2015-09-21

Pugwash / Play This Intimately (As If Among Friends)


パグウォッシュの四年ぶりになる新作が出ました。今回もコンピレーション「A Rose In A Garden Of Weeds」に続いて、米Omnivoreからのリリース。いよいよ本格的に全米デビュー、ってところですかね。
制作は地元アイルランドではなく、ロンドンにあるキンクスのコンク・スタジオでなされ、エンジニアはガイ・マッセイが担当。

本作では準レギュラーになりそうなニール・ハノンの他にも、実に目立たない形でゲストが加わっています。
オープナーであるキャッチーなギターポップ "Kicking And Screaming" ではジェフ・リンが「シャウト」というかたちで参加していますが、これはムーヴの "Do Ya" で聞こえる「look out baby, there's a plane coming」というセリフのパロディのよう。
そして、レイ・デイヴィスとアンディ・パートリッジがバックボーカルを務める "Oh Happy Days" は「Village Green Preservation Society」期のキンクスに対するオマージュのように思えますね。なお、アルバムのデザインも、アンディ・パートリッジのアイディアを参考にしたものらしい。

その他もカラフルでいい曲が揃っています。キラキラしたネオアコ "Lucky In Every Way" の瑞々しさは格別だし、A&M的ボサノヴァ "Clouds" はバカラックを通り越してペイル・ファウンテンズのよう。"You Could Always Cry" ではカントリーっぽい味付けがメロディを引き立てているし、後期ビートルズな "Hung Myself Out To Dry" やマッカートニー的な楽曲とジョージ・ハリスンを思わせるサウンドがマッチした "Silly Love" などなど、いろいろと聴き所は多いね。

まあ、トータルで見ればそんなには変わっていない、いつものパグウォッシュなのですが。あえていうなら、全体的にはやや穏やかで、取っ付き易くなったかも。タイトル通りインティミットな感触ね。

2015-09-20

エラリー・クイーン「チェスプレイヤーの密室」


エラリー・クイーンのペーパーバック・オリジナルというのは、要は他人が書いた作品をクイーン名義で出したもので、これまではあまり関心が無かった。『恐怖の研究』にはフレデリック・ダネイが参加しているというけれど、あれも詰まらなかったもの。

そんなペーパーバック・オリジナルで未訳の26作品より内容の優れた3作がセレクトされ、〈エラリー・クイーン外典コレクション〉と銘打って出されることとなりました。監修はおなじみ飯城勇三氏。
『チェスプレイヤーの密室』はその第一弾で代作者はジャック・ヴァンス。1965年発表作であり、密室殺人が扱われています。クイーンで密室というとあれやこれや思い浮かびますな。本作品のものにはああいった捻った趣向はないけれど、その分、実に強固な謎が設定されています。

解説によれば、代作者を使ったペーパーバック・オリジナルのそもそものコンセプトが、それまでのクイーンとは違った傾向の作品を出して読者層を広げる、というものであったということです。
その一方で実作の執筆は、梗概の段階でマンフレッド・リーがチェックを入れては代作者に何度も書き直しを命じ、最終的に小説の形になった文章にもリーが徹底的に手を入れる、といったものだったらしい。
実際に読んでみると、確かにオーソドックスな謎解き小説なものの、作風というか展開からはクイーンぽさはあまり感じられない。あえて挙げるなら登場人物一覧がそれらしいか。

ミステリとしてはフェアプレイに配慮して、しっかり組み立てられたもので。密室トリックについては時代を考えればオリジナリティも主張できそうだし、手掛かりも面白い。プロットにも意外性があって、よく練られていると思います。
そういったように楽しめる作品なのですが、エラリー・クイーンのテイストを求める読書には向いていないですね。値段も安い本ではないし、うーん。

2015-09-19

The Dave Clark Five / A Session With The Dave Clark Five


デイヴ・クラーク・ファイヴ、1964年の英国ファースト・アルバム、日本独自のリイシューです。ボーナス・トラックには当時、日本盤に差し替えで入っていた4曲が追加されています。
発売元のオールデイズ・レコードというのはオリジナル発表後50年以上経った作品ばかりを扱っている会社であって、まあつまり、このCDもそういう類のものだ。
パッケージは紙ジャケットなのだが、写真の色味がきつい上にタイトルの位置が変更されている。さらには裏側のデザインはほぼ原型をとどめていなくて、これならプラケースの方が良かったなあ。

さて、肝心の音質のほうですが。
一聴して、インスト曲ではヒスノイズが目立つものの、意外に悪くないぞ、と思いました。ライナーノーツはついていますが、どのようなマスターを使ったのかは記載されていません。アナログ盤起こしなのか、あるいは日本で保管されていたサブマスターを使ったのか。
しかし、試しに2008年に出たコンピレーション「The Hits」を引っ張り出してきて "Can't You See That She's Mine" で聴き比べてみると、やはり「The Hits」の方がクリアですね。例えば、セカンド・ヴァースに入る直前に掛け声が小さく入るのだけれど、これが今回のリイシューでは聞こえなくなってしまっている。

まあ、手に入る材料で頑張ってみました、というものでしょう。何となく流している分には、そんなに不満はないです。音楽そのものは格好いいですしね。
来年になったらセカンドの「Catch Us If You Can」も出すのかしら。デイヴ・クラーク公認のものがリリースされない限り、手を出してしまうかも。
なお、デイヴ・クラークについてはライノ・レコード創立者によるこんな記事があって。欲をかきすぎたために売り時を逃して、にっちもさっちもいかなくなっているような。

2015-09-13

The Isley Brothers / Brother, Brother, Brother


アイズリー・ブラザーズ、1972年の公的には3人編成による最後のアルバム。

この時期の作品では、ソウル・ミュージックに白人的な感覚を溶け込ませるという創意がわかりやすい形で出ています。
彼らは作曲も自分たちでするのですが、この前作にあたる "Givin' It Back" では例外的に全曲がカバー、しかも一曲を除いてすべて白人ロック/ポップ畑のものでした。そして、この「Brother, Brother, Brother」ではキャロル・キング作が3曲に、ジャッキー・デシャノン作のものが1曲取り上げられていて、それらはオリジナル曲と並んでいても全く違和感がないアイズリーの音楽になっています。
演奏のほうは鍵盤が多用され、アコースティックな感覚が強いもの。ファンキーな曲であってもヘビーさがさほど前面に出ない仕上がり。曲によっては、バックトラックだけならウェストコースト・ロックを聴いているような瞬間があります。

ゴリゴリのファンクではないし、甘々なスロウでもないというものが多く、スタイルとしては過渡期なのですが、アイズリー版ニューソウルといった感じがして、とても好きな作品です。
収録曲ではオープナーである "Brother, Brother" の柔らかな感覚が抜群。でもベストはやはり "Work To Do" かな。軽快でキャッチーなファンクで、ここでもアコースティック・ギターが効いていますね。

2015-09-06

アガサ・クリスティー「ブラック・コーヒー」


戯曲2作を収録。

「ブラック・コーヒー」は1930年に発表したエルキュール・ポアロもので、クリスティ自身が手掛けた脚本としては初めての作品だそう。
ある科学者が研究の成果を盗まれることを恐れ、ポアロに調査を依頼する。だが、ポアロが屋敷に到着したときには、すでにその主は死亡していた。というお話。
いかにも舞台らしいと思えるのは、暗転している間に何かが起こるという趣向。あと、色んな人物が大した理由もなく、疑わしそうな動きをするところがあるね。
ミステリとしては毒殺を扱ったものだが、その機会を持った人物はきわめて限られているため、犯人の設定にはあまり驚きを生み出す余地はなさそう。
ただし、犯行の動機から展開されるロジックには面白いところがあって、この部分はむしろじっくりと消化することができる小説向きではないかしら。
ともあれ、ヘイスティングズとジャップというレギュラーも登場して、そこそこ楽しめました。
なお、クリスティはこれ以外にポアロが登場する戯曲を書いていないそうで、オーソドックスなパズラーは芝居にはあまり向いていない、ということでしょうか。

もうひとつの「評決」はだいぶ離れて1958年の作品。こちらにはシリーズキャラクターは出てきません。
犯罪が行われますがミステリではなく、観念的なメロドラマという感じ。プロット上のツイストは用意されてはいるものの、人間関係の動きを中心に据えてあって、雰囲気も重い(もっと皮肉なテイストを強調すれば、いわゆる「奇妙な味」になりそうなお話なのですが)。
正直、娯楽性はあまり高くはないかな。

対照的な2作品でしたが。合わせ技で一本、には少し足りないか。

2015-09-05

The Isley Brothers / It's Our Thing


アイズリー・ブラザーズが1969年、自身のレーベルであるT-Neckからリリースした最初のアルバム。
これ以前3年ほどの間はモータウンに所属し、あてがわれた曲ばかりを歌っていたのに対して、ここでは全ての作曲・プロデュースを自分たちで手掛けている。結構な変化というか冒険であったと思うのだが。
ジャケットに写る姿を見てもそれまでが揃いのスーツであったのが、いけてるのかそうでないのかはわからないが、とにかく個性的な格好であります。

アイズリーの音楽には都会的で洗練されたイメージがあるが、ここで聴けるのは粗野さを残したダイナミックな表現だ。
何といっても大ヒット・シングルである "It's Your Thing" が強力なファンクなのだけれど、ちょっとレイドバックした感覚がある。ホーンが入っているせいもあるか。いくつかあるスロウに土臭さが感じられるのも、この時期ならでは。
また、ロナルド・アイズリーのヴォーカルは後年のようなウェットな色気は控えめで、荒々しく、ストレート。ゴスペル的な感覚も濃く出ているように思う。

アルバムには "It's Your Thing" 以外にもゴツゴツして乾いた感触のファンクが多く並んでいて、スライ&ファミリー・ストーンやジェイムズ・ブラウンの影響が強く感じられる。そして、そこに個性を与えているのは存在感あるギターではないか。チャールズ・ピッツという、スタックスでもセッション・ミュージシャンとして活動していたプレイヤーによる演奏で、切れのいいリズムギターはもちろん、スロウの曲でもその硬めの音が独特の緊張感を生んでいる。

スタイルは借り物かもしれないけれど、自分たちのやりたいことで押し切った、そんな勢いがみなぎっている。まだまだ若々しくて、けれんの無い歌声が気持ちいい。

2015-08-31

マーガレット・ミラー「まるで天使のような」


文無しになったばくち打ち、ジョー・クインはヒッチハイクの途中で降ろされた土地にある、小さな宗教施設で施しを受ける。そこでクインの世話をしてくれたシスターは、彼が探偵免許を持つことを知って、ある人物についての調査を依頼する。簡単な仕事に充分以上の報酬、軽い気持ちで仕事を請け負ったクイン。だが、それは未解決のままになっている事件を掘り返すとば口であった。


ミラーのこれはやはり代表作のひとつでしょうか。以前は早川からでしたが、創元から新訳版が出たので久しぶりに再読。
1962年発表作品で、ロス・マクドナルドなら『縞模様の霊柩車』の頃だ。

主人公であるジョー・クインはふたこと目には皮肉な軽口を叩く、シビアな状況にもユーモアを見出そうというキャラクター。依頼された範囲の仕事は片付けたものの、疑問点を放ってはおけず、クインは関係者たちの過去を調査し始める。どこにでもありそうな港町と、異様な宗教施設を行き来しながら。
やがて、終わったように思われていた事件は、クインの行動が触媒になったかのように再び動き出す。

私立探偵小説のように展開しながら、複雑な謎解きの妙味が楽しめる。間に挟まれるドラマも印象的で、クインの成長劇としても読める。
だが、そんな雰囲気は、終盤に事件の真犯人が登場してから一変。
ひとがひとならぬものへと変貌していく強烈な不安感。ここからが、まさしくマーガレット・ミラーだ。

周到に伏線が張り巡らされているため、真相を一足先に見通すことも可能だろう。しかし、用意されているのは意外性だけではない。
すべての時間が停止するような結末。ここより先には何もない。パズルとスリルを止揚しながら、ミステリ的な問題を越えた異様なものが噴出する。

凄いな。唯一にして極上。