2015-07-06

クリスチアナ・ブランド「薔薇の輪」


1977年にメアリー・アン・アッシュ名義で出された長編。『ゆがんだ光輪』からは20年ほど後の作品になりますね。この頃、すでにクリスティは亡くなっていたし、謎解き小説の時代はとっくに過ぎていたか。

こんなお話。
成功した女優エステラの娘には障害があった。シカゴのギャングであり、今は投獄されている夫・アルから妊娠中に暴行を受けたせいだ。その夫が病気による特赦により出所、一目娘に合おうとやってくる。戦々恐々とするエステラたちと、古臭いギャングのスタイルを英国でも通し続けるアル。
で、悲喜劇的なおかしみを感じさせる文章に乗って快調に読み進めていくと、やがて殺人が起こる。そこで登場するのは事件の地、ウェールズに住むチャッキー警部。こちらは『猫とねずみ』以来、なんと27年ぶりになります。

ミステリとしては関係者たちが口裏を合わせて何かを隠している、というもの。
この作品が発表されたときブランドはすでに70歳くらいだったはず。しかし、ごく限られた材料を使ってこれでもか、というくらい錯綜した状況を創り出す手際は健在であります。また、チャッキー警部が相当な切れ者ぶりを発揮してみせる、推理のスクラップ&ビルドの過程も充分に面白い。

正直なところをいうとフーダニットとしては弱い上、そもそもいちばん根本的なところがパズラーとして組み立てられてはいないように思う。また、往時の作品のように、解決とともに恐怖が立ち昇ってくることもない。
しかし、腐っても鯛。細やかな伏線は張り巡らされているし、それらの中にはミステリ的な意味での伏線とは違う、物語における象徴的なものとして配置されているものもあって。こういうのを見ると、やっぱり書き手として凄いな、と思います。

というわけで一見さん向けではありませんが、ブランドという作家に魅せられたひとなら、時代によって変わったもの・変わらなかったものひっくるめて失望はしないのではないかしら。

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