2015-07-18

The Rolling Stones / The Marquee Club: Live In 1971


今更なので、簡単に。
僕が買ったのはブルーレイ版+CDに、「The Brussels Affair」2CDがバンドルされたやつ。最初に入手したものはブルーレイの映像に縞が走る不具合があったのだけれど、無償交換で綺麗な画で見ることができるようになりました。

古くからブートで出回っていた映像ですが、さすがにオフィシャルなものは比べ物になりませんな。内容としてはスタジオライヴ的な雰囲気であって、ライヴにしてはラフなところが少なく、まとまりが意識される演奏だと思います。
改めていいな、と思ったのは "I Got The Blues"。スタジオ・ヴァージョンだとエコー処理のせいか、英国ロックらしさが残っているように思えるけれど、ここではまんま'60年代スタックス。ストーンズのソウル・ミュージックに対する愛情がむき出しで出ているようで、うれしくなります。
あと、"Bitch" ではギターリフをミック・テイラーが弾き、リードをキースが取っていますな。「Sticky FIngers」のブックレットを読むと、最初はぱっとしない曲だったのが、遅れてやって来たキースがテンポを上げてギターを弾くと凄く良くなった、というアンディ・ジョンズの証言がありますが。実際、レコードではどうだったのだろう。



同梱の「The Brussels Affair」は1973年のライヴ。「Goats Head Soup」からの "Dancing With Mr. D." や、"Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)" あたりが聴きものですね。ミック・テイラーのギターは自由自在に浮遊するようで、滑らかさからは管楽器的なニュアンスさえ感じます。
この時期はビリー・プレストンもいるせいか、とんでもない勢いがあります。ただ、ときにそれが行き過ぎて、テンポ早目の曲ではひっかかりがないようなところも。個人的には、もっとグルーヴのある演奏が好みなんだよなあ。

2015-07-12

法月綸太郎「怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関」


怪盗グリフィンの2作目ですが、9年も経っているので前作の内容は覚えてないのです。気楽な冒険活劇だったと思うんだけど。
今作の装丁画には猫がたくさん。どことなく不思議の国のアリスっぽいイメージだなあ、と思っていたら作品の方もちょっと関係がありました。

『ノックス・マシン』がミステリのモチーフを使ったSF短編集だったのに対して、こちらはそれを裏返しにしたような様相です。
特にごりごりのSF談義が続く序盤、作者によるフィリップ・K・ディックへの愛情が爆発していて、これは楽しい。しかし、普段ミステリしか読まないひとにはどうかしら、トゥー・マッチなんじゃないかと心配しますけど。
陰謀らしきものもちらちら垣間見せつつ、前半は主にグリフィンの(ニック・ヴェルヴェットばりの)怪盗ぶりが楽しめます。

第二部に入ると、物語は謀略ものとしての色を濃くしていきます。動きそのものは乏しく、とんでもな理論やそれに基づく秘密の研究についてのディスカッションが繰り返されて。このあたり、まるっきりのミステリの作法ですね。背景はともかく、実際のところはSFらしい特別な事件はなにひとつ起こらないまま進んでいきますが。

終盤に入り、SFとしての本性を現したと思ったら、さらにそこを飛び越えていく展開が待っています。ここはカート・ヴォネガットみたいな味もありますね。
また、落としどころは古典的といえなくもないけれど、書き振りがスマートなんだなあ。

ジャンルにこだわるひとには向いていないかもしれませんが、この作者らしさを充分に感じさせつつ、物語の楽しさに溢れた作品でした。BGMは勿論、ザ・フーの "Won't Get Fooled Again" で。

2015-07-11

Ronny And The Daytonas / The Complete Recordings


ロニー&ザ・デイトナズの2CDコンプリート盤、米Real Gone Musicからのリイシューです。別名義でのものや未発表4曲を含めて48曲、全てがモノラル・ミックスで収録されております。ヴィク・アネシーニが手掛けたマスタリングのほうは音圧控えめで、自然な鳴りを意識したもののよう。

しかし、初期のホッドロッド曲はつまらないですな。デビュー・ヒットの "G.T.O." ではリーダーの(というか実質ソロ・プロジェクトですが)バック・ウィルキンがまだ高校生だったのだけど、今聞くとそんなに面白くない、勢いに欠けるロックンロールといった印象。アコースティック・ギターがリードを取るのが個性といえばそうですけれど。また、この "G.T.O." のヒットを受けて制作されたアルバムの曲も、サウンドこそ迫力のあるものに改善されていますが、基本的にはジャン&ディーンのフォロワーといったつくりで特長があまり感じられない。
やはり、ぐっと良くなるのが "Sandy" からです。この曲はウィルキンが2トラックのレコーダーを使って一人で録音したものを元に、スタジオで後から音をかぶせて制作されたものだそうで、ひときわ内省的なサウンドはそのせいでしょうか。また、この曲のシングルB面がインスト・ヴァージョンですが、別アレンジながらスロウのサーフ・インストとして中々の出来。ただ、残念ながらマスターテープが無いようで、これは盤起こしの収録です。

ところで、バック・ウィルキン自身によるライナーノーツを読むと、アルバム「Sandy」までプロデューサーを務めていたビル・ジャスティスという人物、彼はウィルキンの母親のビジネス・パートナーでもあったそうなのですが、そのジャスティスが横領をしていたことが発覚した、と。それで縁を切らざるを得なくなったわけだが、ジャスティスはマネージャーでもあったため、ウィルキンは自分ひとりで仕事を切り回していかなければならなくなった、とのことです。結局、以後は大したヒット・レコードは出せなかったのだが。

まあそれはともかく。彼らは1966年よりレコード会社をそれまでのMalaから大手のRCAに移し、そこで5枚のシングルをリリースしています。時代を反映したように洗練されすっきりとしたサウンドになっていますが、丁寧に作られ、ポップでどれもそこそこはいい曲でありますね。

2015-07-06

クリスチアナ・ブランド「薔薇の輪」


1977年にメアリー・アン・アッシュ名義で出された長編。『ゆがんだ光輪』からは20年ほど後の作品になりますね。この頃、すでにクリスティは亡くなっていたし、謎解き小説の時代はとっくに過ぎていたか。

こんなお話。
成功した女優エステラの娘には障害があった。シカゴのギャングであり、今は投獄されている夫・アルから妊娠中に暴行を受けたせいだ。その夫が病気による特赦により出所、一目娘に合おうとやってくる。戦々恐々とするエステラたちと、古臭いギャングのスタイルを英国でも通し続けるアル。
で、悲喜劇的なおかしみを感じさせる文章に乗って快調に読み進めていくと、やがて殺人が起こる。そこで登場するのは事件の地、ウェールズに住むチャッキー警部。こちらは『猫とねずみ』以来、なんと27年ぶりになります。

ミステリとしては関係者たちが口裏を合わせて何かを隠している、というもの。
この作品が発表されたときブランドはすでに70歳くらいだったはず。しかし、ごく限られた材料を使ってこれでもか、というくらい錯綜した状況を創り出す手際は健在であります。また、チャッキー警部が相当な切れ者ぶりを発揮してみせる、推理のスクラップ&ビルドの過程も充分に面白い。

正直なところをいうとフーダニットとしては弱い上、そもそもいちばん根本的なところがパズラーとして組み立てられてはいないように思う。また、往時の作品のように、解決とともに恐怖が立ち昇ってくることもない。
しかし、腐っても鯛。細やかな伏線は張り巡らされているし、それらの中にはミステリ的な意味での伏線とは違う、物語における象徴的なものとして配置されているものもあって。こういうのを見ると、やっぱり書き手として凄いな、と思います。

というわけで一見さん向けではありませんが、ブランドという作家に魅せられたひとなら、時代によって変わったもの・変わらなかったものひっくるめて失望はしないのではないかしら。

2015-07-05

The Rolling Stones / Sticky Fingers


長考および逡巡のあげく入手したスーパーデラックス版、ようやく開封。
本体は120ページほどあるハードカバー本。写真は勿論、アルバム制作過程を追った文章は読み応え十分。イアン・スチュワートが "Wild Horses" でプレイすることを拒否した下りなど、なんやそれ、と思いました。


奮発してスーパーでデラックスなやつを買ったのは当然、リーズ大学でのライヴ「Get Yer Leeds Lungs Out」がこれにしか入っていないからで。'71年3月13日に行われたこのライヴはBBCで放送され、それを元にしたブートレグもありましたが、モノラルでしかも頭2曲が欠けていました。今回は全曲をステレオミックスで聴くことが出来る、というわけであります。
ミックテイラーがいいですね。アタックはないのに太い音。この時期はまだ "Jumping Jack Flash" のアレンジを崩さずに演っているのも嬉しい。逆に "Satisfaction" はファンキーな演奏になっていて、これは格好いいな。


順序は逆になりますが。CD2であるボーナス・ディスク、5曲ある別テイクはもちろん正規ヴァージョンよりはラフなんだけど、エッジの効いた音の感触はむしろこちらのほうが好みであります。クラプトン入り "Brown Sugar" は猥雑なエネルギーに満ちた演奏であって格好いい。"Wild Horses" も感傷的な甘さが控えめな感じがして良いです。また、"Bitch" はエクステンディッド・ヴァージョンとあるけれど、これも別テイクですね。曲後半、どこへ向かうかわからない展開がスリリング。
ディスク後半には、リーズの次の日にロンドンはラウンドハウスで行われた昼夜2回のショウから5曲が収録されています。これもいいんですよ。すごく気合が入っていて、流しているような部分がないタイトな出来。なんとかフルセットで出してもらいたいものだ。



僕が「Sticky Fingers」というアルバムで一番好きな曲は "Sway" だ。'70年代はじめの時点で英国のバンドが、これだけ骨太で雄大、かつ叙情性がしっかりと結びついた表現を獲得したことは凄いと思う。また、こういった曲でもストリングスが入っているのが、英国らしさでもあるか。

はずれ。

2015-06-27

Herman's Hermits / The Best Of Herman's Hermits


独Bear Familyから出ましたハーマンズ・ハーミッツの2CDコンピレーション、副題は「The 50th Anniversary Anthology」。
パッケージに "sounds great in true STEREO" と書かれているように、売りはリアル・ステレオ・ミックスです。全66曲入りのうち以前にもステレオ・ミックスが存在していたのは8曲のみで、それらも含めた全曲についてマルチ・トラックから新たにミックスが作成されたとのこと。
ゾンビーズに「Decca Stereo Anthology」というのがあったけれど、あれのハーミッツ版ということになるかな。もっともクレジットを見ると、これらのミックスはアビー・ロード・スタジオで1991年に作られたとある(マスタリングは最近です)。当時、Abkcoあたりからリリースにストップがかかったのでしょうか。

ともかく期待通り、音がいいですわ。元々ステレオ・ミックスがあった曲でも分離が良くなったよう。全体にドライというか演奏のエコーが薄く、生々しくも現代的な響きであって。初期のシンプル目なプロダクションのものではスタジオ・ライヴ的な印象を受けます。また、フェイドアウトの曲でもエンディングが長くなっていたり、あるいはフェイドせずに完奏されていたりという楽しみも。
さらに、デビュー前の未発表デモも2曲収録されていまして、これらのみミッキー・モストではなく、ホリーズのプロデューサーであったロン・リチャーズがクレジットされております。


140ページに及ぶブックレットにはピーター・ヌーンのインタビューがあり、かなり長文で読みでがあります。
これによれば、サム・クックが亡くなった後に、ミッキー・モストがアラン・クレインとマネージメント契約をしていたこともあって、追悼レコードを作るためにスタジオ入りしたところ、そこには(モストの手がけていたもうひとつのグループである)アニマルズもいたと。で、アニマルズは "Bring It On Home To Me" を演り、ハーミッツは "Wonderful World" を取り上げた。この "Wonderful World" でギターを弾いているのはジミー・ペイジ、ドラムはボビー・グレアムだとか。
その他にも、ジョン・ポール・ジョーンズがセッションで重要な役割を果たしていたことがわかるし、ミッキー・モストがモンキーズのプロジェクトから声をかけられていた、なんてことも書かれています。

写真も満載。これはザ・フーとのツアー中のもの

2CDぱんぱんに収録されて、まとめて172分。ぼくはハーマンズ・ハーミッツのシリアスぶったところのない音楽が好きなのですが、レア・トラックというのはそれなりの出来。やっぱりシングル曲がいいな。
あと、時代を追っていくにつれて、初期のスカスカのサウンドから、厚みのあるものに変化していくわけですが、そうするとピーター・ヌーンの声が活きにくくなるのね。

2015-06-22

アガサ・クリスティー「ヒッコリー・ロードの殺人」


エルキュール・ポアロの秘書であるミス・レモンは普段、機械のように冷静かつ有能なのだが、今日はつまらないミスがあった。何事かを気にかけているようで、聞けばミス・レモンの姉が働いている学生寮で盗難が相次いでいるのだという。その盗まれるものというのが電球や塩、着古したズボンといった金銭的な価値のあまりないものばかりというから奇妙だ。興味を引かれたポアロは調査に乗り出す。


1955年発表のポアロもの長編。
珍しくミス・レモンの出番が多いし、ポアロがホームズ譚の「六つのナポレオン像」に触れたり、過去の事件に対する言及があるのもファン・サーヴィスだろうか。
明るく、ユーモアを交えた筆致でテンポよくお話は進んでいくのだが。

正直、ミステリとしては締まりがない。中途の興味を繋ぐためか絵解きが小出しにされているため、最後の推理が小粒に感じられてしまう。盗難の謎に対する解答もお座なりだよなあ。
さらに、本作に限ってはキャラクターの書き分けがあまりよくないため、フーダニットとしての興味がいまひとつ掻き立てられにくい。おかげで、大胆なトリックもあるのに、十全な効果があがっていないのだ。

スリラー系作品のアイディアを謎解き小説に転用したのかな。安易というか、作品としての緊密さが感じられませんでした。