-02-03

フィリップ・K・ディック「聖なる侵入〔新訳版〕」


ディックの生前、最後に出された長編。これも旧訳で読んでいると思うんだけど、さっぱり記憶にないなあ。

乱暴に言うと前作『ヴァリス』で説明された世界観をそのまま小説に仕立てたもので、神が目覚め、成長し、やがて悪の力と戦うというお話。今回は最初っからいかにもSFらしい設定で始まります。
ちらっと「ヴァリス」という言葉も登場しますが、直接ストーリーに絡んでくることはない。ただ、作品内では『ヴァリス』にあったのと似たエピソードがいくつか見られます。

SFの文法を駆使しながら、新しい神話のようなものをでっち上げようとしているという感じで、エンターテイメント小説として見ると引きが弱い。
また、この作品内での幻影として扱われる世界があって、それはあるキャラクターの願望を反映しているのだけれど、同時にそれは読者である我々が実際に生きている現実に近いものでもある。ちょっと『高い城の男』っぽいですかね。その幻影の世界を否定(あるいは肯定)することで、間接的に作品の外側にある現実世界を俎上に乗せているようだ。

『ヴァリス』より読みやすいし、まとまりもいい。しかし、この作品も魅力的なイメージに乏しい上、終盤の展開などあまりに安い。読者を説得する力に欠けていると思う。思弁小説とSFの狭間で妙にバランスを取ってしまったせいだろうか。

そもそもこの作品は人生がうまくいっているひとたちに向けて書かれたものではないのだろう。もう若くはない、いい歳をして未だに現実との折り合いに悪戦苦闘している誰かのための、祈りに似た何かだ。

2015-01-31

三津田信三「シェルター 終末の殺人」


編集者兼作家である三津田信三は「シェルター 終末の殺人」という長編作品を構想していた。
「世界規模の核戦争が勃発した後、ある核シェルター内に生き残った数人の男女の間で、有ろうことか連続殺人が起こる。下手をすると自分たち以外の人類はすべて死んでいるかもしれない極限状況の中、なぜ連続殺人が発生するのか」
その取材の為に、三津田は実際に核シェルターを備えた屋敷を訪れたのだが・・・・・・。


カバー裏の作品紹介には「"作家三部作" に連なるホラー&ミステリ長編」とあるのですが、今作においてホラーの要素は控えめ、クローズドサークルでの連続密室殺人を描いたミステリとして展開していきます。誰が犯人かは勿論、なぜ、初対面の人々の間で連続して殺人が、しかも密室となった部屋で起こるのかが大きな謎。
事件の大枠は三津田自身のアイディアを具現化しているように見えたが、やがて別の物語をなぞっているのでは、という疑念も浮かび上ががってくる。このあたりから、謎がさらに深いものになっていきます。犯人うんぬんよりも、全体として一体何が起こっているのか? を強く意識させられるのですね。また、ことさらにメタフィクション性が言及されるわけではないが、使われている密室トリックの人工性が強いため、読者からすれば虚構性を意識せずにはいられない。

大雑把な構造はクリスティの『そして誰もいなくなった』なわけで、読者の期待値が高まるなか予想をどう外すか。解決はとても丁寧に組上げられているにも拘わらず、設問の難度が高い分、印象が弱くなったきらいは否めません。
それを措いても、後半の展開がスリリング。充分に愉しみました。

2015-01-24

The Iveys / Maybe Tomorrow


軽快な演奏に、時にバブルガム的であるキャッチーさ。1969年に制作されたアイヴィーズの唯一のアルバムは、当時は日本と西ドイツ、及びイタリアでしかリリースされなかったそうであるけれども、それもうなずけなくはない。時代に対してちょっとそぐわなさそうなポップスであって、やはりビートルズ、しかも中期あたりの影響が非常に強く感じられます。ジャケットの方もニコッと笑顔で、アイドル然としたものだ(しかも、どうやらこの写真は左右反転しているらしい)。
急いで仕上げられたせいか全体にもこもこしたミックスもまた、いかにも垢抜けなさを感じさせますな。このアルバム収録曲のうちいくつかは翌年、バッドフィンガーとしてのデビュー盤「Magic Christian Music」にリミックスされた上で流用されるわけなんだけれど、そちらのほうが骨格のはっきりした明快なものに仕上がっているのは確か。

プロデュースは彼らをひいきにしていたアップルのマル・エヴァンズが5曲、残り7曲をトニー・ヴィスコンティが担当。
ヴィスコンティによれば、もともとは売れっ子プロデューサーであったデニー・コーデルがシングル盤の制作を請け負ったらしいのだけれど、走ったり遅れたりを繰り返すグルーヴの悪いドラムに我慢がならず、アシスタントであったヴィスコンティに丸投げするかたちでセッション途中に出て行ってしまったらしい。そして、なんとかそのシングルを完成させたヴィスコンティが、その流れでアルバムトラックも(グリン・ジョンズの助けを借りつつ)仕上げた、ということだそう。

ギターを中心にした陽気な曲調から、大胆にオーケストレーションを配したミドル・オブ・ザ・ロードなものまで、バラエティに富んだアレンジは逆に個性を弱めてしまっているところもあるのだけれど、後のハードポップとは違うクリーンなギターの音など'60年代ポップスのファンにはなかなかにたまらない。
また、作曲はピート・ハムとトム・エヴァンズが大体半分ずつを分け合うかたちでありますが、ピートらしい泣き節はこのころは未だなく、その分、トムがとても瑞々しいメロディの "Beautiful And Blue" や "Maybe Tomorrow" を聴かせてくれます。

全体にまだ青臭さを残した、未成熟なポップソング集であり、これ単体ではどうということは無いのかもしれませんが。いや、この軽味や無邪気さが今となってはなんとも捨て置けないな、と。